「名刺」
記者――
という二文字が刷り込まれた名刺が
胸を張っている。
「それ一枚でどこにでももぐりこめるんだぜ」
「誰でも会ってくれるんだよ」
そう言われたのが三十四年も昔
確かに、「それ」は魔法の「手形」
みたいな力を発揮することもあった
…かしら。
きょう、その生活が三十五年目に入った
喜び勇んで、頬膨らませて飛び込んだ業界
なんて…
うそ、うそ、うそっぱち――
自分が本当になりたかった「もの」って
それが、本当は
わからない
まま。
ただ、
魔法の「手形」は
ときどき、やっぱりマジックをすることもあったっけ
だから、
ときどきは、僕の気持ちをくすぐって
くれた。
気が付いたら
自分の人生が一巡りしちゃって
環(わ)になっていた。
その日がきちゃったんだ
その日がとうとうきちゃったんだ。
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