#016 叙述トリックのやり方
拝啓 どうやるの? 知りたい方へ
前回の「#015 伏線の張り方&回収の仕方」と同様、
今回も出血大サービスで、特別にお教えします。
■叙述トリックのやり方
最初に結論を申し上げます。
一人称(わたし・ボク)で書けば、簡単です。
あとは「いかに読者をミスリード(誤解・勘違い)させるか」だけです。
以下の「ショートストーリー|こころの声」をクリックしてください。
別ウィンドウが開きますので、まずはお読みください。(3分で読めます)
では早速、
ミスリード(誤解・勘違い)のさせ方を解説します。
この作品[こころの声]は、
ミホと謎の声が交互に展開されるショートストーリーです。
①家族の紹介(語り:わたし = ミホ)
夫ヒロシ ⇒ オスの柴犬ピント ⇒ ミホの順番で家族が紹介されます。
ピントの耳が立つ話題のあと、
わたし(ミホ)が、自分の名前を言います。
この①では、ヒロシ・ピント・ミホが登場します。
②心臓の音(語り:ボク = 謎の声)
謎の声の主は、自分の名前を言いません。
ですが、いつもママとパパのやりとりを聞いていると言います。
そして自分のことを「ボク」と称します。
これまでの登場人物の中から、
読者は「ボク = オスの柴犬ピント」だと予想します。
そこに、この謎の声の主が「ボクは耳がいいみたい」と発言します。
この発言によって読者は、
「謎の声の主は、聴覚の優れたワンコに違いない」
つまり「ボク = オスの柴犬ピント」だという思い込みが始まります。
③新しい命(語り:わたし = ミホ)
②のラストで「小さな心臓の音が聞こえる」と謎の声の主が発言したあと、
この③では、ストーリーが妊娠のことに移行します。
いわゆる起承転結の「承」のパートです。
読者はもう「ボク」が誰なのか? なんて、まったく気にしていません。
④こころのリズム(語り:ボク = 謎の声)
心臓の音は、こころのリズム。④では、この話題に終始します。
なんの疑いもなく「ボク = オスの柴犬ピント」だと誤解したままです。
⑤誕生(語り:わたし = ミホ)
起承転結「転」のパートのこの⑤では、男の子が産まれます。
この男の子こそ「ボク = 謎の声の主」です。
しかし、家族の間で微笑ましいやりとりが展開されているため、
謎の声の主のことなんて、まったく気にしていません。
読者は騙され続けています。
⑥命名(語り:ボク = 謎の声)
謎の声の主が、初めて自分の名前を言います。
名前は「こころ」。
②④のときは、まだ産まれておらず、
まだ名前がない状況なので、もちろん名乗ることはできませんでした。
しかし実は、こっそりヒントを忍ばせてありました。
もしも「ボク = オスの柴犬ピント」であれば、
②のとき「ボクの名前はピント」「ママとパパに名づけてもらいました」
そう自己紹介してもいいはずです。
「どうして名前を言わない?」「なんか怪訝しいぞ」と思えば、
「謎の声の主はピントじゃないかも?」という疑いを持つことができます。
また①で、ミホはうっかり自分の名前を言い忘れます。
謎の声の主も、自分の名前を言いません。
「ミホと同様、うっかり自分の名前を言い忘れてる?」
「ミホのDNA? 似たもの親子? 謎の声の主はまさかの?」
という推理も可能なのです。
2つのヒントが忍ばせてあるにもかかわらず、
おそらく読者は誰も「もしかして?」とは思わないはずです。
完全に騙されちゃっていますから。
で、作品タイトル[こころの声]の[こころ]は、
心(心臓・ハート)ではなく、こころ(名前)です。
正しくは[こころくんの声]なのです。
もちろん[心]と[こころくん]のダブル・ミーニングにしてあります。
はい。
お分かりいただけましたでしょうか?
~ いかに読者をミスリード(誤解・勘違い)させるか ~
それは、起承転結「承」のパートで、
事件が起きればいいのです。ビックリ事件をつくればいいのです。
読者は、このビックリ事件に興味が向いてしまって、
物語の流れとは関係のない「主人公の◯◯は、実は◯◯」なんて、
まったく興味を持たなくなります。
この「ショートストーリー|こころの声」の場合、
謎の声の主のことを忘れさせるために、
③「承」のパートで、ミホは妊娠します。
このビックリ事件以降「妊娠~出産~対面」がストーリーの中心となり、
謎の声の主のことなんて、コレっぽっちも、気になっていないはずです。
…… さぁ、そろそろ、まとめに入ります。
叙述トリックは、文章だからこそ可能なトリックです。
分かりやすいビジュアル表現ではなく、文字表現のみです。
しかも一人称(わたし・ボク)ならば、モノローグ。
要するに独り言なので、
視覚情報をシャットアウトすることなんて、いとも簡単です。
ずっと心情を語っていればいいのです。
モノローグ(独り言)ですから、
話者が心情ばかりを語り続けていても構いません。
ネタバレのきっかけになる視覚情報を一切語らなくても、
おそらく読者は違和感を感じません。
わざと違和感(気持ち悪さ)を感じさせて、
ミステリー小説やサスペンス小説に仕立てることもできそうですが、
わたしはそうした小説を書いたことがありません。
知ったかぶりで偉そうに語るのが、
とても憚られるため、何も言えません。…… ごめんなさい。
はい。
それでは、今回の結論です。
主人公の◯◯、実は◯◯でした。
コレを一人称(わたし・ボク)で書けば、簡単です。
そして「承」のパートで、ビックリ事件をつくる。
ちなみに、
前回「#015 伏線の張り方&回収の仕方」
今回「#016 叙述トリックのやり方」
2回連続して、わたしはテクニックについて書きました。
自分が執筆した「作品・プロット・記事」を解体して、
説明させていただきました。
なぜなら、著者(執筆者)自らがそれをすることで、
いちばん分かりやすく説明できると思ったからです。
[伏線 方法][叙述トリック 方法]
検索結果のクリック先の記事にも、それらの類いの書籍にも、
■用語の説明
■叙述トリックを用いた作品の紹介&解説
などが書かれてあっても、
「全然イケるよ」とか「簡単だよ」なんて、書いてないと思います。
■記事の執筆者は、自ら実践した経験がない。もしくは乏しい。
■実践経験があっても、具体的な説明が難しくて、めんどくさい。
■習得した技術を教えるなんてもったいない。誰にも教えたくない。
このいずれかなのかもしれません。
わたしは「全然イケるよ」「簡単だよ」ってお伝えしたいのです。
複数回チャレンジすれば、きっと習得できると思います。
[告知]
とても売れているようなので、
この本を買いました。
GW中に読みます。
~ 5月中に読後の感想を記事にします ~