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スリリングな一夜は『ボイリング・ポイント/沸騰』のレストランで。
このnoteでは映画に登場するごはんについてメモをしています。映画を観るときは「あ!食べ物が出てきた」「あれは何を食べているんだろう?」と、いつも気にして手帳にメモしながら鑑賞しています。
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そんな中、下半期一番楽しみにしていた作品『ボイリング・ポイント/沸騰』が公開されました!レストランが舞台で、なんと全編90分ワンショット撮影したという驚きの作品。公開劇場が限られているので、満席の回も多くあったようです。
本作では料理だけではなく、レストランの雰囲気、音、厨房の臨場感、開店前の仕込み風景、飲食店で巻き起こるトラブル、人間関係とこのレストランが抱える問題点など、見どころ満載の作品で個人的にはとても楽しめました!
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一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日。舞台はロンドンの高級レストラン。安くはないお店だと思いますが、そこまで気を張らずに入れそうな、カジュアル感もあるおしゃれなお店です。
映画はレストランの開店前からその様子を映し出しますが、前日に食材を発注していなかったツケが回り、衛生管理検査で評価は下がり、バイトスタッフは遅刻、予約ミスでオーバーブッキング状態。観客の全員が「この店、大丈夫かな…」と心から心配したと思います。
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本作は正真正銘90分ワンショットで撮影されていますが、わたしが本作でレストランの雰囲気、音、料理、厨房の臨場感をものすごく楽しむことができたのは、やはりこの撮影方法も大きく関わっていると思います。
レストランで流れるBGMの選曲と音量が絶妙!まるで自分もその場にいるような感覚を味わうことができます。
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料理人のマルチタスクは美しい
ハラハラ・キリキリする目が回りそうな厨房を映し出しますが、シェフたちが自分の持ち場で、マルチタスクで仕事をする様は観ていて興奮します。シェフたちの連携を観るのが好きです!
わたし自身は自宅で簡単なものしか作れないですが、料理の「段取り」が美しく進んだときは、なんだか嬉しいものです。それがプロレベルになると、一種の芸術のように圧巻です。
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「あのテーブルには前菜が出た」「あのテーブルにはメインを用意している」「あと数十秒でサーブできる」全てのテーブルの状況を把握して、適切なタイミングで美味しい料理を用意するシェフたちは、まさにレストランを支配する人々。かっこいい。
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対するホールスタッフもキャラクター豊かで個性的。パンフレットによると、18歳〜20歳というシェフ見習いやホール担当に多い若い世代の最低賃金は6ポンド56ペンス(約1,036円)ということで、物価の高いイギリスではあまり良い仕事ではなさそう。それゆえなのか、ホールスタッフの子たちはおしゃべりしたり、口説いたり、シェフたちに比べて仕事に忙殺されていない様子。
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しかしホールスタッフは直接お客様と会話をしなければならず、ホールならではの苦労があるのです。あからさまな人種差別を受けたり、女性客から男性スタッフへのセクハラ、フォロワーが何万人いると自称するインフルエンサーからの注文、そして厨房とのやりとり。わたしも飲食店でホールスタッフの経験があるので、お客様と厨房に板挟みになる気持ちは少し理解できます。大変だよね…。
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本作のフィリップ・バランティーニ監督も12年ものシェフ経験がある元料理人だそう。以前から、過酷な労働環境や様々なハラスメントに問題意識を持っており短編を制作。それが高評価を得たことで今回の長編に繋がったようです。
『ボイリング・ポイント/沸騰』ではレストランで巻き起こる全体像を捉えているので、料理自体は大きくフューチャーされていませんし、あまり美味しそうに見えません!(これは多分、あえてそう映していると思う)
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ちなみに本作では、ラム肉、カモ肉のしょうゆソース、メニューに載っていないステーキ、鯖、レモンクリーム、牡蠣などが登場しました。本作ではデザートが登場しないので、レモンクリームを使ったタルトの完成形も観たかったな…という気持ちです。
そういえば、ライバル店のシェフがなんでも料理に「ザアタル」をかけていて面白かった。このレストランは素朴な感じだから、味が薄かったんかな?
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同じくレストランの一夜を描く作品『ディナーラッシュ』
レストランでの一夜を描く作品として、『ディナーラッシュ』を思い出した方も多くいると思います。わたしは人生ベスト映画に入るほど大好き作品で、noteにも書きました。
『ディナーラッシュ』ではよりエンタメ的にレストランを舞台としており、料理名も詳しく出るほど料理自体も多く登場します。こちらも最高に面白い映画です!
『ボイリング・ポイント/沸騰』はSNSで感想を見ていると、賛否が分かれているような印象ですが、ごはん映画好き、レストラン好きな方はぜひぜひご覧ください!いろいろな意味で驚きを与えてくれる作品です。
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