バーデハウス久米島再生プロジェクト_公募開始
まちみらいとして現在お手伝いさせていただいる久米島町で、2022年4月8日「バーデハウス久米島再生プロジェクトに関する民間提案」の公募が始まりました。
背景
バーデハウス久米島の閉館
2004年に久米島町の観光振興と町民の健康増進を目的として設置されたバーデハウスですが、残念ながら安定的な経営が困難な状況となり閉館し、一刻も早い再生が望まれていました。
人口減少とまちの衰退
同時に、久米島町自体も人口減少(流出)が著しく、はての浜や海洋深層水などの非常に恵まれた雄大な自然、久米島紬や久米仙などに代表される豊かでオリジナリティ溢れる文化などを十分に生かしているとは言い難い現実がありました。
まちなかには素敵な飲食店などもあるのですが、全体としては寂れた印象があり、前述のような豊かな地域コンテンツを活用した高価値・高単価のビジネスはあまり展開されていない状況でした。
バーデハウス再生への検討プロセス
職員によるワーキンググループ
バーデハウス再生に向けて、まちみらいで支援をさせていただくことになったわけですが、まず行ったのは職員研修です。公共施設等を取り巻く環境や「自分ごととして考える」プロセスでプロジェクトを構築してきた常総市や南城市の事例紹介を通じて、検討にあたっての共通認識を醸成しました。
その後、若手職員を中心としたワーキンググループを組織し、フォーマットを用いながら「なぜバーデハウスがうまくいかなくなったのか」「久米島町の持つ地域コンテンツは何か」などの背景を整理しました。
3期にわたる徹底したサウンディング
バーデハウス再生に向けた「ビジョンとコンテンツ」を徹底的なディスカッションのなかで考え、これらをベースとして第1期のサウンディングを実施することとなりました。
ここでは、久米島町が考える「やりたいこと≒ビジョン」と民間事業者の市場性がどの程度マッチングするのだろうか、そもそも久米島町やバーデハウスに関心を持ってくれて(改修等で膨大なコストがかかることが想定されるなかで)投資してくれる事業者がいるのだろうか?といった不安を抱えながらのスタートでした。
実際には蓋を開けてみると、職員の方々がコロナ禍という逆風のなかでも様々な手段を駆使して営業をしたこともあり、説明会には20グループが参加、うち12グループと対話を実施することができ、町の職員、議員や関係者も大きな自信を得ることができました。
その後、更にこの対話の内容と町ができることや法令上の制約などをひとつずつ精査しながら事業化に向けた条件を少しずつ整理していき、これをベースとして第2回のサウンディングを実施しました。
このときには、独立採算(民間投資)で事業全体を組み立てることや町民向けの健康増進施設も高単価・高価値のメインコンテンツからの収益を元に民間資金で調達することなど、「町としてやりたいこと」を具体的な条件を提示して深い形で実施しましたが、良好な感触を得ることができました。
第2回までのサウンディング結果を元に公募関連資料の案を作成し、「このような形で公募した場合に事業者として参入できるか」「公募条件等について変更すべき点はあるか」「町が公募までに整理すべき事項はあるか」等、従来型のプロセスで言えば公募後の質疑応答で行うような内容まで民間事業者との対話で突き詰めていくこととなりました。
幅広い対話からスタートし、「町のやりたいこと」と「民間事業者の実現したいビジネス」をマッチングさせながら徐々にプロジェクトとしてシュリンクしていく久米島町のプロセスは、まさにサウンディング本来の姿ではないでしょうか。
(近年、サウンディングが一般化してきたことの一方で「どうしたらいいですか案件」、「民間がなんとかしてくれるだろう案件」も増加し、民間事業者も「過剰なリスクヘッジをするための対話」を行うことも散見されるなかで、改めて原点を感じさせてくれたのが、今回の久米島町のサウンディングでした。)
ステークホルダーとの情報共有
バーデハウスの案件(のプロセス)で、もうひとつ特筆すべきことがあるとすれば、検討開始にあたって職員・議員を対象とした職員研修を実施したことにはじまります。その後も随時、議会への進捗状況を報告するだけでなく、議会とも対話を行いながら取り入れられるポイントは取り入れ、また理解をいただくところはご理解をいただきながら丁寧に進めたことも挙げられると思います。
議会だけでなく、バーデハウスの建設から運営まで携わっていただいた第三セクターの関係者(元株主)などとも同様に情報共有や対話を行ってきました。
このようなサウンディングだけにとどまらない幅広い情報共有を前提としたプロセスも、今回のプロジェクトの大きなポイントです。
公募関連資料のポイント
ホンモノの性能発注
このnoteの冒頭でリンクを貼っていますが、今回の公募関連資料を見ていただくと、なんと要求水準書は表紙を含めてわずかA4用紙4ページのみとなっています。(要求水準書に記すようなリスク分担表等の項目の一部を公募要領へ記載していることもありますが、)一般的なプロジェクトと比較して、「圧倒的に薄い」ものとなっています。
一部だけ抜粋すると
それぞれの要素に対して受付人数などの仕様発注に近い要素はもちろん、必要面積や機能も「敢えて」記載していません。通常であれば、特に町民向けの健康増進施設に関してはプログラムの内容、開館日・開館時間、料金設定などを事細かく条件化しがちですが、要求水準としては全く記載していません。
これを可能としているのが、前述の3期にわたるサウンディングです。バーデハウスの再生に関心を示していただいた民間事業者の方々と徹底的に対話を繰り返すことで「町のやりたいこと」が民間に伝わっていますし、同時に「民間がどのような投資をしてどんな場を創ろうとしているのか」の共通認識が醸成されているからこそとれる方法論です。
これこそがPPPの大原則である対等・信頼の関係の具現化です。
(コンサルの手によるアドバイザリー業務委託では、今回の案件でも100ページを超えるような要求水準となってしまうでしょうし、ビジョン・コンテンツが整理されていないなかで、旧来型行政の仕様発注に近い思考回路では民間の裁量の余地も少なく、クリエイティビティが発揮できないものとなってしまいます。
応募する民間事業者との信頼関係が構築されていないどころか、相手が見えない状況で、行政がコンサルの手を借りる・丸投げする形で一方的に条件設定しようとするから、「なんかあったらどうするんだ」理論に負けてしまうのです。)
なお、こうしたホンモノの性能発注としていくうえで参考とさせていただいたのが弊社寺沢も参加させていただいた「PPP妄想研」による「公募要項作成ガイドブック」です。
まちの想いを伝える工夫
今回、ホームページに公表されている公募関連資料にもうひとつの特徴があります。それは、資料の一番下に記されている「バーデハウス久米島再生プロジェクト紹介.mp4」なるリンクです。
なんと、ここにはドローンも駆使してバーデハウスの魅力と今回のプロジェクトにかける担当者の想いが、1分42秒というコンパクトな尺でかつハイクオリティな形でまとめられています。この動画も久米島の魅力に惹かれ移住してきたクリエイターの方のご協力をいただいて作成したものとのことです。
「そのプロジェクトを本当に叶えたい!」という想いがあれば、地域のプレーヤーの方と結びついていれば、このような具体的なアクションも取れるのではないでしょうか。
明確な審査基準と万全の審査体制
審査基準はビジョン・コンテンツをベースに叶えたい項目から順に配点をしていくこととなりました。これも当たり前のことのようですが、一般的には全項目に同一点数を配点したり、(もちろんそのまちの考え方なので自由なのですが、)企業規模や実績に配点が偏っていて、民間のクリエイティビティがあまり評価されない事例も多くなっています。
更に今回の案件では価格点が設定されていません。町にキャッシュで納付金を入れることよりも、このエリアにできるだけ投資をしてほしい(し続けてほしい)、町民向けの健康増進施設へ振り向けてほしいという思いから、このような決断がなされています。
審査体制も大きな特徴となっています。
弊社寺沢は、「そのまちの未来を決めることは、そのまちの職員が行い責任も負う」ことが基本だと考えていますが、これも久米島町の関係者の方々と対話するなかで外部審査員を入れていきたいという方向になっていきました。
バーデハウスは久米島町、久米島町民にとって大切な「場」(≠ハコモノ)であることから、外部審査員を入れるのであれば相応の人選が必要です。
表にもあるとおり、審査員は各分野に精通された方、そして久米島町のことをよく知る方(であり、直接の利害関係者に当たらない方)を厳選し、バランスよく選定することとなりました。現場をやらない・知らない大学教授や会計士などが入っておらず、実務や企画段階からプロジェクトの実践経験が豊富な方、更にはバーデハウスの再生(及び周辺エリア・久米島の活性化)と関係が深い方々で構成されています。
プロジェクトのポイント
島自体が一つのコミュニティ
久米島町は小さな町であり、町≒島全体がほぼひとつのコミュニティとして考えられます。同時に運命共同体でもあることから、点としてのバーデハウスの再生はもちろん、久米島町全体の観光・産業構造、客単価、空気感等を良い方向に持っていくことが求められ、そのトリガーとなりうるのが今回のプロジェクトとなります。
バーデハウスに対する想い
バーデハウスはこれまで町民に非常に愛され、久米島町の観光の拠点にもなっていた大切な場です。
一刻も早く再生したい・再生してほしいという様々な関係者の想いが共通認識となっていたため、他の事例のように「やるか・やらないか」といった議論に左右されることなく、スピーディーな公募に至った要因のひとつかもしれません。
そして、やはりエリアとしてのポテンシャルの高さもこうした共通認識の前提になっていたのだと思います。
クリエイティブさ
今回のバーデハウスの案件は、場としてももちろん非常にクリエイティブなものなのですが、そのクリエイティブさを支えているのは「クリエイティブなマインドとプロセス」です。
バーデハウスをイケてる場として、久米島町を活性化していくためのトリガーとして活用していきたいというポジティブなマインドと、3期にわたるサウンディングで市場と対話しながら、関係者とも情報共有しながら諸条件を詰めていくプロセスそのものがクリエイティブです。
まちみらいでは「どこかの事例をコピペ」して「事業手法の比較表を作って」、「敷地を公共施設部分と余剰地に区分」して「旧来型の思考回路」でハコモノを整備することはしません。
久米島町の事例のように、そのまちの実情・やりたいこと・できることをひとつずつ整理しながら、地域コンテンツ・民間のプレーヤーと丁寧にすり合わせしていくことでプロジェクトを構築していきます。
(おまけ)
拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」の3刷が決定しました。
この機会に是非お買い求めください。