「とぐろを巻く」
女が足を組んでいる―
組んでいるのは足というより 脚
片方の脚をもう一方に
巻きつけている
短かったり 太かったりしては
できない
ある程度長く 細い脚でないと
トグロを巻くように
両の脚を
巻きつけない
女はスカートをはき
巻きつけた 両の 脚と脚に
一分の隙間もない
つまり
パンツの奥は絶対に見せない―
両の 巻きつけた脚を
女は
解きはしない!
強い意思 底知れぬその強さ
強くつよく巻き付き合う
一分の隙間もない それなりに長く
美しい脚
それが 訴える
パンツの奥は見せない!
女は決して若くはなく
化粧っ気もなく
おせじにも 美人とは言えない
ひたすら
強く巻きついた
両の脚が 彼女の人となりを伝える
そんな女は 時々存在する
初めて見たのは
19歳の夏
原付免許を取りに行った免許センター試験場
「交通安全協会」の入会手続きをする女
薄暗い階段の踊り場 机一つパイプ椅子に座り
両の脚を巻きつけていた
入会手続きに並ぶ若い男たちに向かい
きつく きつく両の脚を巻きつけていた
42年も前の景色
そこは薄暗く そこだけが薄ら寒く
記憶に残る
電車の中で 両の脚を巻きつける女が
昔の記憶を呼び寄せた