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ガスオーブンは手ごわいけれど(笑)、解放感のあるキッチンで作業できるのは気持ちがいいです。

~お仕事している人に聞きました(食のワークメンバー)~

2015年4月にオープンしたokatteにしおぎは、もうすぐ10周年。まち暮らし不動産が10年を勝手に振り返る企画として、関わってくださった方へのインタビューを連載しています。第9回は祖父江 玲奈さんです。「食のワークメンバー」として、okatteのキッチン(飲食・菓子製造の営業許可を取得している)で焼いたパンを販売されています。

<祖父江さん>
2021年2月 メンバー(食のワークメンバー)になる。

聞き手・文:川越恵子(N9.5)
※イニシャルで登場する人の注釈はokatteメンバー向けです


「食のワークメンバー」になったきっかけ

 どのようなきっかけでokatteのメンバーになったのでしょうか?

ライフワークで、料理をふるまうイベントをしているのですが、そこで出している自家製パンを売ってほしいと言われたのがきっかけです。そこから、パンが焼ける営業許可キッチンを探して、「食のワークメンバー(※)」になりました。それ以前からokatteのことは少し知っていて。料理のイベントをもう少し広い会場でできないかなと検索していたときに見つけました。okatteに来たことがある知人もいて、「いいところだよ」とは聞いていましたが、そのときは時間貸しの場所を探していたので、okatteの名前だけ覚えていた感じです。

※okatteのキッチンは、飲食・菓子製造の営業許可を取得している。食のワークメンバーになるには食品衛生管理者の資格取得などを事前に審査あり。

 以前からokatteのことをご存じだったのですね。ちなみに、お料理のイベントはどんな内容なのですか?

デンマーク料理をみんなで一緒に食べるイベントです。きっかけは、仕事でデンマークに行ったときに、「ヒュッゲ」という考え方に触れて、これをみんなで楽しみたいと思ったからなんです。ヒュッゲは、簡単に言うと、一緒に食べたり飲んだりすることは人生に欠かせないよね、という文化です。共に過ごすことの喜びや楽しさを大切にしていて、その真ん中には必ず食べ物があります。自分が作った料理を一緒に食べるだけなのですが、食を通じて楽しい時間が過ごせればと続けています。

ー okatteでは「食のワークメンバー」として、シナモンロールを焼いているとうかがいました。

そうなんです。最初はライ麦パンを販売したいと思ってメンバーになったのですが、友人が吉祥寺に1年間限定のデンマークカフェを開くことになり、そこにシナモンロールを卸しています。月に2回くらいのペースでシナモンロールを焼いています。でも、夏はあまり売れないのと、暑くてオーブンを使うのが大変なので、7月~9月は3か月ほどお休みしたかな。でも、そのカフェも1年限定だったのでいよいよ終了になるんです。

祖父江さんがokatteのキッチンで作っているシナモンロール

メンバーシップ制のキッチンを選んだ理由

 そうだったのですね。1年間お疲れ様でした!時間貸しのキッチンを利用されたこともあるそうですが、メンバーシップ制のokatteを使ってみようと思ったのはなぜですか?

元々作りたいと思っていたライ麦パンは、焼き上がるまでに24時間ほどかかるんです。生地を発酵させるために、12時間とか6時間、置いておく必要があって。長時間パン生地を寝かせておくので、知らない人が出入りする時間貸しのキッチンより、メンバーシップ制のほうが安心だと思ったからです。シナモンロールは、長時間置く必要はありませんでしたが、来年こそはライ麦パンを焼きたいと思っています。

ー そういう理由があったのですね。メンバーシップ制の場所を使ってみて感じたことはありますか?

okatteに行ったことがある知り合いから、「人が集まれて楽しいところだよ」と聞いていたのですが、たまたま私がコロナの真っ最中に使い始めたので、ひとりで行ってひとりでシナモンロールを焼いていることも多くて。私のokatteの使い方はこれで合ってるのだろうか?みたいな気持ちになることはありました(笑)。メンバーのみなさんに声をかけたい気持ちもあるのですが、最初は知ってる方が少ないので、メンバー間のグループウェアに書き込むのもおっかなびっくりしてました。

ー そうだったのですね。

コロナ以前に少しでも関係性ができていれば違ったと思うんですが。実は、okatteのオーブンがけっこうクセモノで。オーブンって、そもそもセンサーに個体差があるのでクセがあるものなんですけど、okatteのオーブン、けっこう手ごわくて。(笑)

ー 手ごわいオーブン!(笑)

ええ。思ったように焼けなかったんです。焼くものによっても使い方が変わるので、お料理やお菓子で使う方はそんなに問題がないのかもしれないです。業務用オーブンはデンマークでも使っていたので、やり方は間違ってないはずだけれど、最初はうまく焼けなくて。自分なりに色々試して今のやり方を体得しました。

ー 今一番okatteのオーブンに詳しいのは、祖父江さんかもしれませんね。

そうかも。テストベイクを繰り返して、1回で焼く量を変えたり、シリコンマットを敷くとか、試行錯誤を重ねながら、自分なりの方法をみつけていきました。研究途中の間は、もしかしたらキッチンがものすごく焦げ臭いこともあったかもしれないので、メンバーのみなさんごめんなさい!(笑)

業務用ガスオーブン「ベルタゾーニ」

- 研究の過程がおもしろいです。

少し細かい話になってしまいますが、一例を挙げると。本来はファンを回さなくても使えるオーブンで、回さないほうが生地がパリッと焼けます。でも、回さないと、温度差のせいでセンサーが温まったことを認識しにくいのか、下火がものすごく頑張ってしまって焦げやすい。本来、下火が強いことはオーブンとしてはいいことで、例えばピザなら、3分ほどで最高においしいピザが焼けると思います。でも、パンの場合は、上下の温度差が激しいと底が焦げてしまう。特にシナモンロールは、高さがあるので上の段には置けず、砂糖が多いのでさらに底が焦げやすい。なので、ファンを回して、空気が循環するくらいの空間を上部にあけつつ、下が焦げないギリギリの段に入れて、さらにシリコンマットを2枚敷いて焦げを防ぐ、という形で落ち着きました。最近、気温が下がってきたので、オーブントレーやベーキングシートの温度が下がっているからか、今まで以上にオーブンが頑張ってしまって(笑)。温度が下がることに敏感みたいです(笑)。

 おおお。なんかマツコの知らない世界でオーブンマニアと話している雰囲気になってきました(笑)。

詳しくなった理由はもう一つあって、コロナの最中に自宅をリノベーションして、30年以上使っていたガスオーブンを買い替えたんです。そのときに外国製のものを色々調べました。そうしたら、日本で販売するには、地震センサーが必要だったりと規制が厳しいため、以前はたくさん輸入されていたオーブンが、ほとんど入っていないんですって。今輸入されている大きめのガスオーブンは、okatteと同じベルタゾーニのものしかないみたいです。さらに、ショールームでお話を聞いたら、日本の規制に合わせて機能を増やすと、海外製は修理が難しいので、極力機能をとっぱらったシンプルなオーブンだけを販売しているそうです。okatteのオーブンもそうだけれど、タイマーはベルが鳴るだけで、スイッチは切ってくれないですよね。いろいろ考えて、自宅では結局、電気オーブンを入れたんです。

 いろいろな事情があるんですね。

ガスオーブンのほうが好きなので、クセはあるけれど、okatteでシナモンロールが作れるのは幸せなことだと思います。ウオール設置型のガスオーブンなんて、家庭ではなかなかありませんよね。

キッチンの壁に設置されたベルタゾーニのオーブンと、そのロゴ。okatteのプランニング過程(2014年当時)でも、オーブンの選定は紆余曲折ありました。当時の様子は後日また記事をまとめたいと思います。

 先日okatteに行ったときに、シナモンのいい香りが残っていたので、祖父江さんがいらしていたのかな?と思いました。

ああ〜。それも気になっていて。みなさん遠慮して言わないけれど、頻繁に香りがするのに食べられないと、若干腹が立たないかしらと、しばらくモヤモヤ考えていたんです。でも今は、考えてもしょうがないなっていう気持ちに落ちついてきました(笑)。最初はokatteの使い方のちょっとしたことを気にしていたかも。

ワークメンバーとの会話から

 今はどうですか?

今は、まあ〜、怒られてないから大丈夫かなって(笑)。あとは、私はワークデー(※)にokatteを使うことが多いので、ワークメンバーのKさん(※いまは静岡にいるイラストレーターさん。オープンデーでは娘さんが似顔絵屋さんを開くことも。)とHさん(※なんとなくいつも子供と遊んでいるようにみえるワークショップデザイナー。)に偶然お会いすることが多くて。シナモンロールのテストベイクをしてるときは、テストなので少し余裕もあるし、焼く時間が長いので、だんだんお話するようになって。そういうときにあれこれ教えてもらって、少し気持ちが落ちついてきました(笑)。

※okatteを仕事場としてつかえる日。ワークデーにokatteを使えるのはワークメンバーのみ。現在は週2日ある。

ー ワークデーはどんな様子ですか?

私のようなキッチンを使う「食のワークメンバー」と、okatteをデスクワークや撮影に使っているワークメンバーもいます。造園屋さんのKさん(※okatte園芸部の顧問でもある)もワークメンバーで、ついでにお庭のメンテナンスしてる時もあって、あれこれ話したり。私は日曜日に都合がわるくてオープンデーにあまり参加できないし、okatteに行くときは道具や材料を運ぶために車を使うことが多いので、みなさんと食べたり飲んだりする場にも参加しずらいけど、ワークデーは固定の人がいるから会いやすい気がします。

 そういえば、メンバーのHさん(※前出)が、祖父江さんから聞いたお話をきっかけに、デンマーク旅行に行かれたそうです。

そうです、そうです。人や街を体感してみたいとおっしゃっていたので、コペンハーゲンの郊外に住んでる友人を紹介したり。楽しいエリアとか美術館とかも訊いてくれて。楽しんだみたいでよかったです。

仕事場としてのベスポジ

 今後okatteでやってみたいことはありますか?

食のワークメンバーとしては、ライ麦パンを販売したいという野望はあります(笑)。あと、シナモンロールを卸していたお店が終了するので、販売できる場所を新しく作るべきかなとか。他には、今までは本当に、業者のようにただ焼いて帰るだけだったので、例えば、ワークデーのお昼の時間のokatteアワーランチを、メンバーとご一緒できたらいいなと思います。仕事がフリーランスで、スケジュールが定期的じゃないこともあり、これまではあまりメンバーの方とお会いするチャンスを作ってこなかったので、これからはもう少しそういう使い方を増やしていきたいかも。

 最後に祖父江さんにとってのokatteのベストポジションはどこでしょうか?

一番よく使ってる場所ってことで、調理台です。キッチンがすごく明るくて広くて、調理台に立ってシナモンロールが焼けるのを待ちながら入口や通りの方を見ていると、ちょいちょい中をのぞいていく人がいて。それを見るのも楽しいです。シェアの営業許可キッチンって、衛生面の管理上とか運営者の効率とかのせいもあると思いますが、窓がなくて換気扇しか付いてない、閉鎖的な、狭いところが多いんです。作業場!って感じ。でも、okatteでシナモロールを焼いている時間は、気持ちがいいなと感じます。

窓が多く明るいアイランドキッチン




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