なぜPPP/PFIが自治体経営で求められるのか?
合同会社まちみらいのnote、第1回は自己紹介が中心となりましたので、今回から少しずつ大切な概念や事例を紹介していきたいと思います。
今回のテーマは「なぜPPP/PFIが自治体経営で求められるのか?」という根本的なもの。まずは、5年くらい前にジャパンシステム株式会社へ寄稿したこちらの記事を。。。
【ジャパンシステム_自治体における民間連携に関するコラム①なぜ自治体は自分たちだけで生きられないか ~生きるための手段としてのPPP/PFI~】
https://www.japan-systems.co.jp/column/public_organization/detail/public_organization_detail_1340.html
コロナ前に書いたものですが、ベースはここに書いてあるとおりです。
●戦後〜バブルの頂点までの「行政運営」
戦後の焼け野原から日本は、中央集権・護送船団方式と勤勉な国民性により急速に復興し(当時は)先進国の仲間入りを果たしました。
1947年の地方自治法施行時からバブルの頂点に至るまで、人口が1.55倍に増加したのに対し、国の一般会計は355倍に急増しました。単年度会計・現金主義が機能していたのは、この強烈な右肩上がりがベースになっていたわけです。児童・生徒数が増えて学校が欲しければ翌年度、必要に応じてすぐに整備できましたし、生活を豊かにするために図書館・公民館等が求められれば、簡単に調達することが可能でした。
バブルの頂点に至るまで、赤字国債なるものはほとんど存在せず、単年度会計・現金主義、会計年度独立の原則で「行政」は「運営」できました。
さらに、交通インフラ・情報・都市機能などは現代と比較にならないほどシンプルで、ライフスタイルや価値観もそれほど多様性はない時代であったことから、行政も解決する課題が非常に明確で、しかも財政フレームのなかで十分に解決していくことが可能でした。
●バブル崩壊〜失われた◯十年
バブル崩壊からのいわゆる「失われた◯十年」の間、強烈な右肩上がりを前提とした行財政システムが歪みをみせはじめ、一発逆転ホームランを狙った大規模公共事業(中心市街地活性化を目指した再開発ビルや無理やり作った官製の観光施設等)、各種インフラが脆弱な中での企業誘致などを試みましたが、コンサルが夢物語を提示した基本計画で描いたとおりにまちは活性化することは、ほとんどありませんでした。
人口ピラミッドもベビーブームが去り、安定から減少局面に向かうことが確実になり、税収も頭打ちとなっていきました。そのようななかで、住民ニーズは多様化・高度化が進み、価値観も一気に広がり行政が一義的・全体的に公共サービスを提供することに無理が生じてきました。象徴的なのは夕張市の財政破綻です。歴史を紐解いてみれば、エネルギー政策の転換等に翻弄され、「炭鉱から観光へ」の舵を切ろうとしたわけですが、炭鉱住宅を市が引き取ったり、不採算の観光施設を整備・保有したりするなか、ジャンプ方式という粉飾決算に手を染める事態となってしまったわけです。夕張市で起きていたことは、「人が減る・大量のハコモノを保有する・マネジメント能力がない・最後は国や北海道が助けてくれるだろうという甘い想い」に集約され、全国の自治体に共通する課題です。たまたま、いろんな条件が重なって一気に顕在化したのが夕張市であって、決して他人事ではありません。
全国の自治体は、行財政改革なる名の下に公共事業や人員の縮減など「減らす」一辺倒のコスト削減で打開を試みたり、国は平成の大合併で効率的な行政を目指しましたが、残念ながら根本的な解決には至りませんでした。
●ハコモノ・インフラが財政を圧迫する
前述の中心市街地活性化を目論んで整備した再開発ビル、住民や議会からの要望をそのまま受け入れて補助金・交付金に依存したホール・図書館・美術館、平成の大合併に伴う合併特例債で整備した庁舎等の公共施設、いわゆるハコモノが全国で大量に整備されてきました。しかも、これらは「失われた○十年」の間にも留まることはありませんでした。
行政の単年度会計・現金主義の世界では、自らのまちの財源≒一般財源(←ここにも多くの自治体では地方交付税で国からお金が入ってきます)だけでなく、国からの関連する補助金・交付金や地方債の総和としてイニシャルコストを表面上準備することができれば、どんな大きなハコモノでも整備できてしまいます。
しかし、ハコモノの生涯にわたるコスト(LCC_Life Cycle Cost)から考えると、イニシャルコストに対して4〜5倍の運営期間におけるランニングコストが必要だと言われていますが、こうしたことはハコモノを整備する段階で考えられていないことがほとんどです。また、地方債も最終的には(一部に交付税措置されるものもありますが、)そのまちが返済しなければいけないコストです。
こうして「たぶんこうなるだろう、こうあったらいいな」と安直に整備し続けてしまった多数のハコモノ・インフラが皮肉なことに現在、それぞれのまちの財政を圧迫しています。
また、ハコとして整備することが主になってしまい、「どんな未来を創りたいのか≒ビジョン」、「誰がどのようなサービスをするのか≒コンテンツ」の検討・調達・具体性が不十分で、収支計画や損益分岐点なども設定されることはほとんどありません。だから、膨大なコストをかけてハコモノを整備しても、(キャッシュだけでなく住民サービスという視点でも)まちとして得られるリターンは非常に限られたものになってしまいます。
●公共施設等総合管理計画≒計画論
こうしたなかで、笹子トンネルの崩落事故の影響もあり、総務省が全ての自治体に対して公共施設等総合管理計画の策定要請を行いました。公共施設等を取り巻く問題を社会問題とさせたことに大きな価値はありますが、総務省やビジネスとして総合管理計画の策定業務を受託するコンサルタント等によって、経営的な問題だったはずなのに、なぜか「30年で30%等」の短絡的な総量縮減が目的化されてしまい、残念ながら公共サービスを提供する場としての公共施設のあり方、まちの文脈との関係など本質的な論点が見えにくくなってしまいました。
一方で、一部の自治体では自分たちのまちと真摯に向き合い、経営課題として公共施設等をどう活用していくのか、目の前にある不具合・不都合な真実を解消していくのか、プロジェクトレベルで模索していくこととなりました。地方自治法で定められた範囲内のことを粛々・淡々と行う「行政運営」ではなく、まちをどのようにしていくのか「自治体経営」に取り組んでいるわけです。このあたりの事例は今後、紹介していきたいと思います。
●新型コロナによるトドメ
財政状況が非常に逼迫するなかで新型コロナウイルスが猛威を振るい、2021年度予算編成にあたって新座市・阪南市・堺市などが財政非常事態宣言を発出する事態となっています。これらの非常事態宣言を行なった自治体に共通するのは、①近年の単年度会計現金主義の収支不足が常態化し、財政調整基金の取り崩しで凌いできたこと、②頼みの綱だった財政調整基金が近い将来に底をつくこと、③新型コロナウイルスによる税収減と向き合っていることです。
しかし、多くの自治体は「コロナの影響がどの程度の財政に影響を与えるのか不透明なため。。。」とお茶を濁し、2021年度予算を編成しています。あるいは不合理な一律シーリング等をさらに加速し、ハコモノ等に投下しなければいけない予算を無理やり削ったりしています。こうした影響も近い将来、必ず顕在化することから、2022年度以降、旧来型の行政運営をしている自治体が多数、財政非常事態宣言等を発出することとなるでしょう。
総務省の地方債計画では2021年度、臨時財政対策債の発行額は前年度比74.5%増の54,796百万円となっています。こうした面からも自治体が国に依存し続けることは現実的な選択肢ではなくなってしまっています。
【総務省_令和3年度地方債計画】
https://www.soumu.go.jp/main_content/000724344.pdf
●では、どう生きるのか?
このような絶望的ともいえる状況で、それぞれの自治体はどのように生きていけば良いのか?となるわけです。
その一つの方法論がPPP/PFIとなると考えています。PFIはPFI法に基づくPFIだけではありません。明日を生きるための日銭がなければ、必死になって税金以外の方法で資金調達をする、それが「PFI≒民間からの資金調達」です。手法は合法的なものであれば(カタログギフト方式のふるさと納税は制度欠陥であり、地域コンテンツの価値を毀損するので論外ですが)、何でも構いません。大阪市の天王寺公園(てんしば)は近鉄不動産と連携して都市公園を再生させながら市に30,000千円/年の納付金を納めています。もっと小さなプロジェクトでも全国各地でクラウドファンディング、加賀市の温泉図書館みかんでは書棚を個人等に2,000円/月・棚で貸すことにより、運営経費の一部を調達しています。そして、こうした方法論を行なっていくうえでノウハウ・マンパワーが不足するのであれば、持っている人たちとビジネスベースで手を組む、それが「PPP≒民間事業者との連携」です。
PPP/PFIという用語すら大した意味は持ちませんし、必死になってそれぞれの自治体が生きようとすれば、自ずと使っている手法です。
PPP/PFIは公共施設等の問題を解決してくれる「魔法の手法」では決してありません。明日を生きるための、そしてまちのみらいを創っていくための泥臭い・生々しい「生きる手段」なのです。
そして、決して暗いものでも難しいものでもありません。現場やプロジェクトに直接携わったことのない総務省・コンサル・学識経験者などが短絡的な総量縮減・旧来型行財政改革の一環としてのコスト削減の道具として扱うから、そのように誤解されてしまっているにすぎません。
必死になって、そのまちが持っている本物の地域コンテンツを、地域のプレーヤーとともにビジネスベースで輝かせていく、それがひとつずつのプロジェクトですし、そのプロジェクトの総体がまちを創ります。
クリエイティブで明るいものになるはずです。
これからも、弊社では全国の自治体・民間事業者の皆さまと多くのプロジェクトを創出し、オモロいまちにしていきたいと考えています。
【出版案内】
「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」(学陽書房)が2021年6月18日に出版予定です。自分自身、初の単著でこれまでの経験をもとにリアルな内容で構成しています。
ぜひお買い求めください。
(学陽書房_PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本)
http://www.gakuyo.co.jp/book/b575172.html
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