■「売れているもの」から学ぶ
「文学」と「作家」への道(5)
※「現代散文自由詩人の独り言」改
◇勝手に「林真理子」研究(2)
「文字と言葉のすべてが詩作につながる…わけでもない」のだが、林真理子作品を継続的に読んでいる。その理由は、本文のタイトルのとおりだ。
御年68歳の林真理子。日本文藝家協会理事長であり、昨年就任した日本大学理事長といった公職にも就く。
デビューから5年で直木賞を受け、タレント作家的として見られる時期も一時はあったが、柴田錬三郎賞、吉川英治文学賞などの文学賞を得た大御所作家のひとりである。
それでも、ご本人は「いまだ代表作も、ミリオンセラーもない」などと〝謙遜〟しているのだとか…。
半年前の僕なら、「林真理子のくだらない小説などは読むのは時間の無駄…」と思っただろう。
しかし、先に書いたようにエッセー「野心のすすめ」、小説「アッコちゃんの時代」を読んで考え方を改め、先に「林真理子」研究(1)を書いた。
林は小説、エッセーなど単著だけでおよそ200冊(ウィキペディアで拾うと)もある。それを少しずつツブし、ヒントを得たい、と思っている。
そのうえで、「くだらない」「価値のない小説」「読むのは時間の無駄」かどうかを判断しようかな、と。
1ページ30秒ほどで読めるとはいえ、結構な時間はかかるだろう。今回はとりあえず、読み終えた初期の2冊について。1年ほどの間に、いずれも「星」の字をタイトルに入れ込んでいるあたり、当時の、そして今も続く林真理子の上昇志向、野心を象徴するような作品か。
「星に願いを」(講談社、1984年1月刊)
内容
ぼくの感想
まだ世の中に出る前の自分自身を、主人公に投影した作品。もちろんフィクションだが、かなり素直に彼女自身の心情を素直な筆致で、しかもバカにできないレベルで書いていると映った。1954年生まれの彼女が28-29歳くらいに書いていた小説である。まあ、これくらい書ける作家は今も昔もいるのだろうが、なかなか感心した。
この小説のタイトルはもちろん知っていたが、田舎出の貧しい、チラシ広告を書く女コピーライターが、仕事と恋愛の成功を「星に祈る」みたいなイメージで読みだしたが、中身はもうちょっとシリアス、シビアで結構現実的、自分を客観視したものだった。
「星」というだけで、目に星が書かれているようなキラキライメージを持つのだが、表紙写真のとおり、「星」の写真はどう見ても太陽=日食である。夜空に輝く星、というよりは、ギラギラとこの世を照らし、時にはその光で身を灼き尽くし、再び光が陰るようなイメージに重ねているところが、作者の真意と見た。
「星影のステラ」(角川書店、1985年2月刊)
併録「だいだい色の海」
前作とは趣向、方向性を違えて物語を展開。それほど面白いとは思わなかったが、女対女の意識のぶつかり合いをうまく書いた中編といった印象。同時に収録されている「だいだい色の海」はちょっとできの悪い「太陽の季節」風の小説。これは主人公が男子大学生の視点で描かれており、これまた作者の成長をうかがわせる内容。
20代後半にはマスコミの寵児となった林真理子。ぼくより7歳年上だが、お世辞にも美人ではなく、大柄で口を半開きにし田舎っぽいイメージで、時代に乗せられたおもちゃみたいな存在に当時は見えた。フジテレビのキャンペーンガール、グラビアでヌード(がっかりおっぱいを披露)、NECのワープロのCMなどなどに登場していたが、当時大学生だった僕は「ブスなのによくマスコミは使うなー」と思っていた。
しかし、彼女は消費され、捨てられ、忘れられることなく40年近い年月を最前線、書き手としてはほぼトップランナーとして存在し続けているのである。結婚し、44歳で子供を産むなど、仕事も私生活も勝ち組なのである。
実にお見事。もうちょっと読んで、学べるところを探してやれ、と思う。
北海道から沖縄まで、大学・短大で文学を学ぶ学生や研究者は万単位でいるのだろうが、まともに林真理子を研究しようとしている人はいるだろうか。研究、評論の対象になるような100年後に残る存在ではないのだろうが、売れるヒケツを学びたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?