「ぼくは…道化」
あの女に ゆび一本触れてもいないのに
溺れてはならぬ おぼれてはならぬ
と
ぼくが ぼくに言う いい続ける
だから
彼女の 醜いところを 考えてみる
左のこめかみにある ちょっと目立つシミ
彼女のルーツが海外であること
ちょっとやぼったい 地味なファッションだったり
シングルマザーで 別れた夫がメンタル病んでたとか
非正規でずっと働いている――
どうだろう どうだろう
醜いというか
あの女の ネガティブな点を数え挙げる
卑しいぼく
すべて本人から聞き知ったことだけれど
あの女だけでなく 誰にでもあるような話
小さな瑕でしかない話
よく見ないと 気づきもしない
ミセスモデルのような お姿
五十路近いけれど
張りのある胸を反らすと
ぼくはどうしても どきどきしてしまう
「ランチ行きましょうよ」
と
声をかけてくれる あの女
彼女の瑕を数えて
なんとか距離をおこうとしている
その魅力に抗えない自分の滑稽さ
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