「おまわりさん」
手錠も拳銃も 持たない 持てない
制帽も制服も無縁
それどころかネクタイすら締めず
着たきりの薄汚れたジャケット
一週間そのままに 脂の浮いた髪をテカらせ
カメラと資料と地図の入ったバッグを肩から下げて
きょうも朝から署に入る
ぼくは ペンのおまわりさん
8時過ぎには朝礼だ
その前に副署長の隣のソファに陣取らなきゃ
おっと
もう奴が 他社が来てやがる
副署長と笑い声を上げている
ぼくの姿を認めると 奴 プイと横向いた
元来 言われたことしかできないぼくは
ひたすら署回り ペンのおまわりさん
特ダネなんて簡単に取れるもんじゃない
人員の少なさにヒーヒー言うだけ
最初から勝負は諦めてる
ヒマネタで紙面を埋めることしか思いつかず
早版の締め切りまで
とりあえず とりあえず
日々仕事するフリだ
「なんかあったら ポケベル鳴らしてください」
だ
社会正義のため
世の中をよくするため
と
この業界に入ったけれど
捜査権もないぼくらは
ただ事件現場に駆けつけて うろうろ 聞き込みするだけ
怪訝な顔され
「警察のほうから来ました」
と
県警記者クラブの記者証をチラリ
と
見せて おまわりさんのフリ 私服刑事てか
それでペラペラしゃべる人もいたりして
そう
ぼくは ペンのおまわりさん
ホシも挙げれず
おまわりさんなどと
言うのはおこがましいな
いったいぼくは 何だったんだろ