【本の感想】日常の隣にある事象
「文学」と「作家」への道(38)
時代小説が読めない。歴史の教科書に載るような人物―特に戦国時代など―で興味を抱ける人が少ないし、人物関係を頭の中で描けず(どんなジャンルの小説でもだが)、苦手だ。だから、時代小説を手に取ることはない。
サスペンス・ミステリーも物語の背景、深みがあるものならともかく、犯人探し、トリックにも興味が持てない。
SFもやたら難しかったりして、その世界観に入って行けず、これまた手にすることはない。
いわゆる純文学。狭い世界観であってもその書き手に共感できるものは、西村賢太はじめ私小説的なものが好きで、手に取る、読んできた――。
この小説も、主人公は書き手の人生をほぼ投影したもので、短い作品ながら読みやすいし、共感できる部分が多かった。
◇西村亨「自分以外全員他人」(筑摩書房、2023年11月刊)
内容
ぼくの感想
わかりやすいタイトルがいい。すべて漢字で表記されたそれが、何か迫るものがあると感じる。
西村賢太(同じ西村姓!)の代表作「どうで死ぬ身の一踊り」(芥川賞受賞作の『苦役列車』よりこちらでしょう)に通じる、作者の諦観が沁みるのだ。
筆者のインタビューを読むと、ご本人もかなり自殺願望があった、今もあるらしい。
小説に書くことでその気持ちが昇華され、願望が解消されたかどうかは知らない。
物語の主人公は、ささいなことで犯罪となる暴力をふるうのだが、たぶんその部分は筆者とは違うだろう。
西村賢太的な、本当の乱暴、無頼漢ではないのだろうが、いろいろと共感できる部分があり、抑えた筆致もよかった。
日常の隣に突っ立っている本来なら遠ざけたい危険。それをなぜか呼び込んでしまう人物っているだろう。ぼくもそういう類のひとりだ。
引き取らないでいいはずの、つまらないトラブルに巻き込まれる――ま、身から出た錆でもあるが。
今後、どんな小説を書いていくのか。こういう人が、「文壇」で残っていけるのかどうか、関心を持って見守る。