「ほがらかな声」
終点に向かう電車
人もまばらな夜の電車
隣の席から
老女の低い笑い声
何かを言っている
何かをしゃべっている
ちらりと見ると
80歳を超えたような
杖を持ち バッグに赤地に白い十字 ヘルプマークが揺れる
おばあさん 電話で何か話している――
いや 両手は膝の上にある
イヤホンを耳に入れたハンズフリーか
この年齢でそんな人がいるかしら
電車は駅に着いた
さっと腰を上げ 出口に向かいながら
ぼくは 彼女の耳を見た
右 左ともにイヤホンはない
彼女は 誰かと話していた
親しく語り掛ける相手は脳の中
言葉のやり取りが楽し気に
ぼくに伝わり 朗らかな声音が
低く 響いた
トシをとったら
それでいい それで