#007 ストーリーの創り方①
拝啓 ひらめきをストーリーに化けさせたい方へ
「小説を書きたい・書いてみたい」と思われている方はもちろん、
まったくそのつもりのない方も、
突然ストーリーを思いつくことがあるかと思います。
ストーリーに限らず「このアイデア、発明かも! 特許になるかも!」
などのひらめきもあるかと思います。…… わたしもたまにあります。
しかしそれらのひらめきは、
すでに多くの人たちに先を越されているストーリーやアイデアで、
言ってしまえば、誰もが思いつくようなヤツです。
「これまで誰も思いつかなかった新しい創作物」というのは、
これまで多くの人たちも思いついているひらめきを基に、
試行錯誤にたっぷり時間と労力が費やされ、
工夫と苦労の末、ようやく生み出された「血と汗と涙の結晶」です。
でも、せっかくのひらめきなので、一応、メモっときましょう。
そのストーリーやアイデアを大学ノートに書いておく。
あるいは、PCのメモ帳に残しておくなど、
忘れないようにストックしておくことをオススメします。
発明や特許につながるかも!? 的なアイデアも、
一応残しておくと、いつか何かの役に立つかもしれません。
実際ほぼほぼ役に立ちませんが、寝かせて、たまに見返すと、
また違う新しいひらめきのきっかけになることもあります。
わたしは、こうした地道なメモ残しを、
創作のためのトレーニングだと思っています。
さてさて、本題です。
せっかくひらめいたストーリーやアイデアを、
どのようにオリジナルストーリーに化けさせるのか?
あくまで、わたしの場合に限ってですが、
コンセプト(メッセージ)を決めて、そのストーリーを弄ります。
具体例を挙げます。
誰もがご存知の昔話「浦島太郎」を素材にして、
------------------------------------------------------------------------------------
■コンセプト(メッセージ)
「いじめをした者は、しっかり反省しなさい」
------------------------------------------------------------------------------------
と設定し、オリジナルストーリーに化けさせてみようと思います。
①むかしむかし ⇒ 現代
②浦島太郎 ⇒ 女子大生の涼子(りょうこ)
③亀 ⇒ 小学児童の女の子・ひなた
④竜宮城 ⇒ 小学児童のお家
⑤玉手箱 ⇒ 思いがけない喜び
~ タイトル:ひなたの告白 ~
ある日の学校帰り、女子大生の涼子は、自宅そばの公園で、
複数の女子児童にいじめられている女の子を見かけた。
「ちょっと、あなたたち、やめなさい!」
涼子が制止すると、
女子児童たちはその場を走り去っていった。
「大丈夫?」と涼子。
「はい、だいじょうぶです。どうもありがとうございました」
そう言って、その場から立ち去ろうとする女の子。
「ねぇ、ちょっと待って」と涼子。
「ちょっとだけ、お話し、しよ」
ふたりは公園のベンチに座った。
女の子の名前は、ひなた。小学5年生。
「先週から、いじめが始まったんです」とひなた。
ひなたは告白をつづけ、
涼子は「そっかぁ」「うん」「そうなんだぁ」などの、
相槌だけを繰り返し、聴き手に専念した。
ひなたの話が終わると、今度は涼子が、
「実は、わたしもね ……」と、
自分が中学3年生のときに受けたいじめについて語った。
「わたしの場合は、お兄ちゃんに相談した」
「ひどいいじめはなくなったけど、卒業するまで無視は続いた」
「でもね。高校では、いじめは全然なくなった」
「あの時、お兄ちゃんに相談して、だいぶ救われたの」
「ひなたさんは、お兄さんとか、お姉さんとか、いるの?」
「いないです。わたし、ひとりっ子なんです」
「そっかぁ」
「でも、ちょっと勇気が出ました」とひなた。
「お姉ちゃんにお願いがあります」
「ん? なぁに?」
「家までいっしょに来てくれませんか?」
「えっ?」
「お姉ちゃんがそばにいてくれると」
「ママに相談できる気がします」
特になにも予定のなかった涼子は、
ひなたについていった。
ひなたの家は、
近所でも美味しいと評判の「洋食店」だった。
「ひなたさん家、ここだったんだ」
「はい」
涼子は、入り口の貼り紙を目敏く見つける。
「バイト募集してるんだ」
「はい」とひなた。
「こないだまで働いていたお姉ちゃんがやめちゃって」
「パパもママも困ってるって言ってました」
「へぇ~。お姉ちゃんね、ここでバイトするの、憧れてたんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
ひなたはそう言って、お店のドアを開けた。
カラン♪ コロン♪
「ただいまー」
「バイトしたいっていうお姉さん、連れてきたよー」
えっ! なに、なに? と、戸惑う涼子だったが、
「こんにちは~」と、おそるおそるお店のなかに入った。
急遽、
マスター(パパ)によるバイト面接が始まった。
ひなたの方は、店内の一番奥のテーブル席で、
ママと向かい合い、自分に起きているいじめについて話した。
涼子の方は、あれよあれよと話が進み、
バイトの採用が決まった。
「でしたら早速、来週月曜日から来てください」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
ひなたとママが、パパと涼子のテーブルにやってきた。
「この子が大変お世話になったそうで」とママ。
「そんな、そんな、全然」と涼子は手を振り、
「ちょっとだけ、ひなたさんの話を聴いてあげてただけです」
「本当にありがとうございました」とママ。
「なにごと?」とパパ。
ママから説明を受けたパパは、
「そうだったんですね。誠にありがとうございました」
涼子に対して深く頭を下げた。
週明けの月曜日、
バイト初出勤の涼子に、マスター(パパ)が声をかけた。
「少しだけ、お時間よろしいですか?」
「はい」と涼子。
ママがふたりのそばにやってきて、
「あのあと、ひなたがすべてを告白してくれました」
涼子は黙って話を聴いた。
ママの話によると、
以前はひなたが中心になっていじめをしていたらしく、
しかし急に風向きが変わって、
今度はひなた本人がターゲットになってしまった。
ママには「自業自得だ」と叱られ、
パパには「いっしょに謝りに行く」と連れられ、
これまでいじめていた子すべてのお宅へ、謝罪に回ったそうだ。
ひなたはずっと泣きながら謝り続けていたらしい。
涼子が訊ねた。
「いま、ひなたさんの様子は?」
「この土日でずいぶん反省したようです」とパパ。
つづけて「今日も『学校で謝る』と言って登校していきました」
ママが付け加えた。
「そろそろ帰ってくると思います」
マスター(パパ)が涼子に、
「ちなみに今日のまかないは、A5ランクの和牛ステーキです」と微笑んだ。
「えっ、ほんとですか?」と涼子。
「今日だけ特別。初出勤のお祝いと、ひなたのお礼もかねて」
「人生初めてのA5です。わたし、しっかり働きます!」
そのとき、カラン♪ コロン♪
お店のドアが開いて、ひなたが帰宅した。
「ただいまー!」
「あっ! りょうこさんだ!」
ひなたは、とても元気に帰宅した。
~ おしまい ~
…… という感じで、原型は「浦島太郎」ですが、
似ても似つかない別のストーリーに化けさせることができます。
いざ執筆する段階では、
視点を変えて(ママ目線に変えて)、
「わたしには、ひなたという一人娘がいます」
という冒頭から始めることだってできます。
「吾輩は猫である」風に、
事の一部始終を見ていたネコの目線で語り、
もっと辛辣な内容にアレンジすることも可能です。
①むかしむかし ⇒ 現代
②浦島太郎 ⇒ 女子大生の涼子(りょうこ)
③亀 ⇒ 小学児童の女の子・ひなた
④竜宮城 ⇒ 小学児童のお家
⑤玉手箱 ⇒ 思いがけない喜び
もちろん、上記①~⑤のいずれかを変えるだけで、
違うストーリーになります。
複数変えれば、また違うストーリーに変化します。
小説ジャンルを追加設定すれば、さらに変化します。
そもそも、コンセプト(メッセージ)を変えれば、
いくらでもオリジナルストーリーを創れます。
あとは、面白いか面白くないかを判断するだけです。
コンセプト(メッセージ)を決めると、
意外と簡単にオリジナルストーリーを生産できる。
ということです。…… 次回につづく。
★下巻の最後、涙が止まらなかったミステリー小説★
天童 荒太 著「永遠の仔」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?