都市と空間を学ぶ|岡山市立オリエント美術館
日本は都市を学ぶ美術館や博物館が少ない。強いていえば、市町村にある歴史民俗資料館が各地域の形成史を取り扱っているだろうか。岡山県の岡山市内にあるオリエント美術館は展示空間と建築空間の素晴らしさもさることながら、「都市を学ぶ」ことにおいて非常に秀でた美術館だ。
オリエントといえばメソポタミア文明やエジプト文明のある北エジプトや中東周辺を指す言葉で、ヨーロッパと中国文化圏の狭間の文化をもつ地方のこと。中東や北アフリカの古代コレクションを4,700点収蔵し、展示している。
オリエント美術館の面白いところは美術品を「世界最古の都市で生まれた品」と捉え、都市の成り立ちを学ぶ教材として美術品を展示している点。
例えば金貨の展示の説明文には「お金の成り立ち」という見出しから始まる。
都市は文化や人種のさまざまな人間と、農産物などの生産地からのモノが集まる場で、円滑なコミュニケーションをとるために生まれたのがお金の仕組みだ、と書いてある。
ただ、金貨が置かれ、いつのものかを説明するのではなく、都市生活を発達するために生まれたのが金貨だ、というスタンスである。
置かれた金貨の美術品の価値ではなく、「展示物がなんのために生まれたのか」を都市生活の観点から説明されている。
他にもハンコやルール、文字、信仰といった切り口で都市生活を豊かにするために生まれたとの記述があり、軽快かつ分かりやすい説明書きが並ぶ。
美術館といえば、美術としての価値に重点を置いた展示や、世間の評価を反映した商業的な展示も多い印象の昨今。
オリエント美術館の展示は今を生きる日本人が「世界最古の都市」のコレクションを通して都市を学ぶスタンスを保っている。
漢字にふりがながあり、文字も大きく小学5,6年生でもわかるような書き振り。大人から子どもまで学びのある展示内容だ。
展示空間の質の高さ
また展示空間としての質も高い。建築は光の入り方、手抜きのない細部、エントランスや休憩所、通路などの余白の演出空間、入り口から展示までの動線やトイレといった建築計画も見事。
展示の配置や演出の照明、什器に至るまで質の高さを感じる。エントランス横の階段や休憩所は写真撮影(ほぼ禁止)しようものならインスタ映えしまくるであろう空間だ。
休憩のコーナーには研究調査の土産として、スプレーや敷物、衣装がおいてあり、それらは実際に触れて体験することもできる。トイレにも再現した手洗い鉢が使われており、そういった細部の楽しませ方も実に見事。
展示内容、魅せ方、展示空間に至るまで、総合的に美術館としての質が高い。入館料が大人310円というのも驚きだ。
オリエント美術館の成り立ちを見ると、1979年の開館にあたり、古代オリエントの学者で天皇家の三笠宮崇仁親王殿下も尽力したと書いてある。なるほど、天皇家に恥をかかせないような気合いも入っていたのかもしれない。
ぜひ岡山に立ち寄った際には足を伸ばして欲しい美術館である。