「消えた力士」
力士がぶつかり合う
相撲というものは
スポーツ
格闘技
とは言い切れないものだ
国技とか 神事 祭事 伝統文化であり
それが見せ物 興行として
長く各地で親しまれてきた
テレビ 新聞 マスコミが伝える
大相撲は
スポーツのひとつ だろう
だが その背景には
いま書いたとおりのものが横たわる
力士――
裸にまわしひとつの彼らが
体をぶつけあうのを見ると
スポーツ興行とは違う世界
それについて 考えが及ぶ
ある日
幕下と 十両に上がったばかりの
若い力士が
闘っているのを見かけた
土俵の上ではない
首都高速を走る車の中
2人は言い合いをし
車は猛スピードで走り続ける
すると
急ブレーキをかけた車が止まり
そこから
2人の力士が
外に飛び出した
浴衣姿の2人は
何ごとかを言い合い
殴り合いをしているように見えた
相撲取りだろ
けんかはやめて 相撲を取れ
後ろから見ていたぼくはそう思った
ただの けんか
若い力士同士が
土俵の外で
何を争っているのか
何ごとか
勝負をしているのか――
ぼくはそれを後ろから
見ているだけ
もつれあう2人は
突然 高架道の金網に上り
外に飛び出した
血気盛んな若い力士の
行く末が気になり
ぼくは2人の姿を追った
だが 高架の上にも下にも
力士の姿は見えない
消えた…
彼らの姿は
5月14日初日の五月場所
両国国技館に行って見るほかない
そう思い至った