自分ごととして考える_2021初夏Ver.
自分の公務員時代、日本PFI・PPP協会時代、そして現在の合同会社まちみらいを通じ、いろんな自治体と公共施設マネジメント、PPP/PFIや自治体経営に関わってきて感じること。頑張るまちとダメなまちの差は「自分ごと」として考えて手を動かせるかどうかだと思います。
このことも、3年前にジャパンシステムのコラムで書きましたが、改めて最近感じることが多いものです。
●コンサルや有識者委員会による「他人事」
最近も購読している建設系の業界新聞で「〇〇市〇〇プロジェクトにおけるビジョン策定業務委託を一般競争入札で実施」、「〇〇町公共施設等総合管理計画見直しにかかる指名競争入札」とかの見出しを目にすることが多く、そのたびにゾッとしてしまいます。
自分のまちの未来を左右することを、将来の方向性を考えていくことを「見ず知らずのコンサル」に「最も安い価格を入れたところ」に委託して大丈夫ですか?
もちろん、地質調査・測量などは公務員が直接実施するよりもコンサルに委託した方が効率的でしょうし、コストパフォーマンスも高いかもしれません。
しかし、「自分のまちの未来を考えること、そのために知恵を絞り・汗をかき・手を動かし・足で稼いでいくこと」は、そのまちの職員の方々が自分たちで必死になって拓いていくべきだと思います。そして、自分たちで責任を持って決めていくべきだと考えます。
自分も公務員時代に苦い経験をしたことがありますが、こうしたところに参加し受託するコンサルは、他自治体での類似事例をコピペして、そのまちの既存計画からキーワードを抜粋してパッチワークし、なんとなくそれらしい形にまとめて納品しておしまいです。結果としてできあがる事業(≠プロジェクト)は他自治体の「劣化コピー」にしかなりませんし、そうした思考回路でさまざまな事業を進めてきた結果、そのレベル(≒劣化コピーの総体)のまちにしかならないわけです。
コンサルに丸投げ委託してしまう「一般的・従来型業務委託」だと、コンサルは「①その自治体の意向をヒアリングし、②それらしい案として(劣化コピーで)取りまとめ、③自治体に報告書案を提出」し、自治体担当者は「④てにをはを中心に加除修正する」こととなります。
だから、議会等の大切な場面で対応に窮するのです。自分たちの言葉で作っていないから、なぜその用語を使ったのか、行間のニュアンスなどはわかるわけもありません。こうしたやり方でやっている限り、自治体の担当者は評論家でしかないため、「他人事」となってしまうわけです。挙げ句の果てに、うまくいかなくても「自分たちのせいじゃない、コンサルに騙された、こんなはずじゃなかった」等の見苦しい言い訳を平然としてしまうわけです。
また、こうした「まちのコアになる部分」を外部の有識者委員会・審議会などに頼依存するのも個人的には疑問を持っています。(過去に何件か、こうした有識者委員会の委員も務めさせていただきましたが、「言いっ放し」で責任を問われないし、発言したことの主旨も受託しているコンサルに塗り替えられたり、そのまちと最後まで伴走できる権利も立場も与えてもらえないですし。。。ということで、こういったお話をいただくのは本当にありがたいのですが、原則として現在は全部、お断りをさせていただいています。)
●「自分ごと」とするために自分たちで考える
自分が日本PFI・PPP協会から現在の「まちみらい」に至るまで、自治体の支援をさせていただく場合には必ず、契約前に自治体に約束していただくことがあります。それは「受託者側では計画・要求水準書等に関する文字を一文字も書かない」ことです。
そのまちの職員の方々にワーキンググループを構成してもらったり、施設所管課の方々に集まっていただいて、徹底的に膝詰めで「課題は何か」「それを解決するためには何が必要か」「誰がリードするのか」「資金調達も含めてコストはどう考えるのか」「誰と手を組めばできるのか(どうチームアップするのか)」などをディスカッションの中で模索していきます。
もちろん、少しでも円滑に検討するため、そのプロジェクトごとに専用のフォーマットを作成し、ワークショップ形式で進めたりと工夫はいろいろとしますが、はっきり言って、このやり方だと前述の「一般的・従来型業務委託」と比較して圧倒的に時間・コストはかかります。どのような方向に収斂されていくかも読めないため、手戻りや柔軟な軌道修正なども日々求められてきます。禅問答のようなやりとりもやり取りも延々と続くため、関わる職員の方々も同様に大変な想いをします。
ビジネスとして考えたら受託者としてのコストパフォーマンスは非常に低いですが、ここの部分こそが「合同会社まちみらい」の真骨頂ですし、他のコンサルには「劣化コピー」できない部分だと考えています。
●国交省のハンズオン支援がなぜ機能しないか
近年、国土交通省が「ハンズオン支援」なる形で似たようなことをコンサルを使ってやっていますが、残念ながら良い方向に進んでいるまちは聞いたことがありません。
これは、ハンズオン支援を受けている自治体や国交省のつくった仕組みが悪いのではなく、行政経験もなく公共施設マネジメント、PPP/PFIや自治体経営に「実務・実践」として関わったこともないコンサルが「なぜか支援」するからです。つまり、支援する側≒コンサルの質の問題です。
別の機会で解説しようと思いますが、行政は残念ながら非合理的な社会です。経済学・経営学の理論どおりに物事が進むなら、今日みたいな状況にはなっていません。公務員の方々は優秀なので、理論や理屈はわかっていますし、法制度や方法論などもいくらでも知っています。それを「非合理的な世界の中でどう紐解いていくのか」に苦戦しているだけなのです。コンサルが付け焼き刃程度で提案できることでは物事は進まないのです。
ちなみに、国交省も「この仕組み自体、寺沢のやり方・アイディアを頂戴している」と制度導入当初に語っていましたw
●鴻巣市の包括施設管理業務
鴻巣市では庁舎・学校・集会施設などの電気工作物・浄化槽・消防設備などの保守点検や巡回点検、1,300千円/件未満の小破修繕などをまとめて業務委託する包括施設管理業務を検討するにあたり、企画・財政・管財・施設所管課からなるワーキンググループを構成し、公募関連資料をすべて自分たちでつくりあげました。(自分は公募関連資料の大枠の作成とサウンディングのお手伝い)
業務開始時には市長・副市長・教育長を含む幹部職や関連する職員を対象とした職員研修を行いました。包括施設管理業務だけでなく公共施設等を取り巻く環境、教科書型行政の限界と発想の転換の必要性、包括の先にあるさまざまなPPP/PFIプロジェクトの展開可能性、まちとリンクすることの意義などについて共通認識を醸成しました。
その後、前述のようにワーキンググループで「今の施設管理で何が問題なのか」「包括をすることによって何を叶えたいのか」といったことを皮切りに、徹底的にディスカッションしながらひとつずつ整理していきました。
例えば、行政ではプロジェクトの目的をいくつも箇条書きに羅列することが多いですが、(弊社で支援させていただく場合にはこの事例だけでなく、必ず)さまざまな想いを徹底的にピックアップしたうえで、優先順位を設定し目的をひとつに絞ります。鴻巣市では「事務の効率化」が最優先事項になりましたので、「コスト削減」「管理業務の質の向上」「地元事業者の活用」などは副次的な効果に過ぎないこと、採点表等もすべてこの優先順位に沿って整理していくこととなりました。
こうした検討経過を踏まえ、最終的な債務負担行為の設定に際しては、市長を含む幹部職の集まる会議でワーキングメンバーが自分たちの言葉で説明し、町内としての合意形成を図るとともに、なんと業者選定における採点もすべてワーキングメンバーで行うこととなりました。
●小田原市の随意契約保証型の民間提案制度
小田原市は、ジャパンシステムのコラムでも書いたとおり、現在のやり方の原点をつくってくれたまちです。
このまちでは歴史的建造物や使わなくなった支所がいくつかあり、この利活用の方策を模索していました。
前年度に包括施設管理業務で優先交渉権者の選定まではできたものの、様々な理由が重なり契約に至らなかったり、歴史的建造物の利活用も同様に諸事情で事業化できないような「流れの悪い」状況にありました。
そこで、ここでも最初の段階で「なぜこうした公共資産の利活用が必要なのか?利活用できたらどんな未来があるのか?」等を職員研修で共通認識を醸成するとともに、幅広くESCO、市民プール、認定こども園などの多様なプロジェクトも並行しながら、提案制度の検討を進めました。
歴史的建造物であることから建築基準法の構造関係規定との関係の整理がひつようだったり、対象物件が第一種低層住居専用地域や市街化調整区域に位置することから用途地域の取り扱い(許可や地区計画等での対応)が求められるなど、テクニカルな要素もいくつもありました。建築関連部署や法規担当部署の「どうやったらできるか考えよう」という姿勢と協力もあり、こうした難題も職員の方々の力でひとつずつ突破していきました。
さらにせっかく「随意契約保証型の提案制度を整備するなら、将来的にどう拡張できるのか、もっといろいろありそうだよね」といった先を見据えた検討も同時にされてきました。
●「自分ごと」とはプロであること、当たり前のこと
こうして、いろんなまちでプロジェクトに関わってくると、「自分ごと」として必死になって目の前の課題に真剣に向き合い、試行錯誤しながら進む常総市・南城市・津山市などと、国からの要請・定められた業務を淡々とコンサルへの「一般的・従来型業務委託」なども使いながら(マジメにはやっているけれど)ピュアにこなしているだけの「他人事」のまちに二極化が進んでいるように感じます。
こうして考えてみると「自分ごと」でやるとは決して難しいことではなく、自分のまちのために「プロとして・当たり前のこと」を、自分たちで考えて愚直に実践しているに過ぎません。
そして、ひとつずつの判断・選択・プロジェクトは非常に小さいかもしれませんが、それが蓄積されてきたとき、「自分ごと」で進めてきたまちとそうでないまちの差は非常に大きなものになっているでしょう。
「自分ごと」で前に進むまちは、その過程で地域コンテンツやプレーヤーにも自ずと向き合うことになるので、そうした想い・行動に呼応した民間のプレーヤーも集まるでしょうし、逆もまたしかりです。
「自分ごと」になるためには少しのきっかけが必要かもしれません。「合同会社まちみらい」でできるのは、「前から進めるように手を差し伸べる、横から倒れないように支える、後ろから走り出すために蹴っ飛ばす」こと、そして、そのまちの方々と泥くさく伴走することです。
もし、一緒にやってみたい、自分たちも変わりたい、変われるんじゃないかというまちがありましたら、お気軽にお声掛けください。
【出版案内】
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