知的財産とインセンティブ
最近、メンタル的な要素のnoteが多かったので、今回は少しテクニカルなものを。
随意契約保証型の民間提案制度
制度概要
近年、急速に自治体で広まっている「随意契約保証型の民間提案制度」、スキームの概要は下記のとおりです。
そのまちの「土地・建物を使ってできること」、「ソフト事業をより良くできること」、「考えてもいなかったプロジェクト」等について、(それぞれの自治体で募集内容は異なりますが)民間事業者から提案を受け
協議対象にしたものは提案した事業者と詳細協議を行い
予算措置等の諸条件が整ったものは、提案者と随意契約して事業化
いまだに「随意契約」に対するアレルギーが強い自治体もありますが、やはり民間事業者にとって「随意契約できる」ことは魅力的です。
随意契約保証型の民間提案制度については拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」でも集中的に取り上げていますので、ぜひご覧ください。
PPP運用ガイド
公務員時代の2012年に流山市で「FM施策の事業者提案制度」として実施し、我孫子市、浦添市、苫小牧市等でもそのまちに応じた形で展開されていきました。
そうしたなか、2016年には総務省・内閣府・国土交通省の2省1府連名による「PPP事業における官民対話・事業者選定 プロセスに関する運用ガイド 」、通称「PPP運用ガイド」が公表されました。(自分も正式な委員ではありませんでしたが、ほぼすべての検討会議に出席しています。)
https://www.mlit.go.jp/common/001150188.pdf
ここでは3つの対話方式が示されていますが、画期的だったのは「選抜・交渉型」です。
国が、しかも総務省○○課とかではなく、2省1府のクレジットがついた形で随意契約保証型の提案制度を選抜・交渉型として位置付けています。(検討過程では総務省が「随意」契約に最後まで抵抗を示し、「契約できる」という表現になってしまったのですがw)
急速な拡大と進化
この随意契約保証型の民間提案制度、5年くらい前までは制度化している自治体は10にも満たなかったと思いますが、ここ数年で一気に広がりを見せていて、2022年11月現在では約60自治体がなんらかの形で制度化・運用をしています。(特に2022年度は10月末までの約7ヶ月で新規の約20自治体が開始)
東村山市では土地・建物や事務事業に加えて「東村山市に関すること」を対象としたり、玉野市では前年までの提案制度で応募がなかった案件を随時募集としたり、木更津市では脱炭素をテーマに募集したり、犬山市ではNFTをテーマにしたり、余市町では道の駅の整備・運営と、それぞれのまちが多様な形で提案制度を運用しています。
もはや、「提案制度を持っている」ことはほぼ標準であり「提案制度を使って魅力的なプロジェクトを数多く創出する・そのまちの課題解決に直結させる」ことが求められる時代となっているのです。
こうした意味で、いまだに随意契約ガーといっているまちは既に時代の流れから取り残されてしまっています。
知的財産の価値
随意契約は悪か?
一方で随意契約を「保証しない」提案制度も残念ながら各地で次々と制度化されています。いくつかのまちの担当者にヒアリングしてみると「うちのまちでは随意契約のハードルが高いから。。。」という他人事のような共通した答えが返ってきました。
随意契約が本当に悪なら、地方自治法の施行令から削除されているはずです。随意契約が悪なのではなく、不透明な方法・思考回路で相手を特定したり、選定した事業者のパフォーマンスが低かったり、使い方が悪いだけです。
内閣府_加点措置に関する実施要領
概要
このような状況下で、先日、内閣府から「公共調達における民間提案を実施した企業に対する加点措置に関する実施要領」なるものが公表されました。
https://www8.cao.go.jp/pfi/minkanteian/pdf/katensochi_yoryo.pdf
PFI法6条提案
上記の要領の主たる対象とするPFI法第6条に基づく民間提案は「民間事業者から自主的に民間資金を活用したプロジェクトの提案ができる仕組み」であり、提案を受けた行政には「応答義務」が生じます。
これまで川崎市_等々力緑地整備事業や富山市_橋梁更新及び維持管理などで活用されており、応答義務は一般的に提案者へ直接回答するだけでなく、ホームページで公表されています。
確かに6条提案では(さすがに事業規模が大きいことや行政側からの投げかけではなく、一方的に民間から提案できる仕組みであることから)いきなり随意契約とすることは難しいかもしれません。
そうした意味で、今回の実施要領において「提案者に一定のインセンティブ」が認められるようになったことは価値があるといえるでしょう。
一方で、実施要領では次のようにも書かれています。
この文面の読み方が「6条提案のように、行政として課題認識していない事項(≒民間提案制度の対象としていない事項or提案制度を有していない自治体)に対して一方的に民間から提案したもの」のみを対象とすると解釈できれば問題はないと思います。
ミスリードorヒヨらせる
一方でPPP/PFIに消極的だったり、そもそもプロ意識が欠如している担当者・自治体では、この実施要領を「随意契約保証型の民間提案制度に対して内閣府が釘を刺した」と捉えてしまう(or捉える)かもしれません。
今回の実施要領は、残念ながら提案制度や随意契約に対するミスリードにつながってしまったり、自治体をヒヨらせることにながり、結果的に随意契約保証型の民間提案制度の流れに水を差してしまうリスクも内包します。
知的財産と提案制度
民間事業者にとって最も重要なものは「知的財産」です。
行政が随意契約保証型の民間提案制度で買うものは「民間事業者の知的財産」です。
違う言い方をすれば、民間事業者が安心して自らの知的財産を提供し、(行政との協議のなかでいろいろと調整が必要になることはありますが、)最も得意な形でプロジェクトとして実現しうる仕組みが随意契約保証型の民間提案制度なのです。
行政が民間の知的財産にできること
PPP/PFIの大原則は対等・信頼の関係です。
民間事業者の知的財産に対して、行政がイコールフッティングしうる仕組みが随意契約保証型の民間提案制度です。
5〜10%のインセンティブで誤魔化して良いものではありませんし、知的財産の価値はプロジェクトの質の5〜10%ではありません。
「6条提案かつ想定外の提案の場合」は、前述の実施要領に準じて5〜10%のインセンティブを付与することはあっても良いかもしれませんが、行政が自ら民間提案制度を創設・運用する場合はやはり「随意契約の保証」が必須だと思います。
既存のしきたり・思考回路で「改めてプロポーザル」や「一般競争入札に付す」ようでは、残念ながらクリエイティブな民間事業者と巡り合うことはできないでしょうし、結果的に「過去に囚われている」ので負債の資産化・まちの再編・まちの新陳代謝を促すことはできません。
今求められているのは「覚悟・決断・行動」です。