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「敢えて」集まる


まちみらい流

たまにはコンサル業なのに「字を一文字も書かない」宣言をしている「まちみらい」の業務がどのように行われているのか、その一端と「なぜそのようにやっているのか」を解説してみたい。

後段に記すが、国や一般のコンサル・監査法人はこのnote見ても簡単に真似できることではないし、表面的に劣化コピーすると自治体に迷惑かけるだけなので絶対にやらないでほしい。
(そのために書いているわけではないが、そんなことすらわからず「そうか、こうやればいいんだ」と表層的に劣化コピーしてレベルの低い怪しい業務で暴利を貪る、こちらからしたら迷惑でしかない。知的財産とか全く理解していない。
自治体の担当者も、もしこうした人たちからなんちゃってハンズオン支援なるものを営業・提案されたりしたらアヤシイと思って近づかないように)

集まって議論

まちみらいの行政を対象とした業務では、「いろんな課の担当者(や管理職)」が集まって徹底的に議論しながら進めることを基本としている。現代の日常業務がクソ忙しいなかで、(形式上だけの)働き方改革でオフィシャルな勤務時間が限定されるにも関わらず、「敢えて」多くの職員を長い時間を拘束して、徹底的に議論しながら形を模索していく。そこには予定調和もなければ落とし所なども最初に作ったりはしない。もちろん有識者委員会のようなシナリオなど存在する余地もない。

ただただ、プロとして徹底的なディスカッションを繰り返す。

アドバイザー業務型

アドバイザー業務型

基本パックでは、日帰り可能な場合は8日、1泊2日の場合は5回で延べ10日(モリモリパックはそれぞれ1.5倍程度)、直接そのまちに出向き、様々な所管課の職員から各自、「抱えている課題とどうやったら解決できそうか」をプレゼンしてもらい、それをいろんな課の職員がよってたかって徹底的にディスカッションしながら、形になりそうなものから順番に事業化していく方式をとっている。
2回目以降は「前回どのような議論がなされたか、今回までに何を検討してきたか、どうしてくのか」をプレゼンしてもらい、議論が必ず蓄積されていく・後戻りすることない形で進んでいくよう工夫している。

どうしたらディスカッションが盛り上がるのか・本質的な問題に踏み込んでいけるか・リアリティを担保できるのか等、常に職員の表情や発言内容を確認しながら、かつできるだけ口を挟まないように自分たちでディスカッションすることを促していく。「何のためにやるのか≒ビジョン」やそれを実現するために「誰が・何を・どういう頻度・収支でやるのか≒コンテンツ」を中心に、非合理的なものも含めた様々な与条件も整理しながら、「形にすること」に特化したディスカッションを繰り返していく。
コロナ禍ではいくつかの自治体で何度かオンラインでもやったことがあるが、やはり空気感が伝わらないとなかなか難しいことも確認できた。

個別案件型

個別案件型

包括施設管理業務委託、庁舎跡地活用などの具体的なプロジェクトをベースにした個別案件型の場合は、まちみらいで案件ごとに作成する専用のフォーマット(プロジェクトにもよるが延べ10枚程度)を利用し、それを1枚ずつワークショップ形式で整理していく。
まちみらい流では旧来型市民WSの「こうあったらいいな」のオママゴト形式ではなく、1人ずつ発言するよりも20人集まれば付箋に自分の思いを書き込み可視化することで20倍のスピードで議論ができること、ログとして残るので議論が後戻りしないこと、ヒートマップのような形で論点を可視化できることから、このような形式を採用している。
もちろんポイントとなるのは、プロジェクト構築のために必要な論点をもれなく検討していくことであり、このフォーマットを全て完成させた時点でそれを言語化すればサウンディングや要求水準書が自動でできる形としている。
同時に「みんな」「賑わい」などの行政的なNGワードは徹底的に排除しながら進めることや、「なぜそう思うのか?」の禅問答を繰り返しながら、1枚ずつの付箋に書かれた言葉の解像度を上げていくことも行っている。
藤沢市の市民会館のプロジェクトでは、対象となる施設数が多かったり多様な可能性があったことから最終的に延べ15日間、原則として9:00-17:00まで毎回約20名の職員で地獄の缶詰作業を繰り返すこととなった。

なぜこのやり方なのか

大きな方法論は上記2つだが、なぜ「敢えて」集まるのかを少し整理していく。

課題は類似していることが多い

行政を取り巻く課題は、都市公園・市営住宅・集会施設・・・いろんな施設やソフト面も含めて多様であるが、非合理的な社会だからこそ「なぜ課題がわかっているのに解決できないのか」のボトルネックには、共通することが非常に多い。
例えば「過去に補助金を入れているから財産処分ができない」ことを理由にしている場合は、「10年以上経過していれば包括承認制」や「10年未満でも地域再生計画」などで突破できることなどを1度説明すれば、同じような課題を抱えてい課・施設で改めて説明する必要がなくなるし、多くの関係者がそのことを理解することで共通認識になっていく。
もしこれをバラバラにプロジェクトごとの議論をしていたら、同じ話を何回もすることになり、はっきりいって1回で済むことなのに時間の無駄でしかない。

また、「〇〇課がなかなか理解を示さない」の場合も、どこかの課が既にそこの理解を得たりパススルーした経験知を持っていることもある。どうやって突破したのかのエピソードを集まった場で共有することで、ブレイクスルーのきっかけになるだけでなく、「前に進めるかも」といった空気感を醸成することにも役にたつ。

全体を見渡す

「縦割り行政」と揶揄されることも多いが、実際にどこのまちを訪れても、下手をすると同じ課の隣の係すら何をしているかわかっていない、リンクしようとしないことが多発している。
空き家対策・中心市街地活性化・商業振興を全て違う部署で対応し、同じ地域プレーヤーに似たようなことを別々のタイミング・立場で聞きに行ったり、似たような政策を違う部署で検討していたりと、非生産的なことが平然と行われている。
他の課がやっていることが理解できれば、自分たちの立ち位置も相対的に見えてくるはずだし、一緒に検討することでよりクリエイティブな選択肢が生まれる可能性もある。
常総市では、「保健センターの照明が暗く検診に来たこどもが泣いてしまうのでLED化したい」とのプレゼンに対して、他の課からうちもLED化していきたいという声が多く発せられ、公共施設全体でLED化を図っていこうとなった。しかし、「照明の本数を数えるのがメンドくさいので、随意契約保証型の提案制度で一気に解決してしまおう」という方向に収斂され、1施設のLED化の課題提起をきっかけとしてLEDだけではなく随意契約保証型の提案制度も手に入れることになった。

また、所管課だけで検討するとどうしても(既得権益を含む)多様な関係者の意向、法制度、国の方針等のバックボーンが頭にこびりつき、「何のためにやるのか?」といったそもそも論や「本当にこれでいいのか?」といった根幹的な問いがなされることはない。
しかし、いろんな課が集まって議論することでこうした「素朴だが本質的な問い」がなされることになり、より広い視点でそのプロジェクトにどんな価値があるのか、見出せるのかを検討できるようになる。

ノウハウ・経験知の共有

これは当初想定していたことではないが、意外と大きな効果が「元〇〇課の職員」である。前述のように現在の担当者はいろんなしがらみ等にがんじがらめ状態になっていたり、どうしても1歩が踏み出しにくかったりする。
しかし前任者を含む元〇〇課の職員がいることで「俺、本当はここでこういうこと企画してたんだよ」「実は前にこういう事業者から提案があったんだよ」「あの部長はこれだったらいいって言っていたよ」等の闇に埋もれていた経験知やこれまでの経緯などが聞けることが多い。(心の片隅では「だったらそのときにやっておけよ」と思うこともあるが、)こういう形式を取らないと顕在化してこない非常に大切な情報である。
同時にこうした元〇〇課の職員が一緒になって検討してくれることになれば、マンパワーやノウハウの補完の意味でも非常に役に立ってくる。

また、それぞれのプロジェクトについてビジョンの検討段階、サウンディング、要求水準書の作成、審査、優先交渉権者との交渉等、進捗が異なることから、1歩先をいくプロジェクトを見ることで「次はこういう作業が必要になるんだ、ここがポイントになるのか」ということを実践ベースで理解できる。また、足踏みしているプロジェクトに対して、先行する課の職員から「こうすればいいんじゃないか?」といったアドバイスがされる。
このように双方向型で「お互いに自分たちらしく学び合い、プロジェクトに反映できる」、経験知を蓄積しあえることも大きなメリットである。

お互いに緊張感

ある自治体では庁舎建設が検討されているが、このコストが300億円を超えるものと想定され、そのイニシャルコストが10%上振れするだけで、他に検討している全てのプロジェクトの原資がなくなってしまう。逆に10%下振れすれば、他のプロジェクトを全て推進するための原資が簡単に調達できる。
当初は庁舎が検討テーマに入っていなかったが、このような事情があるので市長に依頼して検討の場に参加してもらうこととなった。(市長からは2件追加要望があり、結局3案件が追加されたことで、いいことだが案件数が膨大となり検討時間が非常にタイトになった。)
実際の案件協議の場では、庁舎担当はこのハメられたキャップ(イニシャルコスト)をきちんと守りながら検討が進んでいるのかを常に説明することが求められるとともに、他の所管課からすると庁舎が物価・人件費等の高騰がこれだけ厳しいなかで条件を死守しようとしてくれていることに対して、自分たちも抱えているプロジェクトを実現していくことが必要となる。

また、他のプロジェクトに厳しい意見を出す以上、自分もそれ以上のことをやっていないと特大のブーメランが返ってくることから、「大した検討もせず、できることもしないでこの場に参加する」ことができないようになってくる。

このようにお互いにいい意味でプロとしての緊張感と忌憚のない意見が行き交う場、これこそ本当のプロとしての会議である。
(シナリオ等が存在したり、充て職の職員が座って何の意見も言わない、資料を延々と説明するような「やってます会議」は時間と金の無駄でしかない。同様に空中戦の現場をやらないお抱え有識者による外部委員会やノーリアリティの「これが欲しい」「こうすべきだ」の市民ワークショップも経営プロセスには全く必要ないだけでなく、そこにかけたリソースが無駄になるし、参加していただいている人たちにも不誠実である。)

「聞いてない」の排除

全てのプロジェクトは毎回の会議終了後、次回までの間に「検討すること」「やること」が課題として明確に提示される。それは会議出席者だけではなく、課として共有(必要に応じて複数の課が集まって検討)することが求められる。
こうしたプロセス・ロジック・仕組みを採用することで行政で最もメンドくさくて後からではどうすることもできない「俺は聞いてない」問題を回避することが可能となる。

「聞いてない」問題は特に上記noteで記した「お邪魔虫」の得意な(というかワンパターンの)やりたくないロジックに使われることが多いので、お邪魔虫に邪魔されないためにも、「聞いていない」を言わせない環境を作り上げていくためにも、「敢えて集まる」ことが有効である。

庁内・議会・市民等への説明で困らない

このように徹底的なディスカッションを時間をかけることの大きなメリットの一つが、その後の庁内・議会・市民等への説明が求められる場面で「何も困ることがない」ことである。
そうした「その場での素朴な疑問や論点」については、徹底的なディスカッションや禅問答のプロセスのなかで必ず出てきているものであるし、それに対するアンサーもコンサル等の誰かではなく全て自分たちで見出している。「なぜその単語を使っているのか」から「行間のニュアンス」まで自分の体に染み付いていることから、議会説明等の大事な場面で言葉に詰まることは絶対にあり得ない。

こうした当たり前のことが足元の強いプロジェクトにつながっていく。

表面的に真似できるモノではない

「オリジナル」のハンズオン支援

本noteで記した「敢えて」集まる方法論は、まちみらいのオリジナルである。
いろんなところで記しているが、数年前に国土交通省がハンズオン支援なるPPP/PFIの支援制度を発表したときに、国交省の当時の担当者に「それ、自分のやってることの真似ですよね」と尋ねたら「そうです、面白そうなやり方だったので」と何の悪びれることもなく、何よりオリジナルに何の意見を求めるわけでも仁義を切るわけでもなく劣化コピーをしてしまっていた。

残念ながら、過去の実績を見れば自治体側も全額国費による事業であり、自らの財政負担がゼロであることから甘い気持ちで望んでしまっていることもあるかもしれないが、「国から派遣されたコンサルによるハンズオン支援」が全くといって良いほど機能していないことは一目瞭然である。
当たり前だが人が公務員時代からの経験知を蓄積して辿り着き、今も試行錯誤をしながらブラッシュアップしている方法論を、行政経験もない旧来型の仕様発注・サービス購入型PFI(BTO)の要求水準書づくりしかやったことないようなコンサルや結果の数字をこねくり回すだけの監査法人に、非合理的な社会の行政で、しかも自治体に応じたオーダーメイド型で支援・伴走できるわけがない。

実際にまちみらいでサポートさせていただいている自治体でも、こちらの完全な力不足によるものであるが、なかなか成果に結びつかない事例があることも事実である。だからこそ日々、プロとして試行錯誤をしなければいけないし、あらゆる方法論を試し続けるしかない。

このnoteを読んでいただいている自治体は、(最終的な判断はそれぞれの自治体の行き方なので自由だが、)迂闊に「自分たちの財政負担がゼロだから、国がコンサルを一方的に派遣してくれるから」といった受動的な理由でハンズオン支援に手を出さないことをオススメする。
自分たちで誰とやるかもわからない・財政的な負担もしないといった形で、リソースを何も割こうとしないのにリターンが得られるわけがない。

非合理的な世界だからこそ

行政は非合理的な社会であり、お邪魔虫なども含めて非生産的な壁にぶつかることも多い。そして、その状況は自治体によって大きく異なり、その瞬間的な政治の風やパワーバランス、人事異動によってもガラッと変わってしまう。
そのような非合理的で不安定な背景の中でも手を拱いているのではなく、プロとして着実に数多くのプロジェクトを具現化していかないとまちが衰退してしまう。

「そのまちの職員だけ」で「担当課ごと」に「今までの(会議や意思決定の)やり方」で「既存の意思決定のスピード」でやっていくのが難しいからこそ、「敢えて」集まって、外部の適正なハンズオン支援を受けながら徹底的なディスカッションを積み重ねてやっていくことが一つの生き方になる。

時間を徹底的にかける

「まちみらい流」は時間が一見、膨大で無駄な時間がかかるように見えるかもしれない。実際に、朝から晩まで何日にもわたって検討したり、他の課の案件まで協議するためにその場に参加することは、「使わなくても良い時間」とも捉えられるかもしれない。
しかし、本noteで述べてきたように行政が抱えている課題は共通項が多いこと、非合理的な社会であること、縦割り社会・組織であること、異動が多く過去の出来事が見えにくいこと等を考慮すると、結果的には「敢えて」集まることの方が早い。

それだけでなく、上記で記した行政ならではの課題を解決していくこと、職員個々のスキル向上や見識・視野を広めていくこと、庁内の風通しを良くしていくこと、プロジェクトの質を上げていくこと等にも大きく貢献する。
何よりも「自分たちでコンサル等に依存せずプロジェクトを構築できる」ことで、自信がつくだけでなく、一人称のプライドと責任感を持ったプロジェクトにしていくことにもつながり、そのことが「まちを前向き」にしていく。

ちなみに、この方式を採用して市長から担当までシステマチックにやってきた宮崎市では、わずか1年余りの間に市営住宅の住み替え支援業務委託や目的外使用による空き住戸の利活用、土地の包括売却業務委託、Park-PFI、民間のコワーキングスペースと連携した中高生の居場所づくり、学校を中心とした包括施設管理業務、DBO方式による公民館の改築などのプロジェクトを実施している。もちろんこれら全てのプロジェクトはコンサルへのアドバイザリー業務委託などの無駄なコストをかけることなく、全て職員が自前で作り込んでいる。
キャッシュベースで考えても50,000〜60,000千万円/件のコストがかかるアドバイリー業務が5〜6本不要になったことから、数億円単位の削減につながっている。
同時にこうした今までかかっていた無駄なコストがプロジェクトや他の政策に充当できると考えれば、「敢えて」集まることがどれだけのメリットがあるかわかってくるだろう。

繰り返しになるが、国のハンズオンやコンサルによるなんちゃってハンズオン支援業務ではこうしたことにはならない。理由はわかっていただいたと思うが。

「まちみらい流」、やることは

  • 前から進めるように「手を差し伸べる」

  • 横から倒れないように「支える」

  • 後ろから「蹴っ飛ばす」

この割合は1:1:8、これが黄金比率w
行政の職員は圧倒的に高い事務処理の能力を持っているのだから、大切なのは「1歩を踏み出すようにしてあげること」だけ。

お知らせ

noteプレミアムへの移行

2025年1月からまちみらい公式noteは「noteプレミアム」に移行しました。(単純に今まで知らなかっただけ。。。)
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また、最下段にあるように「投げ銭」は絶賛募集中ですw

2024年度PPP入門講座

来年度に予定する次期入門講座までの間、アーカイブ配信をしています。お申し込みいただいた方にはYouTubeのアドレスをご案内しますので、今からでもお申し込み可能です。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2024年12月現在6刷となっており、多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
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投げ銭募集中

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