私の祖父
私の祖父は 手足の短い、丸顔のもじゃもじゃのじいちゃんだ。優しくて困っている人を放ってはおかないので、周りの人に慕われ、色々な相談にのったり、家に間借りさせたりしていた。
出かけるときには 望遠鏡とカメラを肩にクロスさせ、さらにビデオカメラを持っていたこともあったから、とても好奇心旺盛な人だったのだと思う。
話好きで、食後は30分以上話し続けた。その日の出来事や、おはぎを食べすぎた話、夜、山の上の家から麓まで醤油を買いにいかされた話、戦争の話、そして何より人は素直でなければ
ならないと言った。毎回、うんうんと私がうなづき、「意見は一致したね」と喜んで話は終わった。
褒めることも上手で、
引っ込み思案で、不器用な私を、字が上手になった、学校を休まなかった、読書感想文をうまく書けたと大いに褒め、達筆な字で表彰状を書いてくれた。
私は物心ついた時から、祖父と結婚しようと決めていた。
祖父も私のことを好きなので、問題はなかったが、なぜか祖父のそばには、祖母がいた。
祖母のことも大好きだったが、祖父と私が結婚するはずなのに、『あの人は何故いるんだろう?』とずっと思っていた。
16歳の時に、祖父は帰らぬ人となってしまったが、小さいころから祖父とはどこかで繋がっている気がする。
大学受験の時、何度も受験に失敗し、進学先が決まらぬまま、ついに高校の卒業式を迎えてしまった。
翌日、もう後がない、これが最後という試験中に疲れて眠くなった。
「どうしよう、眠い。おじいちゃん助けて」とやったら、何と、受かるはずもない大学に見事、合格した。
今でも、ものすごく困ったり、夜、怖くなったりすると『おじいちゃん助けて』と呼びかける。
祖父は必ず何らかの形で、助けてくれる。
どうしても見つからなかった鍵が見つかったり、失くしたはずの会社の重要書類が何故か最初からなかったことになったりした。
年頃になって、好きな人もできたが、高校、大学を通して、全くモテず、
会社に入っても何ゴトもなかったが、27歳のとき結婚したいと思った人がいた。
仕事上の付き合いで、電話ばかりだったが、3年ほど好きだった。
上の名前しか知らずにいたが、書類に書いてあったフルネームをみて、衝撃を受けた。
なんと、祖父と同じ名前だったのだ。
当時彼は外国に住んでいて、全く帰国の様子はなく、どうしたものかと思っていた。
そんな時、祖母が島根に行きたいと言い出した。島根は自分の母方の実家があったところで、造り酒屋をしていた、その場所にもう一度行ってみたいと。
本当は、いっこうに結婚する気配のない孫娘を心配し、出雲大社へ連れ出そうと考えたようだった。
祖母の友人に、出雲大社に行き、その帰りの新幹線で孫娘の見合いが決まり、結婚することになった話を聞いたらしい。
母も「私も行く」といい、3人で山陰を旅した。
出雲大社で、私は真剣に「あの祖父と同じ名前の彼が、私の思っているような人ならば、神様どうか結婚させて下さいと」祈った。
ヘンテコな祈りだが、当時、私は彼のことはあまり知らなかったのだ。
本気でもしかしたら、飲む打つ買うの人かもしれないと、考えていた。
実際会ってみたら、彼は祖父によく似ていて、心優しい人だった。ビールは飲むが、打つ買うの人ではなかった。
大好きな祖父とは結婚できなかったが、祖父と同じ名前の人と結婚できた。
祖父が生きていたら、私が選んだ彼をみて、「意見は一致したね」と喜んでくれるに違いない。