地下室チャップリン
鳥取駅前のサンロードにある「チャップリン喫茶」。尾崎翠が眠っている職人町・養源寺で住職さんからお話を伺った後、その足で向かった。
帰りの飛行機までに、あまり時間がない。それでもここに寄りたかったのは、尾崎翠が無類のチャップリン好きだったから。
チャップリン喫茶には、階段で降りていく。地下喫茶である。そう、まるで地下室アントンのように。
地下にある喫茶店には、思い出がある。グラスの底からてっぺんのソフトクリームまで30㎝はあろうかというパフェを、友達と競い合うように食べた。女子高生の胃袋は怖いものなしだ。
地下に向かう階段を降りながら私が思い出していたのは、そんなことだった。
さて、地下室チャップリン。
おそらく、この店のチャップリンは尾崎翠とは全く関係がない。でもここが鳥取であること、地下に店を構えていることは、素晴らしい偶然だ。
店内に飾られているグッズから、きっと店主も尾崎翠と同じ、チャップリン好きであるのは間違いなさそうではあるが。
雰囲気のある赤い椅子が四つ据えられたテーブルに座る。モーニングを終えたらしい先客が出ていくと、店内の客は私一人になった。
もし私が失恋者ならば、このテーブルで誰と、どんな話をするだろう。
地上では相容れない、ともすれば敵対している者同士も、この地下室では地上の文脈から外れて手を取り合う。それが地下室にはたらく魔力なのだ。
「こほろぎ嬢」でも、地下室が出てくる。図書館の地下食堂だ。こほろぎ嬢は、そこで勉強している先客が、産婆学を学んでいる未亡人であると思い込み、声に出さずにエールを送る。
お勉強なさい、未亡人。
…ものすごく焦っているにもかかわらず、豪華なプリンアラモードなどを注文してしまったことを反省する。コーンを掴んでアイスクリームを平らげながら、次に来た時には、クリイム・ソオダアをぜひ飲むことを心に誓う。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?