人が集まるところって面倒くさい。それを受け入れて共存していく気持ちが、いつの間にか自分の中にできてた。
2015年4月にオープンしたokatteにしおぎは、もうすぐ10周年。まち暮らし不動産が10年を勝手に振り返る企画として、関わってくださった方へのインタビューを連載しています。第8回は森口 美由紀さんです。
<森口さん>
2014年7月 企画ワークショップに参加
2015年4月 okatte個室に入居(翌年8月まで)して仕事場にする。同時にokatteメンバーになる。現在も継続中。
聞き手・文:川越恵子(N9.5)
※イニシャルで登場する人の注釈はokatteメンバー向けです
okatteがオープンして驚いたこと
― どんなきっかけでメンバーになったのでしょうか。
okatteがオープンするすこし前に、オーナーの竹之内さんと知り合いになったんです。きっかけは東北支援で、竹之内さんはクラウドファンディングを、私は東北産品の通販を始めていたんですが、たまたま通販の拠点として借りていた場所がokatteのすぐ近くで。そこに竹之内さんがふらっと来てくださってお話をしたのが始まりです。okatteをどういう場所にしていくかっていうワークショップ(※#05柏井さん記事参照)に何回か参加して、その流れでメンバーになった感じですね。
― okatteがオープンしたときのことは覚えていらっしゃいますか?
印象が全然違って驚きました。というのも、オープン前のワークショップは、okatteになる前(改修工事前)の竹之内さんのお宅でやっていたので。改修後のokatteは、もう、全く別の場所という印象でした。ハードの力ってすごいなって。パブリックっていうのかな、コモンズっていうのかな、開かれた場所にするという考えでハードを作ることによって、普通の住宅が全く違うものになることを実感しました。
― メンバーになってからは、どのようにokatteで過ごされたのでしょうか。
だいたい2つかな。最初の頃は、東北のつながりで、オープン前からメンバーの中に知っている方が少しいたこともあって、そういう活動していたのがひとつです。映画の上映会や音楽祭をしたりとか、自分でも東北の産品とスペイン料理を組み合わせたイベントをやってみたりとか。わりと大きい規模のイベントがたくさん立ち上がってたんですよね。9年前で私も若かったので、そういうことをしてみたかったんだと思います。
もうひとつは、okatteの賃貸住戸(※)を借りて、近所だった仕事場(東北の通販拠点)をokatteに移転したことです。今は通販事業自体をやめてしまったので部屋は借りていませんが、普通のメンバーとして活動を続けています。
― なるほど。イベントで印象に残っていることはありますか?
初めの1、2年は、イベントスペースっぽいイベントっていうのかな、そういうのもあった気がするんです。でも、月日を重ねるうちに、外から人がたくさん来るイベントというより、メンバーも多く参加できるような、抽象的ですけど「okatteらしい」身近なイベントが中心になってきた気がします。そういうふうに変わってきたのは良かったんじゃないかなと思います。
― そう思われるのはどうしてですか。
そうですね。okatteはメンバーシップとして続いてきているので、メンバー同士のつながりだったり、okatteと自分の関係だったり、そういうものがあって成り立つもののほうがフィットするんじゃないかと思います。例えばキッチンがあって50名ほど人が入れればできるイベントは、もしかしたらokatteじゃなくてもいいかもしれないし、okatteじゃないところの方が使い勝手がいいかもしれない。自分とokatteにつながりみたいなものがなくてもできるイベントは、何かちょっと遠く感じるような気がするかなあ。そういう感じのイベントは減っていったように思います。自分の感覚ですけど。
― 事業の拠点としても使われていたんですね。
はい。ただ、事業のほうは通販の発送拠点なので、okatteじゃなきゃダメということでは必ずしもなくて。だから、自分としては、食べ物に関して人が集まる場所に所属していたい気持ちで、okatteのメンバーになっていることのほうが大きかったかなと思います。
作って食べるをオープンにすると…
― 食べ物に関して人が集まる場所にいたい。
そうですね。食べ物とか、あと食文化ですかね。ちょうど自分がそういうことを大切に生きていこうと思い始めた時期で。okatteみたいな場所があると、みんなのちょっとした知恵だったり、それぞれの家や人が持っているものを共有できるのは豊かだなと思って。最初からそういうことをわかっていて参加したわけじゃなくて、「okatteにしおぎ」っていうネーミングからも、何か匂いを感じたっていうか。
あと竹之内さんからうかがっていたのは、元々あの場所は竹之内さんのおばあちゃんのうちで、土間があって。よく遊びに行って、例えばお饅頭を作ったりしていたと。そういう場所を現代に作るとしたらどんな場所だろうと考えて、土間をつくって大きいキッチンにしたと。そういう、土地が持っている歴史とか記憶みたいなものにすごく惹かれて参加し続けてるんじゃないかなと思います。
― 知恵や習慣を持ち寄って、こんなことがあったなと思い出すことはありますか。
具体的なことではないんですが、今まで続けてきて感じるのは、お料理ってあんまり外に出ないものだと思っていて。家の外では、作られたものを食べたり、あるいは家の中で作ったお弁当を食べたりはするけれど、料理そのものは家の中に閉じられたものじゃないかと思うんです。例えば家に友だちを呼んでも、基本的に、作る人と提供される人に分かれていて、私の場合は、作ることそのものを、みんなとシェアすることって基本的にあんまりなかったんですね。
― はい。
だから、それまでは、おもてなしをするみたいなスタンスになりがちだったんですけど、okatteだと、例えば、去年のおせちをみんなで作っていたときに(※#04松村さん、#06杉本さん の記事もどうぞ!)「お腹がすいたから休憩しよう」ってなって。たまたま私がお餅を持ってきていたので、フライパンで焼いてバターを落としておしょうゆを少しかけて出したら、みんながびっくりして。「こんなふうに食べたことがなかった」って。うちでは当たり前で好きな食べ方だけれど、こういう食べ方をしない人って多いんだってことを知ったり。お味噌汁の出汁のとり方も、きちんと一番出汁をとるとかじゃなくて、だしパックと具材を一緒に入れちゃっても全然許容される、っていうか「うちもそうだよ」って言ってもらったり。ニンニクの薄皮を大変そうにむいてたら、「いやそれは先に切っちゃえばポロッとむけるよ」って教わって、それからは自分も家でそうするようになったとか。すごく日常的なことなんですけど、そういうのがとても面白くて。普段は家の中だけでやっているから、みんな「料理が不得意なんです」って言いがちだし、私もそうなんだけど、okatteだと全然平気で、みんなそうなんだ、別に私だけじゃないんだってことを感じられるところがけっこう好きですね。
― 閉じられがちなキッチンがオープンになって、そこに面白さや安心感があったのですね。
そうですね。それと、okatteとのかかわりでいうと、okatteアワーっていうのがあって、メンバーは18時から21時までなら自由にご飯を食べていいっていう時間があるんですけれども。「okatteアワーやります」って、グループウェアのカレンダーに入れると、メンバーの誰が来るかわからないので、当日初めて会う人もけっこう来るんです。でも、やってみてわかったのは、一緒に作って一緒に食べると、初めてとかあんまり関係ないんだなって。「おいしいね」とか「こういうふうにやってよかったね」とか、そんなことを話しながら一緒に作って食べると、名前さえわかっていればコミュニケーションもできるし、自己紹介もそんなに必要なくて。なので、いまだにどんな仕事をしてるか全然知らない人もいたり。友だちじゃなくても、誰が来るか全然わかんない、初めて会う人だとしても、楽しく過ごせるんだ、一緒に作って一緒に食べるってそれぐらいの力があるんだって感じています。
― okatteアワーにはよく行ってらっしゃったんですか?
そうですね。9年間メンバーをやっていると、頻繁に行ける時期といけない時期があるけれど、でも楽しいので、できるだけ行こうとはしていますね。
― 9年間でかかわり方がかわったなと思う部分はありますか。
物理的に時間が取れるか取れないかはありますが、それと気持ちは関係ない感じですね。例えばokatteアワーで「カレーの会」っていうのを毎月やってたんですが、コロナの前ですね。そんなふうに、かなり活発にかかわっていた時期もあるけれど、仕事の関係で全く行けない時期もあって。コロナのときも、私が好きな「みんなで作ってみんなで食べる」が全然できなかったので、そのときも行ってなかったです。でも、行けないときも「メンバーをやめよう」とはあんまり思わなかった気がします。
そういうことでたぶん9年続いてる
― それは、どうしてでしょう。
うーん。自分の中で面白かったのがオープンデー(※)なんです。5年くらい前かな、オープンデーでランチプレートを出していた時期があって。私も時間が作れた頃で、食事を出したいと思ってるメンバーがけっこう多かったので、3〜4人でチームになって「今回はこういうテーマで作ろう」みたいなことをやってたんです。メンバーも入れ替わりでいろんな人がかかわって。外から来る人にお金をいただいて提供するので、okatteで作って自分たちで食べるのとは全然違ってかなり大変ではあるんだけれど、そういうことを一緒にやった人のつながりが結構な人数できた。okatteに物理的に行けなくなっても、この関係が途切れてしまうのはもったいないと思っています。あと、毎年みんなで作るおせちのときも、年末は仕事上どうしても行けないのだけれど、大晦日におせちを受け取りにいくと、「久しぶり」ってみんなと話せたり。全然行けない時期でも「受け入れてもらえる」っていうと大げさですけれど、久しぶりに行っても温かい感じがして、そういうところがいいなと思っていて。そういうことでたぶん9年間続いているんだと思います。
― okatteアワーのカレーの会やオープンデーのランチプレート作りなど、メンバーとの交流を積極的に楽しんでいらっしゃるように感じます。
うーん。そんなに頑張らなくても、なんとなく集まれるのが心地よいのだと思います。okatteアワーは、自分は「言い出す」だけなんですよ。「今度いついつにカレーの会やりま〜す」って。なにか仕切ったり、完璧な形でサーブしなくても、ゆるい感じで受け入れてもらえるところなので、最初はちょっと勇気がいりますが、そのあとは、なるように流れていくというか。だから、例えば、たまたまSNSでブリと大根のカレーを見て作ってみたいなと思ったときに「やりまーす」って言うだけなんです。ランチプレート作りも、okatteアワーなどで顔を合わせたメンバーと、自然と「次は何やろうか」みたいな話になってた感じです。
― そうだったのですね。
でも、そうですね、okateに行くこと自体は、意識としては割と自分の中で優先順位を上げるようにしているところはあります。もちろん物理的に行けないときもあるけれど、いけそうだったり、別の何かとokatteが重なったときは、できるだけokatteを優先しようとしてるかな。それは義務感とかじゃなくて、その方が楽しいからっていう感じですかね。
― 9年間、ずっと楽しいってすごいことだと思います。
いや実は。インタビューの機会をいただいて、自分とokatteのつながりみたいなことを考えていて、ちょっと今までの流れとは全然違う話ではあるんですけど。
― はい、ぜひ。
実は、けっこう面倒くさいこともいろいろあると思ってるんです。人がいっぱいいるし、メンバーシップで、基本的に運営を自分たちでやらなきゃいけないので。ルールを決めたり、みんなが納得してやるために意見調整したり、あんまり急には決めずに、持ち越しながらやったり。そういうプロセスが必要なんだなって。特に最初の2〜3年は、初めてですし、いろんな意見がありましたし。
ー そうなんですね。
それでも、かかわっているうちに、むしろ楽しいことばっかりじゃないのが当たり前なんだって思ったんです。そもそも、人が集まるところって面倒くさい。それを受け入れて共存していく気持ちが、いつの間にか自分の中にできてたんです。それがあるから続いているような気がします。だから、楽しさとか行ける頻度のことだけ考えたら、やめていたのかもしれません。いろんなことが起こるけれど、それは普通のことで、無理をする必要もないし、その上でどうやって楽しもう。そんなことを感じる場だったんです。それで続いている気がします。
― 面倒くさいからこそ続いているって意外ですね。
はい。たまたま車を運転しているときに、「そういえばインタビューあるなあ」と考えたとき、ふと、「ひと言で言うなら、私、面倒くささを受け入れたんだな」って思ったんです。最初に頭に浮かんだのはそれだった。okatteアワーやカレーの会が楽しいってことよりも。本当に楽しかったんですよ。でも、自分にとって大きかったのはこれだなあって。
楽しくするための、ちょっとしたこと
― そうだったんですね。okatteが面倒くさくてよかったです。(笑)
ほんとにね。話が大きくなっちゃって申し訳ないんですけど、私はアメリカ資本の大きい企業で勤めている期間が長くて、トップダウンのリーダーシップが強いところでかなり長く働いてるんですね。効率的で意思決定が早くて、それを実行に移すのがいいことだ、業績を上げるのが全てだ!みたいな、資本主義の究極みたいなところを仕事でやってきたんです。そういう中でokatteに入ったので、調整したりとか、1個1個の意見を尊重したりとかを、民主主義ってわずらわしいなというか。でも、生活ってそういうことがとても大事なんだって、この10年ぐらいで感じるようになって。だから、okatteでの経験は、自分がいろいろ気づくきっかけになったと思います。
― 生活とはそういうものだと。
そうですね。あとは、楽しくするためには、メンバーの1人として、ちょっとした努力はしてもいいのかなと思っていて。だから行けるときは掃除(※)に行くんでしょうね。ちょっとした努力はすごく意識してます。10年前に資本主義から脱却したい!と思って会社を辞めて、東北の通販を始めたりした経緯があるので、当たり前だと思ってることをアップデートしたい思いがあって。それとokatteのタイミングが重なったんです。あと、okatteに行く頻度が高くなれば、楽しいことができる機会も増えると思うので、それもあってちょっとした努力は心がけてるかなと思います。でも無理するのは全然意味がないので、無理のない、できる範囲でっていう感じです。
okatteの定例掃除も、以前は掃除のときに一緒にお昼を作ってみんなで食べてたんですけど、コロナの頃から掃除が終わったらじゃあねって帰ることも多いので、掃除のためだけに行くのかあと思うこともあります。でも、普段使ってるんだから行っとくかと思うし、月に一度のメンバー定例会も、行くのどうしようかな、他にも行きたいイベントあるんだよなってこともあるけれど、でもやっぱり顔を出しとくかみたいな。そういうのはきっと、okatteのためじゃなくて、結局自分のためにやってる部分はあります。
― みなさんに、okatteのベストポジションをうかがっています。森口さんはどこでしょうか。
ベストかあ〜。実際によくいるのは土間とキッチンですね。窓を通して見えるお庭の緑がとても豊かできれいなんです。その眺めはすごく好きですね。
あと、実は畳のスペースがいいなって思ってるんです。誰もいない時間に、窓をあけて、寝転がって、夏休みみたいに麦茶を飲みながら本を読むっていうのが一番やりたいことです。でも、実際によくいるのは土間とキッチンなので、ベストポジションというよりは、居たい?あこがれ?ポジションですね(笑)。
― 10年経ってもいまいちわからんokatteの〇〇っていう質問も皆さんにしてるんですが。
食器拭きの布巾のルールね。冷蔵庫の横に貼ってあるけど、わからないというより覚えられない(笑)。私は結局、いつも布巾を2、3枚持参して、それを使って持ち帰ってうちで洗っています。わからないなら、もう自分で持って行っちゃえと(笑)。 ルールはいまいち覚えていないけど、なんとかなります。