分からなくてもいいから寄り添って|『そばかす』
2022年最後に鑑賞した作品は『そばかす』でした。1年の締めくくりにふさわしい、爽やかな気持ちにさせてくれる映画でとても嬉しくなったのを覚えています。
『ドライブ・マイ・カー』の三浦透子さんが単独主演を務めた本作は、メ〜テレシネマプレゼンツの(not) HEROINE moviesの第三弾。これまでこのシリーズでは『わたし達はおとな』『よだかの片想い』が制作されています。
30歳の蘇畑佳純(そばたかすみ)は物心ついた頃から恋愛がよくわからず、いつまで経っても恋愛感情が湧かない自分に不安を覚えながらも、実家でマイペースに生きてきた。母親からはいつ結婚するのかと、プレッシャーをかけられ、ついには内緒でお見合いを設定する始末。そんな折、中学の同級生の真帆に偶然再会する。急速に距離を縮める2人はルームシェアを計画するが……。
本作はアセクショナルの女性が主人公ですが、多くの方が共感できる普遍的な悩みを描いている作品になっていると感じました。
劇中では恋愛や結婚にフォーカスが当てられますが、それに限ったことではなく、みんなと違う感情や行動に悩むこと。このまま年をとってしまっていいのかと将来に漠然とした不安を覚えること。愛とか恋とかだけではなく、この世界に違和感や息苦しさを感じたことがある人には刺さる作品になっている気がします。
結婚してもいいし、しなくてもいい。子供がいてもいいし、いなくてもいい。これって普通のことなのに、まだまだ「結婚するべき」「恋愛するべき」という意識は根深い。自分も何気ない会話で「結婚するの?」「彼氏彼女はいるの?」と、もしかしたら人を傷つけていたかもしれないなと思う。よくないことはこれから変えていきたい。
映画の中で、結婚を迫るお母さんの気持ちも、お姉ちゃんがレズビアンかもしれないという妹の気持ちも、そっと見守るお父さんの気持ちも、3回離婚して冗談を言うおばあちゃんの気持ちも分かる。
ただ理解することはとても大事なんだけど、それよりももっと前に、分からなくても寄り添うことが必要なんじゃないかなと、この映画は思わせてくれました。
社会の偏見を変えるなんてそんな大それたことではなく、「1人でも一緒にいて心地いい人がいればいい」というような優しく爽やかなラストと、エンドロールで流れる三浦透子さんが歌う「風になれ」に背中を押され、きっと心が軽くなるはず。
中学の同級生の真帆との関係も心地よく、親友として確かな絆がありました。自分の感情を表に出さない佳純に対して、真帆は「男性(父親)」に対して愚直に怒りを見せる。お互いが自分が持っていない部分を尊敬し、きちんと言葉で伝えあっている姿に、抱えている悩みは違えどシスターフッドを感じられる。
▼▼『そばかす』に登場するごはん▼▼
合コンでの食事。「好きなタイプ」や「キュンとする仕草」などの質問に上手く答えられないから、もくもくと食べる。美味しいイタリアンも多分不味くなる食事会だ。
解散した後に1人でラーメン屋に行き、ラーメンと餃子を食べる姿がすごくいい。そこで形の崩れた煮卵をおまけでもらうのも良かった。
お母さんに騙されて連れてこられたお見合いで食べる食事。気まずい。
家族で食べる焼肉。みんなの感情がぶつかり合う山場となるシーンだけど、なぜか笑えて、そして泣けてしまう名シーンでした。
食事している時に感情が高ぶってしまうのはなぜだろうか。同じ釜の飯を食うことは、気を許して色々な感情が言葉になってしまうのだろうか。
なぜか皆の笑いが止まらなくなる、家族の朝食シーンもとても良かったですね。セリフじゃなく笑い声で伝える、この家族の可愛い部分。
それにしても、三浦透子さんは『ドライブ・マイ・カー』しかり、ドラマ『エルピス』しかし、すごく“いい感じ”で煙草を吸うなぁと思っています(わたし自身は非喫煙者ですが、いい感じなのは分かります)
以前書いた『ドライブ・マイ・カー』のnoteはこちら👇