とりぷるツイン第6話〜クリスマス〜
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季節はもうすぐクリスマス。
みくにはなぜか坂井姉妹のお宅にお邪魔して、奈々と武生と3人で勉強会をしていた。奈々と武生が付き合うことになり、その流れでみくにも勉強会に誘われたようだ。
「さあ皆さん、クッキーが焼けましたよ。」
坂井邸の家政婦が焼きたてのクッキーを持ってきた。
「春江さん、ありがとう。」
奈々はクッキーを受け取った。
家政婦の春江さんは、60代前半。梨々と奈々の両親が帰ってくるまで、坂井邸のお世話をしている。
「う〜ん、美味しい!」
みくにはクッキーのおいしさにびっくりする。
「春江さんはな、料理の天才なんだぜ。」
「いいな〜。春江さんの美味しい料理毎日食べてるんだ、奈々。」
みくにと奈々はすっかり打ち解けたようだ。
「ささ、勉強するぞ、お前ら。期末ひどい点数だっただろ。」
今回の勉強会は武生が先生だ。
「でも、まさか武生と奈々が付き合うとはね〜。」
「べ、別に付き合ってないし!」
みくにの言葉に意地を張る奈々。
「…付き合ってるよな?」
疑いの目で奈々に圧力をかける武生。
「あ、そうだ。」
はぐらかす奈々。
「クリスマス、うちでパーティーしない?春江さんの料理食べれるぜ!」
「え!?食べたい!!」
みくにはキラキラ目を輝かせる。
「決定だな!24日はうちでクリスマスパーティー!」
こうしてみくにはクリスマス坂井邸で過ごすこととなった。
その頃、その場にいなかった梨々は自室にいた。
そして、携帯を眺めていた。
そこには、葵からのメッセージが。
”24日、会いたい”
梨々は悩んだ末、メッセージを送る。
”わかった。夕方16時に会いましょう”
夕方16時。実はその時間は、塾の模試の時間帯だった。
◇◇◇
もうすぐ冬休みに入ろうとしているみくにの中学校。
2年3組には、うつろな葵が外をぼーっと見ている。
それを心配したみくには、
「ねえ、24日、奈々んちでクリスマスパーティーするんだけど、来ない?」
「……その日は用事ある。」
みくにの話を聞いても上の空だ。
「…でも、その…梨々さんに会いたくない?梨々さんちだよ。」
「……はあ?」
葵は我に帰る。
「…あいつが、梨々がいるわけないだろ…。だって…」
そこまでいって胸に留めた。
(…俺と約束したし…。)
「…だって、何?」
「……」
その後、葵は話してくれなくなり、よく話がわからないままになったみくにであった。
◇◇◇
そして、24日。クリスマスイブ。
午後から進学塾の模試が始まった。その中に皐の姿があった。しかし、梨々の姿はなかった。
数時間後ー。
模試終了後、皐は梨々の姿がないことに気づく。
(…え?梨々…。まさか受けなかったのか…?)
◇◇◇
梨々は、待ち合わせ場所の公園にいた。
「…来ないと思っていた。」
葵がやってきてそう言った。
「約束は守るわ。」
「なんでこの時間に?模試だろ?」
葵の質問に梨々は少し考え、そして口を開く。
「心の整理をつけたいから。」
「それって…。」
葵は皐のことをよぎった。
皐は梨々のこと好きにしていいと言った。
だけど、梨々の気持ちは…。
皐の人を振り回す言動に少し苛立っていた葵。
「…皐のこと好きなのか?」
怖かった質問だ。だけど聞かなきゃ前に進まない。
「そうね。」
梨々は意外にもあっさり応える。
だけど、葵は納得できなかった。
「…俺じゃダメなのか?」
葵は切なそうに梨々をみる。
梨々は少し泣きそうな顔をして話始めた。
「私ね、皐から振られた時、なんで一方的に別れなきゃいけないのかわからなかったの。でもね、あなたから告白された時、ああ、そういうことなんだって思った。」
そう、皐は、葵の想いを知り、梨々を譲ろうとしたのだ。
「弟想いもいいとこ。でも、皐は自分のことよりあなたのこと優先していた…。お母様がいないからって…。」
梨々は皐と葵の家庭環境もよく知っている。
「その思いを知って、わたしが葵くんを傷つける権利ないから…どう返事すればいいか迷っていたの…。結果、遠回りになってしまったわね…。ごめんなさい。」
「…傷つける権利ないって…そんなバカなこと…これじゃあ…」
葵は辛そうにしている梨々の顔を見る。
(…あんたが傷ついてるじゃねえか…。)
(くそっ…!)
心の中でやり切れない思いになる葵。
「…行けよ。」
「え?」
「塾。模試終了の時間までに間に合うだろ。」
葵は梨々に皐のところに行くように促す。
梨々は想いが溢れ、走り出す。
葵はその場に1人になった。
◇◇◇
坂井邸。
ダイニングには春江さんの手料理がずらっと並んでいた。
「すごーい!おいしそう!」
結局集まったのは、みくに、武生、奈々の3人だけ。
「梨々が模試だってことすっかり忘れてたけど、まあじきに帰ってくると思うから、始めちゃいましょう!」
奈々もノリノリだ。ちなみに奈々は梨々が模試に行っていないことは知らない。
その時。
ピーンポーン
「あれ?誰か来た。」
奈々が玄関に出ると…。
そこには葵の姿があった。
「葵!」
「みくに、いるか?」
パーティーに誘われていたので、葵はみくにがここにいることを知っていた。
「ど、どうしたの?まさか春江さんの手料理食べたくなったの?」
みくにも玄関に出てきた。
「わりぃ奈々。みくに連れてくわ。」
葵はそう言ってみくにの手をひき、連れていってしまった。
「え?ちょ…」
唖然…
奈々は目の前で何が起こったかわからず、しばらく立ち尽くた。
「な、なんなんだ…。」
最終的に良くも悪くも奈々と武生2人だけとなった。
◇◇◇
進学塾の前には走ってきて息を切らした梨々が立っていた。
(もう…帰っちゃったかな…。)
塾の前は静まりかえっている。日も落ちて暗くなっている。雪も少しちらついてきた。
(…寒い…。)
およそ1kmの距離を全力疾走で走ってきたため、汗が引いて寒さを感じる。
「梨々?」
そこには、皐の姿があった。
「どうして…。」
ほとんど生徒が帰った後の塾に皐が現れるのは奇跡だ。
「模試休んでたから心配で梨々の家に行こうと思ったけど…。なんとなくここにいるような気がして戻ってきた。」
梨々は涙が溢れる。
「ど、どうした?」
梨々の様子に焦る皐。
梨々は皐に言いたいことは山ほどある。
なんで一方的に振ったのか。
なんで葵に譲ろうとしたのか。
なんでそれなのに近づくのか。
でも、それをうまく説明できずに梨々はひたすら泣いた。
その様子を見て皐は、
ぎゅっ
梨々を抱きしめずにはいられなかった。
「ごめん。」
皐はその言葉を出すのに精一杯だった。
梨々は少しずつ落ち着く。
そして
「好き…」
皐の胸に顔を埋め、そう呟いた。
「うん、俺も…。」
2人はチラつく雪の中、肩が真っ白になりながら、しばらく抱きしめ合っていた。
◇◇◇
一方、その頃のみくにと葵。
「ちょっと!どこまでいくの?」
みくにの手を引っ張り、どこかへ連れていこうとする葵。
「どこだっていいだろ!ってか携帯の連絡先ぐらい教えろよ!」
「だって、わたし、携帯持ってないもん。あんたんとこと違って金持ちじゃないし。」
「はあ!?今どき持ってるだろ、普通!」
また、どうでもいいことで言い争う2人。
ある程度のところまで来て立ち止まった。
ショッピング街の入り口。イルミネーションが綺麗だ。
人もたくさん通っている。
2人はお店の前の花壇に腰掛けた。
「…なんかあったの?」
みくにが問いかける。
「…フラれた。」
「え?」
(梨々さんに…?)
みくには動揺する。
「…好きだったんだ…。本当に…。」
葵は顔を下に向ける。
葵の落ち込みようにみくにはどうしていいかわからない。
すると、葵がみくにの手を握ってきた。
その手は濡れている。
(え?まさか…泣いてるの?)
みくには葵の顔を覗き込んだ。
悔しそうな顔。
みくには切なくなった。
そして、みくにはその場に立ち、小さな体で葵を包み込む。
「…大丈夫。大丈夫だよ。」
葵の表情が和らぐ。
そして、葵は手をみくにの腰にやり、こう呟いた。
「ずっと一緒にいて…。」
みくには、葵のことを愛しく想ったのであった。
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