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読書レポート「キーエンス解剖」-最強企業のメカニズム-

全体所感


日経ビジネスの記者が著者のため、丁寧な取材による情報の網羅性・関係者のインタビューから見える社風・文化などがよくわかる一冊。

直接、中に入り込み一次情報を得ているため情報の信憑性も高く、適度に記者の考察や切り口から語り手の言葉を抜粋しながら深掘りしてくれているため、単なるビジネス書というよりエッセイ、小説のようなウェットな読み応えもあった。

時価総額で国内3位、営業利益率55.4%、自己資本比率93%、平均年収2,000万とまさに経済的にはビッグジャイアントの同社。

日頃実施している”当たり前にやること”を徹底的にやり切る姿勢や文化についても学ぶことができ、著者も最後に触れているが表面的な実施内容を真似るのではなく「哲学」や「思想」に触れることができた。

自社の評価制度、営業環境や組織マネジメントなど徹底できていないこと、ラスト1マイルの自社では足りていないところのへの答え合わせ、気づきやヒントも得られるため”その取り組みの目的を理解した上で”実施すべき取り組みを抽出することもできる本。

一方で、キーエンスの強さの背景について記された第5章『仕組みの源流に「人」あり』があることで一気通貫とした企業理念の納得度が増す印象を覚えた。

巻末にもあるが、「キーエンスと同じことをしてもキーエンスにはなれない」。
・適切な目標設定と徹底的な可視化
・それに基づく高頻度の改善をあらゆる場面で実行する
 └この2つを意識し、表面的にまねするのではなく、
  その仕組みに込められた「哲学」を真似する

学んだこと


顧客の要望を先回り。常に先手先手で動く仕組み作り
●SFAによる情報整備(顧客情報の可視化)と共有、記録することのインセンティブ設計。

提案先企業の細かな動向、担当者の状況など事細かく SFAに入力。例え自身の営業実績にならなくとも会社全体の実績が上がることで賞与を始めとしたインセンティブで還元されるため、営業の士気が高い状態で常に顧客情報の網羅・共有がされやすい環境を設計している。

そこで製品を直接営業がデモで顧客に提示することでわかりやすく顧客のニーズを裏付け(先回り)とした製品ベネフィットを伝える。
電光石火の営業を掛けられる一つに接触があった担当者と関係構築を図った後、「他にお困りの方はいませんか?」と必ず聞くことで常に次の課題解決の発芽を早い段階で摘むことができている。

加えてWebサイトからカタログをダウンロードした見込み客に対して1時間以内に電話し対応する瞬発力もスピードのある営業スタイルに繋がっている。

▼見解
①顧客の潜在需要を掘り起こすこと→高収益の秘密、ヒット製品を生み出す秘訣
②顧客の興味の兆しが見えたらすぐにアプローチ→営業が圧倒的な付加価値として介在できる背景
顧客情報の可視化などSFA/CRMへの入力徹底文化と合わせて①②を実施することで付加価値の高い先回りの営業が可能になる。

●営業が売れるための環境設計(営業KPI、ロープレ、外報)


・KPI(訪問件数、電話、デモ営業)
1週間のうち3日が営業・訪問日、2日が社内日と切り分け。
電話:社内日で30-80件
アポ取り:1日5-10件の訪問アポ。※5件以下は外出が許されないことも

営業現場のディスプレーに営業担当がその日にかけた電話件数が掲示される。刻一刻と変わる数字をチェックしながら、自身の活動量の確認と改善に繋げられる環境。

※その他、キーマンに対する施策の実行結果、個人KPIの改善点を事業部内のKPIランキングからヒントを掴む環境もあり結果ではなく、プロセスを大事にしている
電話については上司がメンバーの電話を隣で聞く。即座に指導して正す。

・外出報告書(外報)
顧客との面談開始・終了を記載(10分刻み)。デモの有無(回数)も重要KPIとして記載。
内容:面談相手、場所、反応、提案内容、やり取り(タブレットに記録)
暗黙のルールで商談後5分以内に記入
 └時間が経つと主観が強まったり詳細を省くことがあるため
→1日の最後には外報を使いながら、商談状況と今後の方針について上司⇄メンバー間で協議する。

・ロープレ
毎日10-15分実施。長時間というより毎日継続的に呼吸するように行うことがポイントとしている。
※継続的に行うことで常に質の高い会話、営業ができる筋力を強化
国内・海外ともに営業スタイルで好評が「デモ」。顧客の前でどれだけデモ提示できたかを重視。
また、後輩から先輩に改善の提案を行う。※上下関係はなく第三者からの指摘を改善のヒントに
台本(営業の型)を用意していること、作成の管轄を販売促進部門にすることでベースを必ず用意できる環境を作っている。
プレゼンの中身や質疑応答でストーリーを上手に伝えられるかも重要。
※研修時はミニテストがあり商品知識をつける。テスト後、順位により席が変わる。
〈過密なスケジュールをこなす〉

▼見解
圧倒的な数が質を生み出すことの好例。
また、訪問・提案前の事前準備のすり合わせに時間を割いている。
(一定のキャリアになるとやらなくなることが多いが基本的なこととして実施すると営業成果に差が出ると感じた)

▼見解
勝ちパターンがわかるようにデータを活用することで営業の平準化につなげている。「裏の数字」(何かの施策を実施し変化した結果により影響を受けた他の数値)も見る。

性悪説ではなく、”性弱説”(人は弱い生き物)に基づいてこうした制度を設けていることに納得。

営業の訪問後、上司がその顧客に電話するハッピーコール制度も監視と取るか、上司の次回提案のための改善サポートと捉えるかにより成長度合いに変化を起こす印象。

ウソをつかない、つけない文化=真面目に取り組んでいる人が割りを食わない環境は営業が主体の会社にとって大切なこと。
上司がメンバーの成長のため育成に力を入れている会社。
★SFAを徹底的に使うデータサイエンスと対面・リアルのコミュニケーションを通じて行うハイブリッド型がキーエンスの育成の本質。

●営業が持つポテンシャルの高さ


・圧倒的な商品知識と提案力(前述のロープレなどを通じて基礎体力がついている)

・ちょっとしたプログラミングは営業でもできる
 (営業個人が現場で解決する文化を大事にしている)

・競合他社の営業車は購買部のそばにあるが、
 キーエンスは工場のそばにある
 └全国のテリトリーを区切り、9つの事業部で自分の担当する製品を営業
  ※「顧客接触度合いは他社が1ならキーエンスは100」 Byユーザー担当

・『ニーズの裏のニーズをしっかり確認せよ』
→顧客の口から出たニーズと最初は顧客の口から出てこない本当の需要である裏のニーズを研修。
初期から区分けするよう教わる。
 「なぜ、それが必要か?」「これを導入してどんな成果を望んでいるのか?」を顧客に問う。

・キーパーソンの見極めを徹底する
→『この件の意思決定はどのように進んでいくのですか?』を堂々と確認。
 ※キーパーソンの性格、意思決定の癖をSFAに入力、半年に1回程度で最新情報を更新

・業界全体の動き、顧客の製造工程を俯瞰して提案する
従来の営業は顧客の表面的な課題やニーズに対してのみ提案している部分最適スタイル。
しかし、キーエンスはその工程全体からどこに課題があるか、改善点がないか全体から見ていく。

・ニーズカード(営業が月に1枚以上提出)の存在
商談中、顧客が発したちょっとした一言を書く、世の中にあるものではまだこれができないといったニーズを書く。営業のヒアリング力とニーズカードの質が直結する。
※提出数、採用数もボーナスや評価に反映される
※「ニーズカード賞」(1万円程度の賞金を3ヶ月に1回で開催)

・テリトリーの垣根を超えた動き(ID制度)
本来、9つの事業部に分かれて面の営業をしているが、ある事業部の担当者が別事業部の担当者に「この顧客に●●の課題がありますよ」と紹介しその後成約になれば金一封と評価に繋がる。

▼見解
紹介制度を評価に組み込むこと、営業の質を高めるために徹底的に現場主義を貫き情報の収集、提案力をあげる情報整備、育成制度や文化が連結している。
※現場に全ての答えがあるといった共通認識の大切さ
表層的な顧客のニーズをある種疑うくらいの姿勢で真のニーズを探る姿勢も改めて大事と感じる

●商品開発のこだわり(ヒット商品を生み出す秘訣)


・リリース時期を優先して中途半端な価値の商品を提供するよりも価値の最大化を大事にする。
・「ひと手間」を惜しまないことで粗利8割を実現する
 一般メーカーとの違い:
 エンジニアの役割→指定されたスペックの機器を納期通りに完成させる
 キーエンスのエンジニアの役割:提示された仕様からさらに価値を高めようとする
 (実際に顧客を訪問し反応を見ながら商品の特徴を研ぎ澄ませていく)

・”意味的価値”が高い粗利益の要素
「なぜ、それがいいのか」「どのように生かせるのか」を念頭に置く。
※単なるカタログに載っているような機能的価値を優先にしない

・760人の社員のうち100人いる開発陣が取り組む”潜在需要”
価値観:「顧客が欲しいというものは作らない」
└顧客が欲しいというものを作っていては遅い、という感覚

・業務用で使いにくい他社製品と比較した際、圧倒的なユーザビリティの追及
"順番にボタンを操作すれば使えるレベル"にまで落とし込む。
あくまで生産現場で働く人をイメージした製品。

・開発に特に予算はない。開発にどれくらいの工数・費用がかかるか試算し、その投資に見合う効果を得られるのであればゴーサインが出る。最終的な決済は社長(社責)だが、各事業部に決済権がある。

・着眼点をずらす
「もっと分析の速度を上げたい」顧客に対して部分的な作業効率に焦点を当てる一般的な企業と異なり、「測定作業全体にかかる時間」にフォーカス。

・潜在ニーズと開発をつなぐ企画開発立案部門主導の動き
 ①商品企画担当者が営業と開発の仲裁役になること
 ②長期にわたって企画を煮詰めていくこと
 ③商品を完成させる最後まで関与し続けること

・2つの承認プロセス:
a.着手承認
数あるアイデアの中から試作品を作る段階に進めたいものを選定。企画書を提出
※30個ほどのアイデアから3件程度の抽出(営業が出すニーズカードを必死に見る)
b.商品化承認
試作品の中の1/3程度。技術的な検討、より深い市場調査
★いずれの承認プロセスの中で重視されることが「何件の顧客にヒアリングしたのか?」
平均20〜30件のヒアリングが普通。

〈企画書に盛り込む要素〉
・引き算の思想
一般的に製品開発にはチャンピオンスペック(競合製品を上回る機能)を追及しがち。
しかし、キーエンスは事前に調べた顧客ニーズと照らし合わせて必要な機能や性能を絞り込み徹底的に尖らせる。

・シェアの目標は不要(結果論でしかないため意味がない)
代わりに費用対効果のロジックを問う。→「この商品のターゲットとなる顧客を30社ヒアリングしたところ、20%が購入しそう。全国では2000社程度がターゲットのため利益は○○円となる」

・上乗せ粗利(新製品投入後、既存製品の売上減少によるシミュレーション)
例:開発費2億円。発売後、2,000万の粗利が見込める場合、10ヶ月で投資回収。この時、既存機種の販売減で月1,000万の粗利を失うとすると上乗せ粗利は1,000万。結果、トータルで考えれば開発費の回収には20ヶ月を要する。
→キーエンスでは、平均12ヶ月で回収が基本。【売上高ではなく粗利で企画する】ことがポイント。

・即納による好スパイラル
顧客から注文を受けた当日に商品を出荷(大阪府高槻市にあるロジスティックスセンター) ※Amazonと同じスタンス
そのための分業制度の徹底。営業は営業に集中する。
FA業界で即日納品をできているのはキーエンスのみ。
10万円のコストをかけても当日出荷を選ぶ姿勢(直近の利益よりも当日出荷が重要)
顧客へのブランディング効果
→「キーエンスだったら、すぐに持ってきてくれる」→商品の売値を維持できる、という循環
※需要予測と原材料の調達リードタイム、生産リードタイムを緻密に計算

・協力会社とのWin-Winを築く「売上債権回転日数」
顧客への販売から代金の回収期間が平均169日、仕入れ先への決済(仕入債務回転日数)は43日。
→サプライヤーに対して、早く支払い(手形ではなく、げんきん)、顧客からはゆっくりと回収するスタイル。即納体制にはこうした協力会社への好条件を日頃から提示することで繋がっている。

▼見解
他社との差別化のためにはコストを惜しまない姿勢が印象的。自社の事業が顧客にとっての最大の強みがどこにあるのか?を煮詰めていく。

企画担当、開発担当、営業がそれぞれ連携することで高品質な商品が生まれる仕組みを作っている。他部署へのリスペクト、連携する体制、その動きを的確に評価する制度、フィードバックする目的意識・合理性など参考とすべきところは多い。

資金やバーンレートなど制限がある新規事業、スタートアップでもプロダクト開発に際して、MVP(実用最小限の製品レベル)開発を大事にするが、顧客の声を大切にすること、現場感へのこだわりは共通点として考えられる。

Saas業界でいうところのアジャイル開発やスクラム開発(チームごとに分かれて短期間の開発サイクルを組む)でも臨機応変にアップデートを行うのと同じように、それぞれが役割の中で動く点が最終的にチームビルディングによる製品開発の成功法則と感じた。

●社風と規律(社員ひとりひとりがワークする仕組みや考えかた)


・「時間チャージ」で自分の1時間で生み出した付加価値を見直す
=社員1人が1時間あたりに生み出した粗利。個人で動くときもチームで動くときも意識する。
※無駄な打ち合わせやMtg、チーム内にアサインするメンバーの数や合理性など欠けている部分があると周囲からの印象(評価)が下がる【最小の資本で最大の付加価値】を標榜とする。

・「その目的は?」の問いのデフォルト化+3つの意識
キーエンスの根底にある仕事観は「目的意識を持った行動が成果を挙げる」
「目標意識」「目的意識」「問題意識」
そのためには会議でも席次は決まっていないし、先輩でも「さん」付け(役職呼称の徹底などない)

・示す数字に欠けていることがないか
→「ロジを明確に」。論理や正しい判断のために必要な数字を揃える。その積み重ねが組織全体の生産性に関わる。

・ナレッジのシェアがクール、囲い込みはイケてない文化
営業の知見やちょっとしたナレッジなど社内ポータルサイトへ投稿(投稿するとポイントで評価につながるところまで設計しているのが素晴らしい)。
※情報共有を自然とする文化が醸成されている

・社内マルサの存在で性弱説から人を成長させる環境
外報をはじめ日々の報告内容の妥当性、真偽をチェックする「内部監査」チーム。
抜き打ちでチェックすることで業務運用の適用性、効率性を見て代表に報告。
※虚偽の報告は必ずバレる。目的は秩序や文化の維持。嘘をついた人が得をすることを嫌う文化

『人は本来弱いもの』の前提で日々の行動を正確に可視化することを大事にしている。

・マネージャーの360度評価で管理職のレベルアップを促す
→360度評価を取り入れている会社は31.4%(リクルート調査)
目的:責任者のマネジメント力の開発促進
年一で社員自らの「気づき」を会社に提出。新しい気づきとあわせて「やめるべきこと」も発表する。

・面接での妙技。20秒自己PR、説得面接、要素面接erc…
エントリーシートや志望動機は重視していない(学生がキーエンスのことを知らなくて当然、というスタンスのため)。

かわりに20秒という短時間で自分のことをアピールする課題に簡潔に、論理的に説明できるかを見る。

説得面接…「私は●●が好きではないのですが、好きになるように説得してください」

要素面接…「売れている営業マンに共通している要素を3つ教えてください」
→いずれも回答のスピードと論理性を見る

▼見解
組織全体の生産性を上げるための仕組みや工夫、人の根本的な性格を考えて設計されている。至るところに行動した結果が成果に繋がった際に還元される制度も印象的。

社内監査は驚きだが、それだけ真面目に頑張っている者が得をする(不正は許されない)環境を作ることで正義の形を明確にできている。合う・合わないは人によってはどうしても免れない組織の風潮となるが、重視すべきポイントをあらゆる角度から仕組みに反映しているところが高収益体制の秘密と感じた。彼らの当たり前の水準が圧倒的に高い位置にある。

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