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クリエイティブとは?

人気急上昇ワードの「クリエイティブ」

ザ・公共施設マネジメントの対義語?

最近、公共施設マネジメントや公共空間の利活用で、「クリエイティブ」がキーワードとしてにわかに注目されています。

旧来型の行財政改革の流れを汲んで短絡的に施設総量を削減すれば良い、いろんなものをやめて単年度会計現金主義におけるハコモノコストを減らせば良いという「ザ・公共施設マネジメント」の対義語として扱われることも多いと思います。
実際に、自分もクリエイティブをこのような意味合いで活用したりしています。

施設総量を単純に減らせば良いのではなく、①せっかくの資産を有効に活用すること≒「負債の資産化」、②公共資産を媒介として活用しながらまちの形を再構成していくこと≒「まちの再編」、③公共資産がまちのなかで社会の変化と合わせて柔軟に変わり続け、まちを有機的に動かしていくこと≒「まちの新陳代謝」が求められていることですし、大切です。

このようなリアルにまちに向き合い、持てるリソースを活用しながら自分たちらしく覚悟・決断・行動していく概念そのものがクリエイティブですし、ザ・公共施設マネジメントでは盛り込まれていないものです。
確かにザ・公共施設マネジメントの対義語としての「クリエイティブ」も意味がありそうです。

イケてるプロジェクト?

近年、公共資産を活用したイケてるプロジェクトが全国各地に生まれています。
オガール・プロジェクト、INN THE PARK、ONOMICHI U2、バルンバルンの森。。。

確かにこれらのプロジェクトは間違いなくクリエイティブですし、そこでしか味わえない体験・そこでしか味わえないサービスがあります。ザ・公共施設マネジメントではどう転んでも出てこない、そしてつながらない世界・空間・コンテンツ・魅力が広がっています。

マジックワード?

一方で、公共施設等総合管理計画では軽々しく「クリエイティブに民間事業者と連携して。。。」などのように書かれていたりします。割賦払いに近いハコモノ整備のサービス購入型PFIにも関わらず「クリエイティブなプロジェクト」を自称したり、挙句の果てには大したプロジェクトを実施したわけでもないのに、「あのまちはクリエイティブ」だと表彰されたり、錯覚したり。

いつの間にか、「クリエイティブ」の用語そのものが、曖昧で都合の良いことば「みんな」「賑わい」などと並んでマジックワード化しているような気もします。

行政(や一般職員)に難しいことなのか?

アンケート等にみられるネガティブ思想

職員研修やセミナーでいただくアンケート結果をみると、「行政ではそんなクリエイティブなことはできない」「うちのまちにはそんな良い資産や文化がない」「○○さんのようなプレーヤーがいない」等、やる前から諦めてしまっている残念なものが散見されます。

諦めた瞬間がゲームオーバーですし、ネガティブな発想しかできないまちには小さな可能性に賭けるクリエイティブなプロジェクトはできないでしょう。
もし、担当者としての自分が未来を見つけられない、希望を見出せないのだったら、他の人に担当を譲りましょう。

キラキラしていないといけないのか?

「クリエイティブ」は前述のようなキラキラしたイケてるプロジェクトだけを指すのでしょうか。
仮にそうだとしても、本当にキラキラしたプロジェクトがひとつも、そして100%可能性がないまちがあるのでしょうか。

行政単独ではできなくとも、それぞれのまちにしかない地域コンテンツがあります。行政には一切頼らず、自分たちで(金融機関から)資金調達してビジネスを展開し、税金を納めている民間事業者≒地域プレーヤーが必ずいます。
こうした地域コンテンツ・プレーヤーと連携することで可能性が見えてこないでしょうか。

改めて「クリエイティブ」を考えてみる

イケてるプロジェクトの根幹

前述のオガール・プロジェクトやONOMICHI U2など、イケてるプロジェクトはその構築プロセスも、一般的な行政の「基本構想→基本計画→基本設計→実施設計→工事→(指定管理者の選定→)運営」or「基本構想→基本計画→可能性調査→アドバイザリー業務→プロポーザル」とは大きく異なります。

更に、オガールでは一般的に基本計画や実施方針にあたる「公民連携基本計画」の冒頭に「未来の紫波中央駅前におけるある一日」で次のように記されており、それが見事にビジョンとコンテンツとなっています。

https://www.town.shiwa.iwate.jp/material/files/group/9/08888196.pdf

「未来の紫波中央駅前におけるある一日」
魅力的なブールバールのある街の朝は、一番乗りの店主が店を開けた瞬間から賑わいを見せる。 足早に行き交う出勤途中の人々の中に、役場庁舎に向かう職員の姿がある。高齢者は早朝講座のために情報交流プラザに集まって来ている。
統一されたデザインの2列の事業棟の間に位置するブールバールを紫波中央駅前大通りに向かって歩いて行くと、住宅地の住民が通勤電車に乗る前に、駅前でカプチーノを買っている。通りの北側を見ると、高校生が始業に間に合うように学校へ急いでいる。
日中の街では、人々が図書館や交流館、医療施設など様々なサービスを利用しているのが見受けられる。紫波の農産品を揃えた地元の小売店やレストラン、カフェは、街の魅力を堪能する人々で溢れている。事業棟に事務所を構える人の中には、打合わせ場所としてレストランやカフェを選択する人もいる。ブールバールに彩りを添えるプランターの手入れをしているグループの1人が、花屋の店員に話しかけている。
昼休みになると、レストランやカフェはアーケードの下の歩道やブールバールの遊歩道にテーブルと椅子を広げる。歩道に出されたメニューに書いてある「今日のおすすめ」が、買い物客や用事を済ませた人々を食事へと誘う。情報交流プラザのロビーでは、アート・スタジオが作品展を開催中である。ダンス・演劇関係者は町民劇場の開演に向け、ホールで準備をしている。アーケード下の歩道を歩いているのは、事業棟の上階にあるエステサロンやヨガ教室へ向かう人々などである。ブールバールの広場では、子供たちが大きな木の周りを追いかけっこするのを見守りながら、親同士はおしゃべりをしている。お話の時間を目当てに、広場を横切り図書館に向かう親子もいる。木陰には、新聞を読んでいる人や将棋に興じる人がいる。すこやか号を待つ間、ベンチで世間話に夢中の人たちもいる。
平日の夕方、街の中心は演劇の幕間のような雰囲気に包まれる。店主が歩道に並べていた看板や商品を店内に取り込み、店の前を掃除している。銀行で今日最後の用事を足し、紫波中央駅や近隣の駐車場・駐輪場に向かう勤め帰りの人々がいる。図書館に本を返却する学生やビジネスマン、講座を終えて出て来た人々などで、情報交流プラザ前に静かな混雑が見られる。塾を終えた子供を迎えに事業棟へ行った後、並びにあるパン屋で焼きたてのパンを買い、広場で夕陽を眺めながら頬張る親子がいる。太陽の長い日差しが、緑のカーテンとして植えられた朝顔が覆うシビ ックセンターの外観を照らしている。家路を急ぐ人々は、ブールバールに面した新鮮でこだわりの品揃えが自慢の店で買った夕食の食材をエコバッグに詰め、自宅のある住宅地へ向かう。
日が沈み、気温が下がった頃、街は再び食事、文化活動、スポーツの場へと変貌する。歩道は、街灯と街路樹を飾る電灯で綺麗に照らし出されている。人気の地産地消レストランからはがやがやとした話し声が聞こえ、地酒にこだわったパブからはジャズがかすかに流れてくる。情報交流プラザの前では、家族や友人同士の大小のグループが「あらえびすコンサート」のために並んでいる。その脇を、サッカーボールを抱えたグループが、フットサルをしにサンビレッジ紫波の方向へ歩いていくのが見える。段差がなく、広々として歩きやすいブールバールでは、家族やカッ プルが夜の散歩をしながら、紫波が最も大事にする豊かな自然を満喫している。図書館やアイスクリーム屋などいくつかの店舗は、そういった人々を歓迎し遅くまで営業している。

紫波町_公民連携基本計画:https://www.town.shiwa.iwate.jp/material/files/group/9/08888196.pdf

更に、近年、公共施設マネジメントというより公共資産の利活用、まちとリンクしたプロジェクトでにわかに脚光を浴びている津山市では、町屋を高級ホテルとして再生した「糀や」、随意契約保証型の民間提案制度で事業化した「たかたようちえん」、年間1億円以上キャッシュアウトしていた温水プールを再生した「Globe Sports Dome」、などを展開しています。

これらのイケてるプロジェクトに共通することは、PPP/PFI導入可能性調査などの業務委託は一切せずに、そしてVFM(Value For Money)の算定なども行っていないことです。
少し横道に逸れますが、本来のVFMは文字どおり「投下するコストに対してどのぐらいの価値を生むのか」を意味するはずですが、日本の公共施設整備では「従来型手法(PSC)と比較してPPP/PFI手法を活用することで何%コストが安くなるのか」を短絡的に比較する手法に成り下がってしまっています。

内閣府_VFMに関するガイドライン:https://www8.cao.go.jp/pfi/hourei/guideline/pdf/vfm_guideline.pdf

イケてるプロジェクトは、「まちとして投資できるコストを活用してどのようなリターンを得るのか」を、地域コンテンツ・プレーヤーとともに構築していく現場レベルでのVFMを基準として考えているといえるかもしれません。このVFMこそがリアルVFMであり、その中心は定性的な評価になってくるでしょう。

この定性的な評価を首長・職員・民間事業者等が考えて共通認識を醸成しながらプロジェクトとして収斂させていくことそのものがクリエイティブですし、その根幹にあるのは関係者(≠全員)の個としてのクリエイティビティでしょう。

普通にできるクリエイティブ

では、大規模なプロジェクトでかつ自由度の高い案件でなければクリエイティブにならないのでしょうか。

当たり前ですがそんなことはありません。
行政が揶揄される「前例踏襲・事なかれ主義」からの脱却や「既成概念・ルーティンワーク」の打破による小さなプロジェクトや工夫もクリエイティブですし、まちの経営に大きく貢献します。

少しずつ広がりを見せている庁舎の電気工作物や学校の消防設備などの複数施設の保守点検業務を包括委託する「包括施設管理業務」も、(ビルメンテナンス業者からの仕込み案件である場合は別ですが、)自分たちでそのまちらしく組み上げていくことは十分にクリエリティブですし、そのまちごとの特徴が現れます。
湖西市では500千円/件未満の修繕を包括の業務範囲に含みつつ所管課に裁量で執行できる少額の修繕予算を残したり、明石市ではマネジメントフィーなど見かけ上の契約額の上昇分を1,300千円/未満の修繕費を全て包括に内包することで、施設所管課から該当する職員を減員して庁内合意を図るなどしています。

沼田市では、商業施設をリノベーションした市庁舎(TERRACE沼田)の総合管理を公募する際に、「民間事業者から包括委託したほうが効率的になる施設を提案してもらい、市との合意が得られた施設を包括委託する」方式をとり、130以上の施設の包括に至っています。
高砂市では、増加するマネジメントフィーと民間事業者が必要とする一般管理費などを調整するため、庁舎のなかで民間事業者が自由に活用できるエリアを設けるなどして、民間ノウハウを活用して必要なコストを民間事業者が自ら調達できる仕組みをビルトインしています。

包括施設管理業務ひとつとってみても、これだけ自治体によって工夫できることはあるのです。(マネジメントフィーガー、予算の一本化ガー、地元業者ガー、議会ガーなどの低いレベルで導入可否を検討している場合ではないのです。)

更に小さな事例として、貝塚市・鳥取市・沼田市などでは解体直前の公共施設を活用した消防突入訓練を積極的に実施しています。

市民の命を守る消防署の職員も、なかなかリアルな建築物を活用してスチールドアを切ったり、床に穴を開けて階下へ移動する訓練をできる機会は得られません。
このような本当に小さな取り組みも蓄積されていくことで、まちの経営にとって大きな力になってくるはずですし、当然にザ・公共施設マネジメントの小さな視点では見えてこない世界です。

「まち」に対して真摯な姿勢であれば、できることをできるようにやろうと思えば、普通にクリエイティブなことはできるはずです。

福知山市の提案制度

2021年度からお手伝いさせていただいている福知山市では、廃校Re-活用プロジェクトと題して、廃校の利活用を積極的に進めています。

待っているだけではなく、廃校バスツアーを行ったりネット上でも紹介動画などを公開したりしています。
ここまでは割とどこでも思いつくことかもしれませんが、実際に活用されている廃校もTHE 610 BASEや里山ファクトリーに代表されるように非常にクリエイティブな利活用がされています。

この2つのプロジェクトはそれぞれ市街化調整区域内に位置し、そのままでは工場などに用途変更することは困難です。そこで、福知山市は民間事業者の活用意向に合わせて学校敷地とその周辺に地区計画をかけることで適法性を確保しています。それだけではなく、売却・貸付などの方向性も活用意向を持つ民間事業者との協議のなかで探っています。

更に、まだ10以上ある廃校をより効率的に利活用を図っていくために随意契約保証型の民間提案制度を構築することとなりました。

福知山市_提案制度の構築プロセス

この制度設計にあたっても、これまでの経験知を生かしながら徹底的なディスカッションで検討しましたが、全体の指針を策定して個々の利活用は個別の実施要領により対応してくこととなりました。
この全体の指針では、「事業実施を行う前から常に事業者からの様々なアイデアや相談の受付を行い、事業者とともに民間提案事業の案件抽出や諸条件の整理を行います。」と明確に位置付けています。
こうした民間意向を反映しながら要求水準を作っていく方向性を見出すこと、庁内の統一基準と位置付けることもクリエイティブな判断であるといえます。

バーデハウス久米島の再生プロジェクト

同じく2021年度から支援させていただいている久米島町。まちの誇りでもあり一大観光スポットだったバーデハウス久米島を再生させるプロジェクト。

詳細は上記のnoteで記していますが、町の「やりたいこと・できること・与条件」を徹底的に整理したうえで3期にわたるサウンディングを繰り返しながらプロジェクトとして収斂していくプロセスは、まさにクリエイティブそのものです。

同時に特筆すべきは、やはり要求水準書です。実質的にA4用紙約2ページで取りまとめられています。受付の人数や開館時間などはもちろん、諸室の面積・機能なども全くと言って良いほど規定していません。
複数の民間事業者との長期にわたるシステマティックなサウンディングを通じて「町のやりたいことは民間事業者に伝わっている」、「民間が提案する内容はある程度見えている」状態を構築してきたからこそ成せる業であり、要求水準書を含む公募関連資料そのものもクリエイティブなものになっています。

マインド⇒プロジェクト⇒まち

このようにみてみると、イケてるプロジェクト≒クリエイティブなプロジェクトは、(現在進行形の)アウトプットとしての華・クリエイティブさはもちろんですが、そのクリエイティブさを支えているのは、そこに関わる人たちのマインド、プロセスにおける工夫、既成概念にとらわれない柔軟でリアルな事業スキームの構築。こうしたことの連鎖・蓄積が顕在化しているに過ぎないのかもしれません。

同時に前述の包括施設管理業務、消防突入訓練だけでなく改修予算の順位づけ、ESCO、有料広告、基金の創設と運用や光熱水費のマネジメントなどもキラキラした形として顕在化するわけではないですが、まちの経営には大きく貢献していますし、それを支えているのも同様にクリエイティビティです。

つまり、クリエイティブな「マインド」でまちを直視し、自分たちの目線でいろんなことを考え、できる方法を自分たちらしく模索しながら「プロジェクト」形にしていく。そうした大小問わないプロジェクトの蓄積がクリエイティブなまちに繋がっていくのではないでしょうか。
更に、クリエイティブなまちにはクリエイティブな人たちが集まり、関わる人たちもこうした流れに触発されクリエイティブになっていく、このスパイラルが今、求められていることだと思います。

そのためにも、まずは気づいた人ができることをやってみる。
他人、先行するプロジェクト、他のまちを羨ましがっているだけでは何も変わりません。
自分たちのマインド・プロジェクト・まちは自分たちで創っていく。改めてこの基本が大事だと思います。

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