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■対人支援の現場の人が書いた詩

「詩の本」を読んで(34)

◇「齋藤恵美子詩集」
(思潮社 2017年9月刊)

筆者は、1960年東京生まれ。聖心女子大学文学部卒。博報堂を経て書籍編集や高齢者介護の仕事に携わりながら詩作を続けてきたという。
中也賞の候補に複数なったほか、いくつかの詩の賞も受けている。
この詩集に収録されている「最後の椅子」=写真=(思潮社、2005年)は、まさしく介護施設で働いた体験を下敷きにして書いた作品が中心で、以前も一度読んだのだが、今回、自分も介護の仕事をするようになったので改めて読んでみた。

僕が働くのはデイサービス(通所介護)なのだが、斎藤さんはもっと重い人が入る…たぶん特養とかで働いていたんだと思う。
認知症の程度、身体介護の度合いも結構高い人を相手にしていた印象。
入所者から戦争体験をよく聞いていた、というのもネタにしているから、おそらく20年以上前、彼女が40~50代くらいに体験したことが中心なのではないか。

名前が出ていたり、介護される人の歴史などなど個人情報大丈夫か、と思うような詩がある。もちろん、名前は地名ほかは書き換えて個人が特定されるものにはしていないとは思うが、詩という形をとってはいても、対人支援の仕事は守秘義務があるのに…いいのかね? とちょっと余計なことも思った。ただ、そこで見聞きしたことを詩にしたくなるのはわかる。
そして、それはなかなかに面白いのである。

自分が介護職に就く前に、この詩を読んだ際、この方は聖心女子大も出ていて、写真で見る分にはそこそこ美しい人なので、介護職の現場ではちょっと浮いていたんじゃないか、と勝手に想像した。
本人も、何かそこでの体験を自分の創作に生かそうとしていたんじゃないか、と邪な感想を抱いた。
とはいえ、認知症の入った高齢者を介護し、彼ら彼女らに向き合う視点はなかなかに確かなのである。
介護を抜きにしたほかの詩は、まあ現代詩の世界に収まる内容のもの、であり、僕はあまり共感するものではなかった。

同じ仕事に就いたという点で、気になる詩人、詩集である。

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