「じいさん もの語り」
じいさんは いつも同じことを言う
同じこと おなじことばかり
じいさんは来月米寿 満で88
じいさん――といっても 義父
わたしの妻の父親だ
ちょうど26年前の2月
さっぽろ雪まつりの時
あいさつに東京から
いまの妻と一緒に行った
じいさん 当時は
いまのわたしと同じ年齢だった
何年も東京と札幌でわかれていた
顔を合わせるのは年に1-2度か
それが 10数年前札幌を引き払い
わたしら夫婦の住まいから30分のところに
移り住んだ
ばあさん―もちろん義母―と2人暮らす
2人は同じ年齢
早生まれのじいさん
満州からの引き揚げ者
中学に上がるとき ひとつ学年落とされ
ばあさんと同じ学年に
出会いは駿河台の明大
ばあさんは 当時の短大のほう
そんな2人のところに
ことし就職する孫―わたしの長男を連れ 訪ねた
司法試験を何年もやった末
夢かなわず北海道で公務員になった
若き日のじいさん
ばあさんもそれに付いてゆき
別の役所に
30年余り それぞれ役所を勤め上げた
そのじいさん ばあさんの孫もまた
春から公務員
じいさんは じいさんなりに
その体験を語る――
オレは一番で入った
周りは若い連中ばかりだから
大将だったな…
そういう話を
同じ話を
わたしたちは
数限りなく聞いた
聞かされてきた
「地方」に出ることをじいさんは拒んだ
ばあさんが 勤めを辞めてついてゆかねばならない
それが当たり前の時代だった
結果 出世という階段を昇ることなく
妻と子との生活を優先し
じいさんは 役人人生を終え
いま 孫に何ごとかを 語る
同じことばかりなのだが
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