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■共感できる詩 できない詩

「詩集」を読んで(12) 不定期刊

最近読んだ詩集3冊

古今東西の「詩集」を図書館で、片っ端から借りて読む。その繰り返しの中から、自分の詩を相対化し、質を高める――。
そういう目標を持ち、この1年半ほど詩集を読んでいる。当初は、買うこともあったが、今はほとんど図書館で借りる。特に2000年代以降の最近の詩集はそうしている。図書館に置いてあるものだけでも、おそらくほとんどの詩の領域をカバーするだろう。
お金は使う必要なし。

とはいえ、借りる本の中で、詩集は3分の1もあるだろうか。ノンフィクションや実用書、小説の合間にぽつぽつ借りている。

大崎清夏「指差すことができない」

青土社 2014年4月刊

なんでこんな本が手元にあるのか…と借りてきた本の山の中で埋もれていたのを見つけた。
詩の勉強のために、とりあえず「中原中也賞」の受賞作だけでも読んでやれ、と思い、ネットから予約し近くの図書館に届いたのを借りてきたものだ。
この詩人、ウィキペディアによると、早大文学部(一文)出の40歳(誕生日がくれば)。画像検索すると女性のようで、ワセダに通う文学少女がそのまま年齢を重ねてきた、といった感がある人。
大学卒業後、映画の宣伝をしていたそうで、僕とどこかですれ違っているかも。確かに、映画宣伝業界には、見た目がこんな感じの子(女性)はいるな、と。
この1冊をパラパラ見る分には、自分の感性には響かない、通常の現代詩とほとんど大差がなかった。おそらくこの後に出した詩を読んだとしても同じ印象だと思う。
この詩集は、第19回(2014年)の中也賞受賞だが、その前年の受賞者は僕と同じカルチャーセンターで大A川先生の講座を受けている(時々しか来ないが)細田傳造さんの「谷間の百合」である。細田さんの詩集は3冊ほど読んでいるがなかなか味わい深い。彼は70歳過ぎて、当時中也賞の最高齢受賞者だったという。現在も80歳近いが詩作を続けていらっしゃる。

四元康祐「単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に」

思潮社 2017年5月刊

こちらは、そこそこ面白く、反体制というか、反権力というか、反天皇というか、左がかった表現とエロスと、くだらない言辞が時々のぞく。僕の感性に結構合う作品が多い。作者の存在は、日経新聞で毎週日曜日に「詩探しの旅」という4月から始まったエッセーで知った。詩集より先に、エッセーを2冊読み、年齢的に僕に近く、老化に抗うような自身の闘病体験をユーモア込めて書いたエッセー風の小説(?)が面白かった。
詩集は今回初めて読んだのだが、若い女性の現代詩などとは比べ物にならない。現代詩は現代詩だが、それほど難しい表現も使わないのも、僕には、この詩集と詩人との距離をそれほど感じさせなかった。つまり、共感できる詩集であった。

四方田犬彦「離火」

港の人 2021年9月刊

名前は知っていて、時々新聞や雑誌に映画や文学のことを小難しく書く大学教授(元明学大)と思っていたが、今はもう大学教授ではないようだ…。今年1月に出た小説「戒厳」(講談社)は、この人が1980年前後にソウルの大学で日本語を教えていた体験を下敷きにしたものだが、これがなかなか面白かった。
詩集も出しているというので、この詩集「離火」も読んだ。
これは、まず、読めない漢字が多かった。ルビも振っておらず、現代詩の体をとっているが、ハイブローでペダンチックな印象。
先の小説で感じた、読みやすさ、スピード感のある筆致が詩では鳴りを潜めていた。
真っ赤な表紙に、まったく日本語として一般化していない表題がちょっと近づきにくい。それが現代詩詩集らしい。「先生が書いた本についていけないこちらが悪いのか…」という印象である。

詩集は分厚いノンフィクションや小説、学術書ではない。だいたいがページ数も少なく、行間も空いてスカスカである。
じっくりゆっくり味わえもするが、パーッと読み飛ばす、拾い読みする中に読み返したいもの、光る詩を探す
それがひとつでもあれば、御の字である。その意味で四元の詩集はそこそこよかったので、別の詩集もいずれ読んでおきたい。


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