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「ガソリン」

 「マチヤですが ナオヒコさんいらっしゃいますか」
「いま 出ちゃってるわ」
 「あ どっか行ったんですかね」
「車 乗っちゃってったわね どこ行ったのかしら」
 「そうですか…」
「まあガソリン撒きに行ったようなもんね」

友の家に電話して 彼の母親とそんな会話
40年ほども前か

無目的にハンドルを握り
あてどなく 彼はドライブしていた
ガソリンを撒く――
なるほど 言い得た表現だ

ぼくもあてどなく
外をうろつく

うろうろ 無目的に
きのうも きょうも
そしてあすも
外をうろつく

やるべき仕事 やるべきこと
それがないわけではない
だが
あしたでも 来週でもいいような
それどころか
やってもやらなくてもいいような
仕事 ことどもだ

今のぼくは
どこかに座り
タダで時間をつぶせないか
その場を探し うろついてゆく

体の中の
わずかなガソリンを
撒きに行っている

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