サウンディング「も」見つめ直そう
もはや当たり前の手法
サウンディング型市場調査とは
サウンディング型市場調査は、国土交通省の「地方公共団体のサウンディング型市場調査の手引き」で次のように書かれています。
https://www.mlit.go.jp/common/001236961.pdf
コンサルタントへ業務委託していた可能性調査の代替になりうるもので、ここ数年で急速に自治体に普及してきています。
サウンディングがなかった時代、民間事業者はそのプロジェクトに意見表明できるのは、公募後の「質疑回答」の段階で(素っ気ない回答しか得られない状況で)したが、サウンディングによって構想段階から自らのノウハウをプロジェクトに反映させうるチャンスが生まれたのです。
横浜市がこの方法を編み出してから約10年となりますが、簡単に予算をかけることなく実施できることから多くの自治体で用いられ、「ほぼ当たり前」のプロセスとなっています。
そもそもの失敗を防ぐ
行政の旧来型ハコモノ事業は、「ハコをつくればまちが賑わう」「たぶんこうなるだろう」「こうあったらいいな」の感覚論・経験値(やコンサルへの丸投げ委託)に依存したもので、そもそもの与条件が間違っていたり、市場性がないものが多くありました。
このような「事業」が蓄積することでまちが衰退していくのです。
サウンディングを通じて公募前に事業概要を精査したり、市場性とマッチングさせていくことで「そもそもの失敗」を予防することができます。そのプロジェクトを成功させるための十分条件ではありませんが、必要条件となっています。
トライアル・サウンディング等の派生
近年では机上で対話するだけでなく実際に暫定活用するトライアル・サウンディングも常総市を皮切りに富山市・南城市などで実施され、こちらも現在ではかなり一般化しています。
もともとトライアル・サウンディングは、公共R不動産のプロジェクトスタディに妄想企画として記載されていたものですが、最近、この名を冠した単なる公共資産の無料貸出イベントが多く行われているのは残念な傾向です。(確かにトライアル・サウンディングで創出する「暫定的な未来の姿」はやった感に溢れ何かを手に入れたと勘違いしやすいですが、あくまで暫定です。)「将来的な利活用のためのプロセスの一環、社会実験」であることは忘れてはいけません。
この他にも国土交通省・内閣府や地域金融機関が実施するオープン形式のサウンディングも広まってきています。
サウンディング疲れ
近年、サウンディングが一般化して連日、業界新聞やその手のサイトをみると案件が溢れています。一般化し行政の文化として根付いてきたことは素晴らしいですが、一方で民間事業者から「サウンディング疲れ」という言葉が多く聞かれるようになってきました。
何となく案件
行政は「サウンディングすれば何とかなるだろう」、「民間事業者に聞いておけば何でも叶うだろう」、「民間の声を聞いてからいろいろ考えればいいや」等、気軽にできる・予算がかからないことをいいことに「何となく」サウンディングをしてしまっている案件が多発しています。
更に、「民間ノウハウを最大限に活用する」「自由度を高く」と謳いながら、実は庁内の合意形成が図られていなかったり、火・夜・酒といった人間の欲望に根差したこと(≒民間事業者にとってビジネスになりやすく魅力的なコンテンツ)が禁止だったりという話も聞くことが多いです。
「覚悟・決断・行動」が求められているのに、そもそもの部分がなっていません。「自由に使っていい≒どんな民間ノウハウ・提案も受け入れる」ということなので、完全自由なサウンディングは相当の経験知を持ち、かつ覚悟・決断・行動をできる人・まちでなければ難しいのです。
過剰なリスクヘッジ
一方で民間事業者も、数年前までは「こんなことも(リスクあるけど)できるかもしれない」とクリエイティブかつリスクを負担した提案・対話をしていました。しかし近年では「PFI法に基づくPFIでサービス購入型でないとできない」「Park-PFIは基盤整備を全額行政が負担し、ナショナルチェーンのカフェしか入らない」等、本当はもっとできるのに、特にそれが「何となく案件」の場合は過剰なリスクヘッジをしてくることが目立っています。
全社横並びで「サービス購入型でないと」となると、それが市場となってしまいます。ある案件では、この市場性と異なる市として目指す形(≒民間もリスクを負担するスキーム)で公募したところ、過剰にリスクヘッジしてきた事業者も軒並み企画提案書を提出してきたこともありました。
民間事業者も「ビジネス」としての位置付けや利益確保は必要ですが、自分たちだけが過剰にリスクヘッジすることは、旧来型の天下り三セクや既得権益の既存団体と同じ思考回路・行動原理です。PPPである以上、パブリックマインドを持って「まち」という視点でプロジェクトに臨んでほしいところです。
「まち」を無視して目の前のプロジェクトだけの短期的なリターンだけを追い続けていると、そのうちまちが衰退していくだけでなく、行政も民間事業者に対する信頼を失い、最終的には自分たちの首を絞めることにつながっていきます。
「アホ」コンサルの恣意性
敢えて「アホ」コンサルという言い方をしますが、〇〇施設整備基本構想業務委託や関連するアドバイザリー業務において、コンサルが自治体に代わってサウンディング(らしきもの)をする風潮がいまだに残っています。
拙著「PPP/PFI取り組むときに最初に読む本」、日本PFI・PPP協会主催で実施している「PPP入門講座」等でも取り上げているとおり、サウンディングは行政が直接民間事業者と対話することで市場の肌感覚を掴むことが非常に重要です。
アホコンサルが行政に代替して実施するサウンディング(らしきもの)では、アホコンサルが自分の知っている企業に何となく意見を聞くだけだったり、仮に公募しても自分たちの都合の良い項目のみをヒアリングしたり、対話の結果もアホコンサルの想定しうる事業スキーム・業務概要だけ切り取ったものになりかねません。
そもそも、実際に自ら資金を調達してプロとしてリスクを負ってまで参加していただける民間事業者に失礼です。
民間事業者の方は、こうした形のプロジェクトは99.999%、旧来型行政のハコモノ事業の域を出ないですし、どこかで裏切られたりするリスクも高いので(ビジネスとして割り切らない限りは)参加しない方が良いと思います。
プラットフォーム≠サウンディング
前述の国土交通省等がイベント的に実施しているブロックプラットフォームのサウンディングは、オープン形式で行政と民間事業者(になぜか学識経験者やコンサル)が車座になって意見交換する形式をとっています。
一部の自治体では、これをサウンディングだとして位置付けていますが、冷静に考えてみてください。民間事業者は同業他社が隣に座っているなかで自社の考えや企業ノウハウを話すことができるでしょうか。
オープン形式のイベント的なサウンディング(らしきもの)は、そのプロジェクトの周知という面では確かに効果的な一面も持ち合わせています。こうした場に参加する場合は必ずその後に「自ら」サウンディングを実施することです。
見つめ直す
仕組みが悪いんじゃない
「サウンディング疲れ」は、仕組みが悪いのではありません。
「指定管理者はオワコン」「三セクは天下りの温床」「随意契約は悪」「PFIは地元事業者の仕事を奪う」といった誰かが流布し、無垢・やりたくない・考えない人・まちが盲信しているに過ぎません。
いずれも「やり方」や「使い方」が間違っていたりうまく使えていなかったり、「何のためにそれをするのか」を整理しないまま何となく形式的に用いているからそうなってしまうだけです。
むしろ、サウンディングをはじめとする様々な仕組みや制度をプロジェクト実現のためにクリエイティブに使っていくことが求められていますし、そうしたことのひとつひとつがプロジェクトの質を左右していきます。
何のためにやるのか
やはりいつも言っているように「何のためにやるのか」「そのプロジェクトで何を叶えたいのか」を行政が自ら整理することが第一です。
そのうえで、そのプロジェクトに対する「ビジョンとコンテンツ」を明確していくことです。この部分がプロジェクト全体の軸になり、いろんな場面で判断に迷ったり苦境に立たされたときに立ち戻る原点となります。
サウンディングにおいて、民間事業者から「何したいんですか?」と聞かれているようではダメなのです。
自分たちで組み立てる
上記のように「自分たちでプロジェクトとしてまとめてみる」プロセスを経ることで、「自分たちだけではわからないところ」「市場性とマッチングさせるべきところ」が見えてきます。
実際にまちみらいで支援させていただくプロジェクトでは、いきなりサウンディングに出すことなく、まずは職員の方々が必死になって「自分たちで組み立てる」プロセスを組み込んでいます。
例えば、現在サウンディングが始まった藤沢市の生活・文化拠点整備事業におけるサウンディングでは、この段階で事業手法・諸室の面積・プランニングの案などは全く定めていませんし、対話で重視する項目にもなっていません。
原点回帰+Ver.2.0
横浜市が創ってくれたクリエイティブな仕組み
サウンディングは、横浜市の市長ブレーンである共創推進室が毎日のように市長やいろんな方面から出される「こういうことできないか?」「こんなことやりたいんだけど?」という政策提案に対して、自分たちだけで考えることに時間的・リアリティの限界を感じて創出した仕組みです。
それぞれの言っていることを箇条書きに記して概要をまとめ、民間事業者との直接対話によって短時間に市場性を考慮した判断をするために創りあげたクリエイティブな仕組みです。
この原点に帰って「正しく」サウンディングも行う必要があります(近年、公共施設の再配置・指定管理者制度・包括施設管理業務・随意契約保証型の民間提案制度・トライアルサウンディング。。。いろんな場面で「表層的」に「形だけ劣化コピー」して自ら質を落としている事例が多い状況なので、改めて「正しく」学ぶことが大切です)。
参加事業者・対話内容の公表
初期のサウンディングでは、結果公表で「参加事業者数とあっさりした対話概要」を行政が一方的に公表することが一般的でしたが、近年では事前にそれぞれの民間事業者の意思を確認したうえで事業者名を公表することも出てきました。
特に大きなプロジェクトで様々な分野が事業に含まれる場合、一社で全て対応することが難しくコンソーシアムを組成することが求められるため、このような場合には事業者名を公表することがお互いにとって非常に有意義なものとなります。
同様に参加者名簿・連絡先を、希望する企業についてだけ作成して共有する事例も最近のトレンドとなってきています。
また、対話内容も事前にそれぞれの企業に確認したうえである程度細かく公表する事例も増えてきました。
これらの傾向は、そのプロジェクトを真剣に考えたり民間事業者の立場に立つことができる人・まちが先導してきてくれたからこそ生まれたサウンディングの深化と言えるでしょう。
「応答」の必要性
意見の概要・件数といった結果だけでなく、それらをベースに「行政としてどうするか」を公表することは、失注してしまった場合に(結果的に)同業他社の手助けになってしまうかもしれないリスクを負ってまで参加していただく民間事業者への姿勢として大切です。行政としても、プロジェクトを実現していくための覚悟・行動・決断を示し「既成事実化」するという面で大きなメリットがあります。
実際に鴻巣市の包括施設管理業務委託におけるサウンディングでは、全施設を対象としていたものを118施設に絞り込むなど、民間事業者の意見をもとに行政としてどう対応するかを1:1で全て示しています。
プロジェクト実現のプロセス
反映することでプロジェクトの質が向上する意見は、市の方向性・文化・姿勢がどうであれ必ず反映させることも大切です。「うちのまちの文化では」「今までそうしたことやったことないから」「基本計画でこう書いてるから」等と言い訳するなら、そもそもサウンディングをする資格がありません。サウンディングは行政のアリバイづくりの道具でも自分たちの考え方の正当性を示すものでもありません。
久米島町のバーデハウス再生に向けたサウンディングでは、行政として「そこにしかない時間の流れ・そこにしかない空間」をビジョンに掲げ、宿泊機能付きの超高級スパとしての再生に向けた方向性を示したうえで3期にわたって実施し、民間の声を反映しながら徐々にプロジェクトの諸条件を精査していきました。
プロジェクトを具現化するために必要な情報を的確に収集し、市場性とのマッチングしながらやっていくことが大切です。
民間事業者は、プロジェクトの構想段階から行政の姿勢・意図・スキル等を肌感覚で確認しながら自らの企業ノウハウをプロジェクトの与条件に組み込んでいくこととあわせて、パブリックマインドを持ったパートナーとしてサウンディングを通じてプロジェクトの質を上げていくことが重要です。
民間事業者はパートナー
民間事業者は行政がやりたいことを一緒に実現してくれるパートナーです。「対等・信頼の関係」が大前提ですので、真摯に向き合わなければなりません。
民間事業者がリスクを負って自らの知的財産を切り取りながらサウンディングに参加している以上、行政もサウンディングを実施する責任として、そのことに対応しなければいけません。
前述のように結果公表と合わせて行政としての考え方や事業化に向けてのスケジュールなどを示していくことは当然として、要求水準書にサウンディング結果を反映していくことが求められます。
事業スキーム、要求水準書は、サウンディングで組みたいと思った民間事業者をイメージしながら構築していくことが大切です。こうした意味でもコンサルに丸投げせず「自分たちでやっていく」ことが求められます。(測量・地盤調査などの専門性が求められる「調査」はコンサルタントに委託することが効率的で現実的な選択肢ですが、「そのプロジェクトで何をするのか」の基本構想・基本計画・要求水準書の作成などは「忙しい」とか「やったことがない」と言い訳せず、自分たちでやりましょう。そこを避けるようではプロとしての存在意義が問われます。)
上記のような発想・方法論は「談合ではないか」と思う方もいるかもしれませんが、決してそうではありません。大切なのは、行政として掲げたビジョン・コンテンツを実現できるパートナーを行政が自ら探し、そうしたプレーヤーと共にプロジェクトを創出していくことです。
このような方法論をとっても、最終的には公平性・透明性・競争性を担保したプロポーザルで優先交渉権者を選定していくことになります。サウンディングの中心になる人・要求水準書作成のキーマンは審査員にならないようにすれば、こうした疑念を持つ人たちからの声にも対応できます。
そしてもし、サウンディングで最もシンクロした民間事業者ではない別の民間事業者がそれ以上の親和性の高い魅力的な提案をしてきたら、そちらの提案を取れば良いのです。
https://www.mlit.go.jp/common/001150188.pdf
こうした意味で考えると、国交省・総務省・内閣府による「PPP事業における官民対話・事業者選定プロセスに関する運用ガイド」に書かれているインセンティブ付与型のサウンディングは「そこありき」との疑念を余計に抱かれてしまうリスクもあるため、避けた方が良いと考えます。
繰り返しになりますが、民間事業者はプロジェクト構築・実践のために不可欠なパートナーです。サウンディングひとつとっても行政の覚悟・決断・行動が問われますし、それに臨む姿勢が個々のプロジェクトの質はもちろん、プロジェクトの総体としての「まち」を大きく左右していきます。
「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」はおかげさまで4刷が決定しました。