「会社の人事」
「サラリーマンたるもの 部長くらいにゃ なっとかねぇとな」
柱の向こうに 声がする
そうだ そうだ 確かにそうだ その通り
会社の部長くらいに なっとかないと胸は張れぬ
そんな声を聞き そう思ったのは
次長になったころ もう20年以上前
気づいたら
部長にも手は届かず
会社員 正社員の人生に幕
幕は急に下りたんじゃない
ゆっくり ゆっくり 徐々に
ぼくの目の前で 下りていった
ちょっと待てよ!
と
声を上げるでなく
幕の外に飛び出し 新たなステップを踏むでなく
ゆっくり ゆっくり
下りてゆく幕を ぼくは ただ見ていた
「部長くらいにゃ―」
と言った男 後輩だった男
傍系部署に弾き出された
でも 部長さらにその上 副本部長になった
彼は言葉にした以上になった
それは それで立派なこと
ただ その彼も
「オレはこんなもんじゃねぇんだよ」
と
思い続けているに違いない
先輩のぼくを見ても 会釈もしない
ま 仕方ない
上にゆくも 下にゆくも
それが 会社の人事
人事は人事
人事は ひとごと 他人事 なのさ
もう すべてが 他人事なんだ
気にしない 気にしない
と
己が心に言い訳を重ねる
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