「口に蓋」
おまえ百まで
わしゃ九十九まで
などとは言わない
が
「百歳まで生きる」
――と
百歳時代を先取りするよう
生きてやる生きてやる
百まで
と
むなしい言葉を空気のように吐いていた
それが自分。
百までへの折り返し
五十のころ だったか。
そこからさらに
十年。
百まで生きてやる
との
言葉はもう吐かない 吐けない
自分。
百まで生きてやる
の本意は
叶わぬ かなわなかった自己実現。
色金出世…名誉 か
それら欲への
埋め合わせ
ながく 人よりながく
生きてやるとの思い。
ところが
百まで生きることの困難と迷惑
そんなことは知っちゃいない
想像もしない――
そんな自分が
生きてやる生きてやる
と呪詛することは
もうしない。
まだ
生きてやる生きてやる
というのなら
長生きしても いいこと
など 何ひとつ ない
と
その口に
蓋してやろう。
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