「汗/風」
「汗/風(風の中の汗)」
コンクリート カビ サビ 揚げ油 整髪料 香水 すえたからだ 機械油
地下の道という道がつながり
遮蔽物のない通路を風が吹く
それに乗って複雑だが
一つひとつに焦点をあてれば
一つひとつのにおいが立ち上がる
それぞれのにおいに
それぞれの主(ぬし)がいる
表情のない鉄とコンクリートとガラスで固められたビル
新築には新築の 古ビルには古ビルの
それに応じたにおい それを発している
地下鉄
日に何度も始発と終着の往き来
レールと車輪 パンタグラフと電線
摩擦し合う鉄と鉄
細かな粉を撒き散らす
そこにも確(しっか)とにおいがある
やっかいなのは すえたからだ
その主には感情がある
喜びの汗 疲れた汗
焦りの汗 進退窮まれりの汗
さわやかな汗 そんな「かおり」など
このビジネス街に漂うはずなど
ない
このにおいの風に身を任せる
そこに あなたが 私がいる