マガジンのカバー画像

何を見ても何かを思い出す

2
物語り
運営しているクリエイター

記事一覧

オートフィクション(2014)

オートフィクション(2014)

はじめて彼女に会ったのは大学の入学式でのことだった。視線が彼女を追いかけていくのを止めることができなかった。斜めに歪んだ針金のような体、襟足を刈り込んだショートカットから伸びる首、化粧っけのない白い顔。女子の出席番号に並んでいるにもかかわらず、彼女はどう見ても少年だった。式後のオリエンテーションで自己紹介をした彼女が自分のことを「ぼく」と呼んでいるのを聞いた。

学生生活がはじまりみんなが群れ

もっとみる
あの夜の東京は

あの夜の東京は

夢を見た。
わたしは少し離れた高台にある家の屋根の上に座ってぼんやりと海を眺めている。
夕暮れに染まる砂浜で子供達が楽しそうに遊んでいる。彼らは遠い昔残酷な方法で殺された子供たちだ。
ある子供は戦争で、ある子供は親の手にかけられて、ある子供は貧困の果てに。楽しそうに声を上げて遊ぶ子供たちからはちきれんばかりの狂気と悲しみが伝わってくる。
私の隣にはさえないスーツ姿の小さな男がいる。彼が誰なのかは分

もっとみる