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撤退したらどうするんだ!


撤退を恐れる行政

ある自治体での議員説明会

アドバイザー業務を実施しているある自治体では、先日議員選挙が行われメンバーが多少入れ替わったことから、改めてPPP/PFIや公共施設マネジメントに関する議員説明会を行った。
このまちでは、完全独立採算・逆算方式の道の駅の実現に向けて現在、優先交渉権者を選定・協定を締結して詳細協議を実施しているところである。このプロジェクトの意義なども含めて説明をしたところ、ある議員から「プロジェクトの意味はわかったし大変そうなことをやっているのも理解した。ただ、民間事業者が主体となると撤退してしまうのではないか、撤退した後はどうなるのか?」といった質問が寄せられた。この素朴だがどこでも出される意見に対してどのように答えたのかは後段で記載するが、行政や議会は撤退を必要以上に恐れる傾向がある。

だから民間は

地方に行くといまだに「民間は撤退するリスクがあるから行政が(直営で)やった方がいい」という意見を耳にすることがある。
もちろん庁舎・消防等の公用施設において「そのまちをどうするのか」を考えるのはそのまちの首長と補助機関としての職員が行うべきことであるが、住民票の発行・体育館で行われる様々な教室などは「職員が自ら」でやる必要性はそれほど高くない。むしろ、こうしたところは民間事業者の得意分野なので民間事業者にそのスキルを最大限に発揮してもらい、行政は自分たちの本来業務に集中した方が合理的である。

また、もう一つ冷静に見る・捉えるべきことは「行政はビジネスをしたことがない」ことである。
単年度会計・現金主義で税の再配分を中心とした「行政運営」にどっぷりと浸かってしまい、仕入れ・営業・原価計算・(本格的な)接客等をしたこともない行政が(アホコンサル・お花畑の市民WS・有識者会議での空中戦の議論をもとに)なんちゃって官製ビジネスをやろうとするから各地で悲惨な事例が相次ぐのである。
2023年8月に日経新聞1面で大々的に報じられた「民需なき官製都市」も同じような論理構造である。

「民間は撤退するから行政が自ら」では、まちのなかで経済循環も生まれないし、行政依存型の市民を増幅・増長させていくことにもつながってしまう。
各地で官製イベントに職員が「ボランティア」として駆り出され疲弊し、(付き合いがあるからと)無理やり協賛金も取られて参加させられた挙句、利益が出ない(下手をすると赤字になってしまう)民間事業者もバイタリティや経営資源を喪失していく。あるまちの毎年開催される大規模な一過性のイベントには、職員が約1週間にわたって休日や夜間も警備などに動員され、大量に訪れる市民等の対応で疲れ果てるだけでなく、そのイベント前後は職務が滞る事態に陥っている。
そもそも動員される職員の多くもボランティア精神ではなく、職務命令に近い形でやらされているにすぎないのでタダ働きでしかないし、そこからホスピタリティやクリエイティビティが生まれるわけがない。

撤退は悪なのか

なぜ撤退するのか

民間事業者が公共施設内でのテナント、指定管理者、普通財産として貸し付けられていたもの、業務委託等から撤退することは当然のようにありうる。
民間が撤退するのは、「そこに経済合理性・魅力・可能性が見いだせなくなったから」「行政がパートナーとして信頼できなくなったから」「自社の他ビジネスとの関係」等、何らかの経営判断や理由が発生したからである。
現在行われているほぼ全てのPPP/PFIのプロジェクトや業務委託はプロジェクトファイナンスではなく、コーポレートファイナンスになっている以上、民間事業者は自社の経営に深刻なダメージを与える前に「損切り」することは極めて健全な判断であり、何も悪いことではない。

撤退は悪いことなのか

「撤退≒失敗」と捉える行政職員や議員も多いが、上記のように民間事業者が自らアラートを働かせて「危なくなる前に撤退」してくれるから、はじめてまちの中に新陳代謝が生まれる(可能性が出てくる)。

商店街でも様々な店舗が撤退していくと一時的に衰退してしまうこともありうるが、そこで適正なリアクションをしていけば「安い賃料・緩い条件」であることを理由として新たなビジネスが生まれるチャンスにもなりうる。(しかし、行政ではこうした撤退が顕在化してくると、一般財源や場合によっては国や都道府県の補助金・交付金を投入して「延命措置」をしてしまったり、余計に疲れるイベントを乱発したり利益を発生させない歩道や照明の整備を進めてしまう。)

アルネ津山_外観
アルネ津山_3F
アルネ津山の周辺エリア

撤退しない(できない)悲劇は、全国各地の墓標を見れば明らかである。
このようにうまくいかなくなって問題がまちなかに顕在化してくると、マジメな行政は「何とかしなくては」と更に税金を投下したり表面上を取り繕うために公共施設で床の穴埋めをしたりしてしまう。
こうした自然の新陳代謝と異なる動きを繰り返してしまい、そこに投下したマンパワー・税金等が雪だるま式に膨れ上がり「今更後にも引けない(言い訳ができない)」状態に陥ってしまう。
アラートが働いた瞬間に民間と歩調を合わせて撤退していれば。。。と思っても時すでに遅しである。

新陳代謝

先日宿泊した旭川市のOMO7は、星野リゾートが旭川グランドホテルを再生したものである。

OMO7旭川_エントランス
OMO7旭川_客室
OMO7旭川_カフェ

3日間滞在してわかったのは、リニューアルにあたってそれほど大きな投資をするのではなく、既存のものやスタッフをうまく活用しながら(セルフロウリュのサウナはセッティングがかなりのガチ仕様w)場所やコンテンツを絞って重点投資しながら「星野リゾートらしい」世界観を構成していることである。これは、過去に宿泊した三沢市の青森屋、リゾナーレ八ヶ岳にも共通していることである。

いずれも以前のホテルからの新陳代謝であり、まちの一等地に廃墟ホテルが存在するのと星野ブランドのホテルが位置するのでは全く価値が異なってくる。

撤退リスクとの向き合い方

ヒューマンスケール/エリアスケール

何よりも重要なのは「そこが撤退したら行政やまち全体が傾かない」ようにすることである。
補助金・交付金に依存してイニシャルコスト全振り型であらゆる経営資源を投下して、まちの規模を遥かに超えたハコモノを整備してしまうから、図体がデカすぎてコントロールが効かなくなるし、うまくいかなくなった場合の対応が困難になってしまう。埋めなければいけない床が多すぎるから、そのまちのプレーヤーやコンテンツでは賄いきれなくなり、断末魔の叫びとなってしまう。

だからこそ身の丈経営、ヒューマンスケール/エリアスケールにあったプロジェクトとしていくことが重要である。小さくはじめてプロジェクトがうまく軌道に乗って床が足りなくなったら、経済合理性にあった範囲で必要な分を増床・再投資していけば良い。それこそ嬉しい悲鳴である。

ウェイティングリスト

そのプロジェクト・エリア(や経済合理性)が魅力的であれば、進出したい民間事業者が次々と手を挙げてくるはずだ。計画時から「どのような場にしたいか」をベースに行政もリーシングのために営業を徹底的に行うことが重要だが、竣工時に全ての床が埋まったからといって手を抜いてはいけない。
個々のテナントがきちんと「儲かる」ように自分がまずは客となること、それを通じて一緒にコンテンツを日々ブラッシュアップしていくことを続けること。これに加えて万が一、既存のテナントやプレーヤーが撤退することを見越したバックアップ措置として、他の民間事業者にも営業を続けて諸条件の共通認識化を含めたウェイティングリストを作っておくことが有効な手段となる。

契約の工夫

行政職員や議員が「民間が撤退する≒潰れる」と誤解していることも一つだが、
もう一つの誤解は「民間事業者が潰れる≒夜逃げ(債務の踏み倒し)」だと勘違いしていることにも注意が必要だ。

(リーガルな部分はそれほど詳しくないので、以前に弁護士に教えてもらったことを参考にすると、)「夜逃げ」にあたるのは破産法による破産であり、基本的にはそれ以前に会社更生法・民事再生法などによりなんとか債権を回収しようとする方法論が取られる。

契約書(と前提となる公募時の要求水準書)において、例えば「民間事業者が事業継続を困難だと判断して撤退する場合には6か月前までにその旨を行政に通知し、事業そのものについて双方協議を行うこと」(※実際の契約書では丁寧な表現が必要)などの規定をビルトインしておくことも現実的な手段のひとつになるだろう。

モニタリング

実際の現場でもう一つの重要な要素はモニタリングである。現場をやらない学識経験者や後追いの評論家は「民間事業者が何か悪いことをしていないか、要求水準書の項目は何一つ不備なくこなしているのか」といったマイナス評価でモニタリングしてしまう。この論理は旧来型行政の業務委託・丸投げ委託であり、全くPPPではない。これではプロジェクトの構築過程ではなんら手も動かすことなく、建設的な意見を述べてきたわけでもないのに、うまくいかなくなると「ほらみろ!俺はだから危ないと思ってたんだ。」というアホな幹部職と変わらない。

そもそもPPP/PFIのプロジェクトは、行政と民間事業者が共にそれぞれの経営資源を提供しながら相乗効果をあげていくところに意味がある。モニタリングにおいてもKPIを共有しながら、どのようにプロジェクトの質を向上させていくのか知恵を出し合い試行錯誤していくことが本来的な意味になるはずだ。

このように日常的にプロジェクトの質を確認していけば、悪い方向に進んでいる場合に(早い段階で)何らかのアラートが働くはずである。このアラートが働いた瞬間に対応すれば処理できたはずのものも、半年や年に1回の表面的・数字上だけのモニタリングでは見落としたり、手遅れになってしまうこともあるだろう。

パートナーとして

そのプロジェクトがうまくいかず「民間事業者が撤退すること」は、民間事業者だけでなく行政にとっても痛手であるし、何よりもまちにとって好ましいことではないが、ありえないわけではない。
上記のような様々な策を日々、丁寧に愚直に講じながらも万が一、そのような事態が発生してしまったら、それまでの何十倍、何百倍も必死になって営業したりバックアップ措置を発動させながら対応していくしかない。
その際には、行政の担当者・担当課だけではなく庁内一丸となって、更には議員も「どうなっているんだ!」と執行部を叱責するだけではなく、そこまでの間に何らかの形で議決や議論に関わってきたプロジェクトであるはずなので、一緒になって動いていくしかない。

「撤退したらどうするのか」、答えは「そうした事態が発生しないよう徹底的にやれることをやること+万が一の場合は言い訳せず現実に向き合い、必死になってもがいていくしかない」である。

そして、そこまでやってもどうにもならないこともあるだろう。それは、そのプロジェクトが市場や時代に合わなくなったことを意味するので、潔く撤退して新たな道を探るか、野に還していくことが現実的でかつ合理的な選択肢になってくる。
決して撤退することは悪いことではない。
撤退の判断すら合理的にできなくなってしまうのは旧日本軍と同じで、それでは「令和版失敗の本質」にしかならない。

お知らせ

公共FMフェス2024in福山

2023年8月に草加市で開催し、大好評をいただいた公共FMフェス。満を持して第2回を2024年1月17日に福山市で開催することになりました。
詳細は上記リンクで確認いただきたいと思いますが、今回もSlidoを活用しながら会場参加型の1vs1のトークバトルを3ブロックにわたって展開します。絶対に再現性のない・ここだけでしか聞けない・超リアルな場ですので、ぜひみなさんご参加をお願いします。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
出版記念企画の「レビュー書いて超特濃接触サービス」も絶賛実施中ですので、ぜひこちらにもご応募ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2023年11月現在5刷となっており多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2024年度業務の見積依頼受付中です。

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