包括施設管理業務の現在地2024
包括施設管理業務の今
包括施設管理業務とは
包括施設管理業務とは、「庁舎の電気工作物・学校の浄化槽設備等の各種保守点検業務をまとめて発注」するものである。行政の予算は勘項目(大項目・中項目・小項目)に区分され、地方財政法では事業別予算が原理原則とされているので、本来は予算の費目ごとに個別の予算編成をすることが求められている(庁舎・学校・消防などはそれぞれ別の費目が設定されているので、これを一つに扱うことは「原則として良しとされない)。
当然にまとめて発注することで「契約本数を圧倒的に削減でき、契約や支払い等の手続きを集約することで事務の効率化」を図ることができる。また、行政の施設管理担当者はビルメンテナンスのノウハウ・スキルが高いわけではない(万が一、ビルメンテナンス業者と同等以上のスキルを有しているのであれば、公務員をやっているのは勿体無い)ので、民間事業者の持ってきた仕様書をベースに発注したりしてしまう。その結果、管理の質にバラツキが生じたり落札額が高止まりするといった問題が生じ、建築物としての物理的な劣化も早めてしまったり、当たり前の環境が確保できなくなってしまっている。この部分をビルメンテナンスの専門業者に包括委託することで、管理の質の向上・当たり前の環境の確保にも繋がっていく。
また近年では指定金融機関から振込手数料の値上げを要請される事例も多く聞くが、こうした面でも支払い伝票の数を激減させることは公共施設関連のコスト削減にも直結する。(後述する射水市では包括施設管理業務によって支払伝票を一本化するメリットを感じ、現在では光熱水費の伝票も集約して更なる効率化を図るとともに、水道料金の見直しなどにも着手している。)
何よりも、公務員は「ビルメンテナンスをするためにいるのではなく、そのまちの未来を考え首長の補助機関として実行していく」唯一の存在なので、ビルメンテナンスをしている場合ではない。過剰なコンプライアンスや5時に帰ることをベースとしたなんちゃって働き方改革・ワークライフバランスが行政内部に充満しているなかで、未来を考え実行していくための時間を確保するためには、包括施設管理業務は自ずと必要なものになってくるはずだ。
包括施設管理業務を実施していくためには(包括に限った話ではないが)、拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」でも記しているとおり「何のためにやるのか」を明確にして実施する必要があるが、包括から得られるメリットは多岐に及ぶことは先行事例を見ていけば間違いない。
能登地震における射水市の対応
北陸地方で能登地震発生時に唯一、包括施設管理業務を実施していた射水市では、受託者である日本管財株式会社が延べ60名/18日のスタッフを動員して、公共施設の点検や応急措置を迅速に行なったことにより、市内の小中学校も3学期を通常どおりに再開することが可能となった。
当時は、「ボランティアすら北陸地方に来ないでください」とされていた時代にこのような対応が取れたのは、射水市が包括施設管理業務の「契約」をしていたことと「受託者である日本管財が射水市の公共施設の状況を熟知していたこと」が大きく影響している。
まちとしての総力戦が求められている現在、包括施設管理業務はこのように「いざというとき」にも大きな力を発揮するポテンシャルを秘めている。
そもそも包括の原点とは
世の中ではありがたいことに筆者が「包括施設管理業務の生みの親」であると認識されているようだが、これは大きな間違いである。確かに公募型の包括施設管理業務を流山市がはじめて実施したことは事実である。
しかし、筆者が考案したものではなく当時、様々な場面で交流のあった大成建設のPPP/PFI担当者からこのスキームの提案を受けたことがきっかけになっている。小さなハードルが多く存在するなかでどうやったら事業化できるかを徹底的に議論しながら整理していったものが流山市における包括施設管理業務(包括のプロトタイプ、Ver1.0)の原点となった。
最近になって知ったことだが、この大成建設の担当者は、包括そのものをビジネスモデルのゴールとして位置付けることを意図していなかったとのことである。
包括を第一歩として、将来的にはサンディスプリングス市のように最小限の職員数で行政はコアコンピタンス経営に徹しながら多様な民間事業者と連携しながらまちを経営していく、そうした自治体経営のモデルを作っていきたい。ただ、いきなり自治体にそうした形を提案してもリアリティがないので、まずは簡単かつ合理的にアウトソーシング(←短絡的な行政的アウトソーシングとは異なる)できる部分としてハコモノ関連の包括施設管理業務を思いついたとのことである。
こうした視点で見れば、「包括ごとき」ができないようでは本格的なPPP/PFIやまちとリンクした自治体経営には遠く及ばないことも見えてくる。
2024年11月現在
包括施設管理業務委託は、流山市のものをプロトタイプとしてその後、廿日市市(の第1期)で100千円/件未満かつ総額21,000千円/年以内の小破修繕にビルトイン、佐倉市(第1期)で15の指定管理者の施設を対象施設とすること、明石市(第1期)で1,300千円/件未満の修繕を含む形、沼田市ではデパートを用途変更した本庁舎を起点に約140施設を民間との協議で包括するなど、自治体ごとの課題やクリエイティビティを活用して進化(Ver1.1.0)してきた。
近年では久米島町が約100の公共施設をアウトソーシングに特化した形、荒尾市で市営住宅の入退去を含む業務を含んだり、草津市で10,000千円/件未満かつ約210,000千円の工事を包括で対応したり、廿日市市(第3期)では5年の基本契約に加えてモニタリングの結果が良好な場合は3年間のオプション契約を行使できる形など、よりバリエーションが豊かになってきた(Ver1.1.1)。
包括はこれだけ広がりを見せる一方で、爆発的に広がるときの必然的なマイナス事象として、亜流や低質な「包括まがい」のものも少しずつ増えている。一部の自治体で(規模は一流だが質は二流の)ビルメンテナンス業者からの仕込み案件で、行政も大したやる気がないのに形だけ実施する低質なものや、なぜかこの程度のことなのに、包括をやったこともないコンサルに丸投げして先行事例を劣化コピーした要求水準書で発注しているものも増えてきていることは間違いない。
しかし、全体として見れば「保守管理をまとめて発注する」原点をベースとしながら、それぞれの自治体の課題ややりたいことに応じてVer.1.1.1ぐらいにブラッシュアップされてきていることは間違いない。
包括を取り巻く環境
ウォーターPPP(Lv3.5)
2023年に国土交通省は水道、工業用水道、下水道について、複数年度・業務にわたる民間委託(レベル1.0から3.0)≒インフラ版包括施設管理業務からコンセッション(レベル4.0)に移行するための段階的な措置として「管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)」を自治体に導入することを求める通知を出した。
そして、国土交通省らしく自治体にある程度の影響力(≒強制力)を持たせるためにウォーターPPPの導入を社会資本整備総合交付金の交付要件としている。
このやり方は上記noteにも記したとおり、下水道に関するPPP/PFIの相談窓口を設置することを社会資本整備総合交付金の交付要件にしたことと同等の手口である。(この相談窓口についても、上記noteで詳細を記しているが、ほぼ全ての自治体で一言一句違わぬホームページを作成していることが実態を物語っている。)
PPP/PFI手法を導入することで民間ノウハウ・資金と連携しながら下水道を取り巻く課題を解決することではなく、「単純に社会資本整備総合交付金を取るため」でしかない、民間を馬鹿にしたようなものになってしまっているから、このような皮肉めいた言い方をしなければならなくなる。
しかし、方法論や意図に課題があるとしても下水道を中心とした上下水道においてウォーターPPPの導入がほぼ既定路線として位置付けられ、(国のガイドラインを見ると、期間も10年間に固定されるなどほぼ仕様発注なので、当たり前のデータさえあれば自分たちで要求水準書を作成して事業者を選定できるor事業パートナー方式を採用すればあっという間に事業化できるはずなのに)多くの自治体がコンサルへウォーターPPPの導入可能性調査を発注している。(←こういうのが「喰われる自治体」の典型orz)
インフラ系包括の進展
国主導で上記のような社会資本交付金をオラつかせた強制型インフラ包括委託が進められる一方で、自治体主導型のインフラ包括も府中市のけやき並木通りでスタートした道路・カーブミラー・樹木等をまとめたものが第二期では市域の1/4に、そして現在の第三期では市域全体にエリアを広げて(市域を1/3ずつに区分しているが)行われている。
廿日市市では、宮島の簡易水道・下水道・ゴミの収集運搬施設をまとめた包括施設管理業務や雨水ポンプ場の運転管理まで含めた委託が行われている。
柏市では下水道管路の(下水道の不具合による道路の陥没箇所数等をKPIとした)性能発注方式の包括委託が行われるなどしている。
近年では袋井市で「道路・河川・公園等インフラの効率的・効果的な維持管理手法を検討する社会実験」として試行的にこれらインフラの包括管理を実施したり、周南市では徳山駅周辺の都市公園・駐車場・道路等を契約行為(包括施設管理業務委託)と行政処分(指定管理者制度)を使い分けながら運用するなどの形で進化してきている。
文科省のガイドライン
文部科学省でも近年、学校施設における包括施設管理業務を推進すべく上記の手引きを作成・公表するとともに、積極的に関連セミナーなどを開催している。このことが影響しているのだろうか、学校施設に限った包括施設管理業務も神戸市・宮崎市や埼玉県内の多くの市町村などで実施されるようになってきている。
関東では自治体が保有する公共施設の50〜60%(関西から九州にかけては市営住宅の割合が多いため学校施設の保有割合は30〜40%)を学校施設が占めるとともに(個人的には賛同しないが)学校は地域コミュニティの核であるとされることから、適正に保守管理していくことは公共施設マネジメントの観点からも重要な事項である。
また、包括施設管理業務は行政の所管や縦割りを超えて(将来的にはインフラも含めて)保有する全ての公共施設を一元的に管理することが重要であるため、本来は「教育委員会から」とか「学校から」ではなく、全庁的・組織横断的にスタートするのが好ましいことは間違いない。そういう意味でも、教育委員会所管の施設のみで包括施設管理業務をスタートした自治体は、「そこ」をゴールにするのではなくできるだけ早い段階でどのように市長部局の施設も含めて拡張していけるのかを考えて実行していくことが求められる。
人がいない問題
流山市で全国初の公募型包括施設管理業務を公募した際には数社が興味を持ち参加してきた一方、多くのビルメンテナンス業者は「何それ?」といった形で様子見をしている状況にあった。その後、いくつかの自治体で包括施設管理業務の公募が行われ、現在のように一般化してくると、案件によっては3,000百万円/5年規模といった事業もあることから、新しいビジネスチャンスを求めて多くのビルメンテナンス事業者が参入することとなった。
同時に現在では、拙著でも記しており後段でも改めて概要を記すが「包括施設管理業務は公共施設マネジメントの第一歩」にもなりうることから、非常に多くの自治体が包括施設管理業務に取り組むようになり、毎週のように包括施設管理業務導入に向けたサウンディング調査は全国各地で行われており(そこから事業化に至る割合はそれほど高くないが、)もはや「当たり前」の状況になってきた。
このように数年間で一気に案件数が拡大してきたことから、民間事業者側で総括責任者を中心としてプロポーザルの企画提案書を書く人員も含めた「人がいない問題」が顕在化してきた。実際にそれなりの規模のあるものや積極的に公共施設マネジメントやPPP/PFIに取り組んでいる自治体の案件でも、大手のビルメンテナンス事業者が「人がいない」ことを理由に辞退する事例が急増している。
一方でこれまで包括施設管理業務を受託したことのない大手ビルメンテナンス業者や地元のビルメンテナンス業者も包括に参入してくるようになったことは、「受け手市場の拡大」という面では喜ばしい面もあるが、一部の事業者は包括の意味があまりわかっていないなかで参入したり、なかには紙ベースでの経験・感・属人性に依存した管理しか行っておらず、クラウドシステムによるやり取りはおろか、データベース化すらできない事業者も存在するようなので、要求水準の設定方法や何のためにやるのかは明確に行政が定義していくことが重要である。(この部分をコンサルに丸投げしているようでは、こうした二流・三流の事業者しか手を挙げられず、結果的に目指した効果が得られないリスクも顕在化してしまう。包括施設管理業務はそれほど複雑なものではない事業でもあるので、行政が自ら実施要領・要求水準書の作成をしていくことが必須である。)
「今から」でも包括を
包括と公共施設マネジメント、PPP/PFIとの相関関係
包括施設管理業務は、その実施まで間に全庁的なデータの集約・関係者の理解を得ていくこと、長期にわたるプロジェクトに関する債務負担行為などの手続き、フルコストベースの経営感覚、関連予算の一本化、民間事業者との協議による諸条件の調整などPPP/PFIや公共施設マネジメントの基礎となるプロセスが必須となる。
ただし、普通財産の貸付・新規施設の整備・Park-PFI等と異なり、債務負担行為の設定以外では議会の議決を必要とせず、市民との関係も特に求められない「行政の内部事務」でしかないことから、やりやすいプロジェクトに位置付けられる。同時に、実施することで確実な成果も得やすいことから見ても第一歩になりうる。
実際に、射水市・広陵町等の公共施設マネジメントやPPP/PFIを実務ベースで展開している自治体では、包括施設管理業務をキーとして多様なプロジェクトに広げている事例も多い。一方でこの世界の先端を走る紫波町・津山市・富山市等では包括施設管理業務を導入していないことから、包括はPPP/PFIや公共施設マネジメントを進めていくための必要条件とは言えないが、いきなりこれらの自治体が展開するプロジェクトを実施することが(内部のリソース・議会等との関係で)難しいような自治体では、包括施設管理業務は積極的に検討する価値のあるプロジェクトの一つに挙げられるだろう。
手遅れになる日はすぐそこ
包括施設管理業務の1日でも早い実装を勧めるもう一つの理由は、本noteで記してきたように
まちとしての総力戦が求められる(能登地震における射水市の対応)
上下水道を中心としたインフラ部門での包括の(実質的な)強制化
文科省による学校施設への包括の導入推進
受け手いない問題
公共施設の劣化が止まらない問題
といった複数の状況がある。近い将来、もしかしたら「総務省から公共施設等適正管理推進事業債の活用要件に包括の実施を条件化」「地方交付税のトップランナー制度で包括を対象業務に追加」「内閣府からPPP/PFIの優先的検討規程に組み込むように要請」といった時代が来るかもしれない。(総務省はここ数年、この問題からシレッとフェードアウトしようとしているようにも見えるし、なぜか当初目指していたはずの短絡的な総量縮減がうまく機能しないから脱炭素などをメニュー化するなど迷走しているので、包括そのものにすら現時点で気づいていないかもしれないが・・・)。
どのような形かはわからないが、国が主導して「ハコモノも包括やるべし!」の大号令がかけられてから慌てるようでは、「やらされてる間満載の主体性のないプロ意識欠如」と見られても仕方がない。
そして、慌ててその時点からやろうとしても、その時点では更に人がいない問題が深刻化しているのと同時に、総合管理計画・地方創生・デジタル田園都市等と同様、急に創出された官製巨大マーケットに大した専門性もないのにハイエナコンサル・なんちゃって事業者が群がり、そこまで何も考えてこなかった行政は、とりあえずその場だけを取り繕うために適当な発注をして喰われ、何の成果も挙げられず税金を溶かすのがオチである。またレッドオーシャンと化した市場では、どれだけ頑張っても一流のビルメンテナンス事業者のキャパは既に枯渇してしまっている。
コケるポイントから逆算
包括施設管理業務でコケるポイントは
どうせうちのまちでは
地元事業者の仕事を奪う
マネジメントフィー
あたりがほぼ大半だろう。ただ、それぞれの項目は「小さなハードル」や「(やったことない人間の)思い込み」でしかないし、そこを突破することで得られるリターンを考えれば躊躇することがもったいない。
見えない敵を勝手にLv99にしない
「どうせうちのまちでは」を分析すると、「保守的だから、所管課が反対するかも、議会の理解ガー、財政ガー」といった、やる前から見えない・いないかもしれない敵を勝手に脳内で妄想してLv99に上げておいて敵前逃亡してしまっている場合がほとんどだ。
まずは「包括やってみたいんですけど」をきちんと庁内で提案したことがあるのか、(やる気のない)誰かにつまらない理由で反対されたときに1回で終わっていないか。相手が根負けするぐらいしつこく、裏から手を回すなども含めてあらゆる手を講じているのか。
包括に限った話ではないが、「どうせうちのまちでは」と嘆いている自治体の多くは、「つまらない人のつまらない、大したロジックもない反対」ですぐに諦めてしまっていることが大半だ。
行政は、どうせ合理的な社会ではないのだから正論で通じない人間・文化・風土等に合理的に対応しているだけ時間の無駄である。こうしたところを突破する方法論は2冊の拙著でもいろんなエピソードを収録しているので参考にしてほしい。
地元の仕事を奪うわけがない
「包括施設管理業務を行うと地元の仕事を奪う」といった誤解がいまだに多いが、受託者は行政の職員が実施していた発注・管理・関連事業者への支払(・内製化した修繕)等が主な業務となり、実際に現場で各種施設の保守管理を行うのは地元事業者やメーカーである。
現在の「人がいない」時代に、大手ビルメンテナンス業者が1自治体の個別の設備等の保守点検業務ために新しく人を雇ったりするのは、関連コストが膨大に要求されるため非現実的である。同時に土地勘・地元事業者のネットワークや保守管理する設備等のくせ等もわからないため、そうしたところをゼロから構築するコストと既存事業者と連携することのメリットを考慮すれば、どのような選択をするのかは一目瞭然である。
実際に包括施設管理業務を公募から運営まで丁寧に実施してきている射水市・明石市・常総市等では、担当者の講演資料を見ても地元事業者への発注率・発注件数・金額とも包括の実施前と比較して増加しているし、年度を追うごとにその割合・件数も比例していく。
マネジメントフィー
包括施設管理業務を実施すると、従前の保守点検業務委託費の約20〜30%のコストがマネジメントフィーとして乗じられることが一般的であり、これが単年度会計現金主義に染まった行政の財政担当者・上層部・首長や議会に理解されず、包括を断念する事例が多い。
詳細は拙著に記載しているが、従来型発注の場合は行政の担当者が見積・予算計上・仕様書作成・入札・発注・検収・支払等の業務を行うため、その部分を包括では民間事業者がビジネスとして行うため、退職引当金や保険料なども含んだフルコストベースで計上しているに過ぎない。(行政の単年度会計・現金主義の予算書ではこうした費用が計上されず、しかも人事課で職員の人件費は取りまとめて計上するため保守点検に要するコストとして認識されにくい。)
これまでは、こうしたコストを明石市のように見える化(1契約あたり100〜120千円程度)して説明することが一般的だったが、それでも理解を示そうとしない自治体も多いので、最近は違うアプローチを薦めている。
1)そもそもいくらかかるか「敢えて明確にしない」
既存の保守管理経費の合計額がいくらなのか、従来型発注をしている限り財政の担当者でもすぐには出てこないはずだ。であれば、(サウンディングや発注時の資料作成のためある程度のデータを集める必要はあるが、敢えてそこまで強調することなく)「包括で対象としたい施設・設備・グレードの概要」だけサウンディングで提示して、民間事業者から「総額の見積をもらい、それを市場価格として債務負担を設定してしまう」手段が考えられる。
そもそも、前述のように適正な管理水準で発注されているかも怪しく、十分な管理が行き届いていないために生じている劣化や不具合などもありうるため、「やりたいことがいくらだったらできるか?」だけを聞いてしまい、「その金額≒市場価格」としてしまうのが意外とリアルだったりする。
2)マネジメントフィー以上の金額をキャッシュで創出する
単年度会計現金主義で厳しい財政状態にあるなかで、「見かけの費用」だとはいえマネジメントフィー相当額が予算書の歳出に計上されることに抵抗感を持つことは気持ちとしてわからなくもない。
明石市や東村山市のような合理的なアプローチについて頭で分かったとしても歳入・歳出がイコールフッティングしないのであれば職務上YESとはいえない状況になってしまう。
であれば、包括施設管理業務をすることによって施設所管課や総括部署には当該業務に要していたコスト≒時間が大幅に削減されるので、その時間を活用してかつ包括施設管理業務の対象となっている(それ以外も含む)膨大な公共資産を活用して、マネジメントフィーと少なくとも同等額、理解を得るためには2倍以上の歳入を予算に計上すれば理論的には問題ないはずである。
逆にいえば、その程度が約束できないようであれば、人的なリソースを包括のマネジメントフィーとして計上してまで浮かせる経営的なメリットが生じないと言われても仕方がないし、どうしても包括をやりたければそのぐらいのことは空手形と言われようが大見得を切るぐらいの覚悟・決断・行動が必要だろう。
「あなた」がやるしかない
そして、何よりも大切なのは「誰かがやってくれる」「時機が来るのを(何もせずに)待ち続ける」ことである。
行政の世界では「誰かがやってくれる」ことはありえないし、何もしないで「時機が来る」こともない。包括はやろうと思えば、小さなハードルは無数に転がっているが何らテクニカルなコケる要素は存在しない。
10年前とは異なり、包括施設管理業務はこのnoteでも述べてきたように、既に数多くの自治体で実施されており、完全に一般化・定型化(←プロトタイプを自分たちらしくアレンジしていくことは必須)しているものである。新しいものでも何でもない。やろうと思えば他のプロジェクトより圧倒的に少ない労力・専門性で可能なはずだ。
「あなた」がやるしかないし、「あなた」ならできるはずだ。
包括ごとき
近年、プロジェクトレベルで大した実績を上げたわけでもないのに、周囲から必要以上にもてはやされてる人を何人か見かけている(実際にこちらから見ると、周囲から持ち上げている人の方が圧倒的に多くの実績を持っていたりスキルを有していたりする。そうした人たちにはもっと自信をもってほしいし、世の中をもう少し広く見てほしいが・・・)。
そうした人たちに限って「うちは市長部局・教育委員会・市営住宅が完全に縦割りで・・・」とか言い訳をする。(それ以外のプロジェクトを数多く実践している自治体はそちらにリソースを割いて結果を出しているので別だが、)「包括ごとき」できていないようでは、「熱意」や「理論」だけでしかなく薄っぺらい意識「だけ」高い系でしかない。
こちらのnoteでも記したように、103万円の壁と同様、包括は止まっているところではない。行政が手を拱いているうちに、まちは尋常ではないスピードで衰退していく。やらなければいけないこと、できることは無限に目の前に転がっている。
包括を真剣に捉えて実践まで漕ぎ着けてきた自治体が異口同音で発するように、所詮「包括ごとき」でしかないし、包括そのものも発案者の意図を汲み取れば早くVer.2.0以降の世界へ移行する時代になっている。
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