「正しく」活用する指定管理者制度
誤った運用
PPPの基本的な手法とされている指定管理者制度。一部では古い仕組みでオワコンとも言われていますが、決してオワコンではありません。拙著「PPP/PFIに最初に取り組むときに読む本」でも解説していますが、使いようによっては非常に便利な仕組みです。
オワコンと思っている人・まちは、残念ながら全国的に「誤った運用」をしているだけです。
NHKニュース
重要な事例なので長い引用をしましたが、指定管理者制度によって「一般財源の負担を減らしたい」の短絡的な思考回路・行動原理で「なんとなく」表面上を誤魔化し続けた結果、サービスの質が低下するとともにコスト削減に耐えられる民間が消え、施設が休止に追い込まれたということです。
桑名市の指定管理者見直し
桑名市では、2019年4月から指定管理者制度を導入していた39施設を一斉に直営に戻して話題になりました。
その後に行われたサウンディング型市場調査では(※現在はホームページ上から削除されていますが、)「①指定管理者制度以外にも方法があること、②立地による施設の市場性があること、③管理運営方法を工夫することにより歳出削減が図られる可能性があることなどが把握できた。」と書かれていました。
※現在は指定管理者制度の見直しについて検討の経緯は不明ですがPPF(Public-Profit-Facilities)、「第三の施設」という概念に置き換られているようなので、当該部分はホームページから削除されていると推測されます。(第三の施設も条件付きの定期借地権≒普通財産の貸付に近い形なので、目新しいわけではありません。)
また、指定管理者制度そのものについては、コラボ・ラボ桑名ガイドラインで次のように書かれています。
指定管理者制度が残念ながらうまく活用されていないようです。
札幌ドームからエスコンフィールド
2023年シーズンから北海道日本ハムファイターズが、北広島市のエスコンフィールドにホームタウンを移転することになりました。
詳細な経緯やデータは上記をはじめ、様々なYouTubeチャンネルでわかりやすく解説されていますが、簡単に概略をまとめると下記のとおりです。
2022年シーズンまで北海道日本ハムファイターズは、札幌市の札幌ドームを本拠地として利用していたわけですが、ここは札幌市の公の施設であり外郭団体である株式会社札幌ドームが指定管理をしています。
ファイターズとしては最大の経営資源である選手に良いパフォーマンスをしてもらったり、ファンに喜んでもらえるための環境づくりを(飲食・物販の売上をファイターズに還元することも含めて)提案していましたが、札幌市及び外郭団体との間で平行線となっていました。
そこで交渉の材料として「札幌ドームからの移転」を出したわけですが、そんなことができるわけないと鷹を括っていた札幌市及び外郭団体。この噂を聞きつけた北広島市が土地は無償で用意するので、球場は自前で建ててほしい(同時に自分の球場なので自由に使って構わない)ことを提案し、今日に至っています。
これまで札幌市は札幌ドームから数億円/年の納付金を得ていましたが、これからはこの目玉コンテンツが消失することで大赤字のハコモノとなるだけでなく、周辺のエリア価値などにも甚大なダメージがでてくることとなります。
(一方で、2022年の地価上昇率の首位は北広島市です。)
札幌ドームに関する指定管理者制度をうまく活用できていなかった事例と言えるでしょう。
コロナ対応
指定管理者協会は令和2年度の提言書で次のように記しています。
https://www.shiteikanri.org/Portals/0/pdf/teigen/R2_teigen.pdf
大切なことなので該当部分を全てコピペしましたが、要約すれば「行政がコロナに関するリスクを一方的に指定管理者へ押し付けている」ということです。
引用の冒頭にもあるようにリスク分担表で記載されていない≒想定されていないリスクなので、本来は協議しながらひとつずつ対応していくべきことですが、全国的に指定管理者制度がうまく活用されていないことを象徴する事例とも言えます。
「アルバイトではなく正規職員でやれ!」としておきながら、休館中の補償をしないどころか人件費の返還を求めたりと傍若無人な振る舞いをしてしまうことで、「本当に脅威に晒された際に自治体と連携して最善の対応ができるか不安に感じている」と思われてしまっています。
対等・信頼の関係がPPP/PFIの基本ですが、このような対応を取る自治体はそもそも民間と連携する資格・資質がないと言わざるおえません。
過去には
これまでも指定管理者制度を巡っては2016年に図書館協会が「公立図書館の指定管理者制度について」において、次のような問題点を指摘しています。
指定管理期間が短いこと、指定のプロセスが不透明であること、政策決定と運営主体が分離していることなどを問題視していますが、どれも実体上の「運用上の問題」であり制度の問題ではありません。
実際に総務省も2010年に「指定管理者制度の運用について」で次のように書いています。
「地方公共団体の自主性に委ねる・単なる価格競争とは異なる・設置目的等を踏まえて指定管理期間を定める・サービスの提供者を民間事業者等から幅広く求める」ことは当たり前のことです。
制度がはじまって5年が経過した時点でこのような「基本的な」文書が発出された事実は、総務省の想定したとおりに指定管理者制度が運用されてこなかったことの裏返しでもあります。
代理執行・コスト削減?
指定管理者制度は地方自治法上、旧来の管理委託に代わる制度として登場しました。管理委託では公の施設の管理主体が出資法人・公共団体・公共的団体に限られ、その内容も具体的な管理業務または業務執行の委託に限定されていました。これがいわゆる代理執行という概念です。
更に、この時期は行財政改革の名の下にコスト削減が行政のトレンドになっていたため、指定管理者制度も「民間事業者にアウトソーシングすることでコスト削減する手法」として誤認されていきました。
指定管理者制度は、代理執行・コスト削減の手法ではありません。
改めて指定管理者制度
地方自治法の位置付け
地方自治法では指定管理者制度についてそれほど多く・詳細に規定されているわけではありません。
ここでのポイントは「業務の具体的範囲を条例で定め」、「議会の議決を経て指定する行政処分」であり「利用料金制」をとることができることです。
つまり非常に自由度の高い仕組みなのです。
総務省の資料
総務省の指定管理者制度に関する資料では、制度の目的について次のように書かれています。
「民間事業者の活力を活用した住民サービスの向上」、行政の直営や従来の管理委託ではできなかった質の高いサービス、この中心となるのが利用料金制と貸し館だけではなく「自主事業」となります。
更に「費用対効果の向上」は求めていますが、短絡的なコスト削減とはどこにも書かれていません。
あわせて「利用料金制」により利用料金を指定管理者が収受できる仕組みも地方自治法で位置付けられています。自主事業と合わせて指定管理者は利用率を向上させることが自らのインセンティブ・経営的な魅力となっていくのです。
利用料金制を採用せず従来どおり使用料でやっている限り、指定管理者は経営的なインセンティブが働かないため、それほど頑張る要素になってきません。発想が古い自治体は、そのことにすら手をつけていないのではないでしょうか。
運用のポイント
何をしたいのか?
指定管理者制度を運用するに当たっても、基本となるのは「そこでどんなサービスを提供したいのか」「どんな場にしたいのか」というビジョンです。
それを(行政だけではできなかった部分も含めて)実現するためのサービスプロバイダとして指定管理者があるのです。ハコありきでも指定管理者ありきでもありません。
自主事業
前述のとおり管理委託では業務委託仕様書で管理主体が行う業務を(本来は)事細かく規定するので、「決まったこと」しかできず(求められず)クリエイティブなコンテンツを提供することは「できない」(やってはいけない)ものとされていました。
指定管理者制度の目的は「サービスの向上」なので、受動的な貸し館事業にとどまらず、アクティブに民間ノウハウを活用してクリエイティブなコンテンツを提供する自主事業が最大のポイントといっても過言ではありません。
きちんと制度を理解した体育施設では、エントランスで関連するウェア・スポーツ用品・サプリ・飲料などがセンスの良いPOP、専門性の高い解説とともに置かれ、なかには専門の販売員を置くところもあります。
8レーンのプールでは4〜5レーンが常に様々なスクール等で活用され、自由遊泳・水中ウォークは2〜3レーンに集約されています。
単純な利用料(≒貸し館)では1人あたり数百円の単価にしかなりませんが、スクール形式を取ることでスイミングであれば5,000〜8,000円/月程度、単発のアクアビクスでも500〜1,000円/回の単価となってきますし、圧倒的に泳力・体力(≒サービス)の向上にもつながっていきます。
文化・教養系の施設でも貸し館では1時間あたり1部屋で数百円から千円程度にしかなりませんし、そもそも「誰かが」「何かを」「偶発的に」やってくれない限り利用もなされません。一方で自主事業として様々な講座を仕掛けていけば、前述のスイミングスクールの例のように単位も部屋ではなく個人になり、単価も向上するとともに、「お金を取れるコンテンツ」である必要から質も自ずと向上します。
自動販売機・売店・キッチンカーなどの付帯的な自主事業もサービスと費用対効果の向上に直結していきます。
指定管理者制度の最大のポイントは、このような自主事業をどれだけ実施できるかになってくると考えられます。
要求水準書
このような視点から考えると、下記のnoteとも関連しますが、公募時の要求水準書においても実績や資本金ではなく「何をしたいのか」「どんなコンテンツ≒自主事業を展開できるのか」を積極的に問うていくことが求められます。(もちろん、行政が「その施設でどのようなサービスを展開したいのか?」を明確に示すことが前提となりますが。)
自主事業に関する提案を求めなかったり、会社規模・実績・コスト削減・労務管理ばかり事細かに規定したり、受付人数や「業務のやり方」まで要求水準で仕様発注にしてしまっては、クリエイティブな民間事業者は魅力を感じないので応募を見合わせてしまいます。
採点表
これと連動して採点表もしっかりと考えていかなければいけません。
「民間事業者のノウハウを積極的に活用」したいのであれば、採点表で最も配点すべきは自主事業です。
価格点の配点割合が自主事業よりも高かったら、民間事業者は「プロポーザルで勝つため」にコスト削減を徹底的に図ります。単価の高いクリエイティブな正規社員(やエース級)ではなく、単価の安いアルバイトなどを中心に配置し、自主事業が求められない・評価されないのであれば、そのようなことに時間も労力も一切割くことはなくなります。
パートナー
「指定管理者制度(をはじめ民間との連携)を進めていくと、行政のノウハウがなくなっていく」と勘違いしている行政職員・まちもいまだに多くありますが、根本的に間違っています。
指定管理者は行政とともに公共サービスを創り上げていくパートナーです。
丸投げ委託・短絡的なコスト削減のためのアウトソーシングとして運用して、現場にすらいかなくなるので現場がわからなくなり、ノウハウも喪失していくのです。
指定管理者(をはじめ民間事業者)と一緒になって、そこで提供する公共サービスの質の最大化を必死になって図っていく、「行政だけではできなかった」部分を創出していくことが基本です。
そういう意味では、直営時代にも増して現場に足繁く通う必要がありますし、日常のルーティンワークとなる部分も含めて効率化を図っていく必要があります。
対等・信頼の関係がベースなので「指定管理者の質が低い」と嘆いているのは、「行政の質が低い」といっていることと同義です。指定管理者がオワコンと言ってPPP/PFIの基礎的な手法である「指定管理者制度すらまともに使えない」自分たちこそがオワコンなのです。
指定管理者制度をうまく活用してクリエイティブな公共サービスを提供する、費用対効果を向上するためには、それと同じレベルで行政がクリエイティブにやっていくことが必要です。
こちらのnoteで記したサウンディングと同様、指定管理者「も」見つめ直し、クリエイティブに使っていきましょう。
↓(一時期、品薄状態が続いていましたが)4刷が市場に出始めており、すぐに購入できる状態になりました。