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天使
私は天使。
みんなのことをいつも見守っている。
みんなのことをいつも心配している。
誰かが悲しい思いをしないように。
誰かが苦しい思いをしないように。
みんなが笑っているかな?
みんなは楽しいかな?
いつも周りの人たちの幸せを願っているよ。
いつも笑顔でいるよ。
私は天使だから。
「大丈夫?」
と後ろから声がした。
振り向くと、可愛い女の子がいた。白い帽子をかぶって、ふわふわの白い洋服を来て、白い靴を履いて、くりくりの目をしていた。
「あなたは?」
「それより、あなた傷だらけだよ。お洋服もぼろぼろだよ。」
「え…?」
私は、自分の身体を確認するように見た。
私が来ていた白いワンピースはところどころほつれて、穴が開いているところもあった。
色は灰色になっていて、私が白だと言わなければ元の色がわからないくらい汚れていた。
あれ?いつからこんなにぼろぼろになっていたの?どうして私は気が付かなかったんだろう。
ふと見ると、その女の子の背中には金色のキラキラ光る翼があった。
あぁ、そうか。
私は天使になりなかったただの人間だ。
本物の天使はこの子なんだ。
金色の粉を全身に纏っているかのように、女の子は輝いて見える。
彼女が首を傾けるだけで、周りの空気がキラキラと光る。
「私は、頑張り過ぎてしまったみたい。」
「そっかぁ。頑張ってきたんだね。」
本当は天使になりたかった。
みんなを救える天使に。
お日様のように輝いて幸せを与えられる天使に。
「あなたは天使だよ。
そんなにみんなの幸せを考えられるのは、あなたが天使だから。だから、辛いよね、大変だったよね。当たり前だよ。」
女の子はそう言うと、私の背中にそっと触れた。
私の背中には大きな翼があった。
「もう大丈夫だよ。あたらしい世界では、無理しなくていいんだよ。楽しく生きていいんだよ。あなたはそのままで、頑張らなくていい。」
「あたらしい世界って?」
「あなたがこれから行く世界だよ。
そこには、悲しいことも苦しいこともない。」
「そんな世界あるはずない。」
「そう思い込んでるからじゃないかな?違う世界はすぐそこにあるよ。あなた次第でね。」
「どうすれば、その世界に行ける?」
「あなたは、そのままで天使だって信じるの。」
「それだけ?」
「そうだよ。信じる力はなにより強い。あなたはなりたい自分になれる。」
「……わたし、まだ飛べるかな?」
「一緒に行こう。連れて行ってあげる。」
私はぼろぼろになった翼に最後の力をこめて飛んだ。自分は天使だと自分に言い聞かせて。
すると、今までの身体の重さが嘘のように簡単に飛べた。
あぁ、そうだったんだ。
本当はとても簡単なことだった。
それを私は難しく考えすぎていただけだったのかもしれない。
私には翼がある。それを使ってただ大空を自由に羽ばたくだけで良かったんだ。
だんだんと肩の力が抜けるの感じて、高く飛んでいける気がした。
女の子は、私の手をとると、とても嬉しそうな顔で笑った。
2人は輝きながら、幸せな空に消えて行った。
地上からは、白い紋白蝶がきらきらと飛んでいるのが見えた。
暗い地面に、2人の抜け殻を残して。