バケツ一杯の水で マカピーの日々#0995
マカピーです。
やはり水が無いと生活に困るのでした!
サバに帰ってきてハジさん宅の3階の自室のバスルームから水が出ません。
トイレが困ります!
水が出ないのはそこだけでなく、2階も1階も同じです。
台所の水もためているのでOKですが、洗濯機が回せません!
周辺でも水の出が悪いと言われていますが、これは一体どうした事なんだろう?
プライ:「ポンプだっていうけれど、ポンプは動いているわ」
ハジ:「配線がアリにやられたのかも」
マカピー:「隣のユスフ宅はどうなの?」
プライ:「弱いけどちゃんと出ているそうよ。近くの家で工事をしている影響かも?」
マカピー:「で、一番影響が出ているのがうちだって事?」
プライ:「そうかもね」
それで各階のバスルームにも台所にも水を入れた大きなバケツが準備されています。
水が出る時間に溜めておく作戦なのですが、なぜかしらハジさんもそれ以上の対策を取ろうとしません。
マカピーは毎朝の散歩の後でシャワーを浴びたいのですが、貴重な水をしかも階下からバケツで汲み上げる事を考えると大事に使う事になります。
小さな汲み取り桶で、頭から水をかぶって体を濡らし石鹸で体中を泡立て、髭を剃りその水でまずあらかたの泡を落とします。
更に2杯くらいで体中の泡を良く落とし、タオルで体を拭き水浴び終了。大体バケツで半分くらいの水でした。
残りを大きなバケツに入れ空になったバケツを持って階下に行こうとした時に心になにか思い出したことがありました。
「あれ、これって・・・どこかで経験したよなあ・・・」
そうだ、マカピーは思い出したのです。
マカピーが他の仲間と青年海外協力隊員(JOCV)としてサバ州に着任した村には電気も水道も引かれていませんでした。
我々3人の隊員に与えられた高床式のオフィス兼住居は屋根の水を集めてタンクに溜める機能がありましたが、400リットル分しかなく、シャワーを取り付けたり、トイレを水洗にすればあっと言う間になくなる事が目に見えていました。
マカピーが参画した村落開発では、畜産隊員や野菜隊員が村人の農業生産をあげ増収をはかる一方で保健婦隊員がその野菜を使って栄養状況の改善を図ると共にトイレを設置させるなど衛生環境の整備も行っていたのです。
水資源の井戸掘り隊員と二人で階下のトイレの水洗した汚水を自然浸透させるために大きな穴を掘り、そこが一杯になったら、汲み出すことにしました。
当時、周辺に住むルングス族の家庭でトイレを持っている家は無かったと思います。
政府が10家族ほどに造り与えた『ロング・ハウス』(Rumah Panjanルマ・パンジャン)でも各家庭の裏の空間で『沐浴』(Mandiマンディ)ができる板の間がありここにも水甕(みずかめ)があり屋根からの水が引かれていました。
水は食事用にも使われるし、家族の多い家ではそれでは間に合いませんから共同井戸までいって汲んでこなければなりません。
大概、そこにトイレ機能があるはずなのに見当たらないのでした。
おかしいなあって見渡すと床の一部に直径5センチにも満たない穴が開いているのでした。
うん、こりゃ何だろう?
マカピーはその穴から下を覗くとニワトリ、豚、犬、そして子供が階下で遊んでいるのでした。
そうです。この穴こそトイレだったのです。
そこにはバイオマスというか食物連鎖を見事に具体化した世界があって、マカピーの排泄物を待っている分解者が常に「食べ物」が天井から落ちてくるのを待っていたわけです。
皆さん、納得できましたか?
生物学的にはこれで循環社会が形成されていていいのですが、衛生的にはやはり問題で村人の多くがお腹の中に寄生虫を飼っていました。
共同井戸の周辺も水の汲み上げや水浴以外にも洗濯が行われ、そのゴミや滞留した汚水で汚れていたのです。
マカピー達もタンクの水を節約するためにこの井戸を利用していたのですが時々、その井戸近くにラーメンのカタマリのようなものがあるのでした。
よく見ると、誰かの体内から排泄されたまたは吐き出された回虫の塊だったのです。
寄生虫の問題は、この村の衛生状況を端的に物語っていました。
汚水と上水を完全に分ける事が必要です!
『ゴトン・ロヨン』と呼ばれる共同作業を実施して、洗濯場の屋根掛けや汚水排水路を整備したりしました。
水浴び場の周辺に滞留していた汚水が滲みてやがて井戸に戻っているような状況を回避するためには周辺をコンクリートで固めるべきでしたが、とりあえず溝を掘り近くの排水路近くまで汚水を流すことにしました。
ボルネオ島北部に位置するサバの気候は、クアラルンプールなどがあるマレー半島のようにモンスーンの影響を受ける雨季と乾季がはっきりしていません。
ですから、通年雨がある場合もあるし、乾燥が続くこともあります。
問題は乾季です。2年間の滞在中マカピー達も酷い乾季があり共同井戸の水が枯れあがってしまったのです!
普段からバケツ一杯の水を汲み上げると、体を洗い残った水でその日に着た衣類を洗い、サロン(腰巻)姿で住居に戻るのでしたが、井戸の水が無くなる事態では水をますます節約する事になりました。
井戸は5mほど浅井戸だったのですが、時間が経つと水がしみ出してきて完全に干上がる事はありませんでしたが、水タンクを常備していない家庭にとっては死活問題でした。
マカピー達は配属先から車両(ランドローバー)を手配してもらっていたので、いざとなればここから脱出する事が出来ますが村人にはその選択がありませんでした。
あれから長い年月が流れました。
昨年からコタキナバルには来ていても、まだあのマカピーのいた村に足を伸ばした事が無いのです。
おそらくあの村も電化して水道は引かれていると思うのですが、決心がつかないのでした。
マカピーでした。
最後までお読みいただき感謝します。センチメンタル・ジャーニーになるのかな?