奈良。探し求めていた、本物な方(2017年48歳)
アクセサリーの制作活動をしていた頃。
「ちょっとしたお仕事(委託販売の納品)」を大義名分に、いつもの「風水開運ひとり旅」へ。
訪問先は、修学旅行以来の奈良である。
実に30年ぶり位の奈良。なにはともあれ、初日に納品を済ます。
そして完全フリーになった2日目の早朝、この旅一番の目的である「念願の神社」を無事参拝。
その後、ほんの思いつきで、近場に鎮座する「別の神社」にもふらりと立ち寄ることにした。
「確か、ここもパワースポットなんだよな~」
それだけのふんわり知識で訪れた、こちらの神社。入ってビックリ、とてつもなく広大な境内だし、とてつもなく立派な手水舎なのである。
「おお!ここまで立派なのはなかなか見ないぞ!」
まじまじと造りを眺める。
……でも、驚きは一瞬のこと。大変失礼ながら、ご由緒などの知識を全く持ち合わせていない私は、お気楽ステップで拝殿を求め、先へ進んだのだった。
そしたら今度は、これでもかと言うほど壮大で重厚な、何かしらの建築物がドデーンと眼前に広がった。
「こ…これはすごい!」
圧倒的スケールからにじみ出る荘厳なオーラに、自ずと身が引き締まる。
そして、ようやく気づく。
「もしかしたら、相当格式の高い神社なのでは……?」
すっかり気圧され、建築物を遠目に呆然と立ち尽くす私。(←でも、一向にご由緒を調べようとしない😅)
その目に、案内板の「月次祭※」という大きな文字がサッと映った。
「……あら、いつなんだろう?」
ふらりと近づいてよく見ると……何と今日、しかもあと30分くらいで開始である!
「おおっ!なんてグッドタイミング!これは是非とも参列させていただけないものか!?……まあ、開始間際だからムリかも知れないけど、一応ダメ元で伺ってみよう!」
鼻息を荒くした私は、とりあえず壮大な何かしらの建築物(のちに外拝殿であることを知る)へ急行したのだった。
到着した先には、参拝客も無い静かな空間があった。
左手には授与所。ひとりの若き巫女さんが鎮座しておられる。
少々ドキドキしながら近寄り、早速チャレンジ開始。
「すみません、月次祭に参加したいのですが、今からでも間に合いますか?」
瞬間、巫女さんは明らかに『……え?』と怪訝な顔をされた。
と思ったら、ブツッとひと言放たれたのである。
「▲▲▲ですよね?」
『え…?今なんと…?』
日本語として、「ですよね?」しか聞き取れなかった私。こちらの発音が聞き取りにくくて用件が伝わらなかったのかと、声のボリュームを少し上げ、再びアプローチをした。
しかしそれは、彼女の語気を強めることになったにすぎず、『だから、▲▲▲でしょ!?』と言わんばかりのトーンで、全く同じ回答を頂戴した。
……が、やはり聞き取れず、軽い衝撃が走る。
ふたりの間に、断絶のしじまが流れた。
『……こんなに話が通じ合わないことってあるだろうか。い、いやでも、もう一回だけ聞いて、それで意思疎通出来なかったら、縁が無かったと諦めよう』
「あの…月次祭なんですけど……。無理なら本当に大丈夫ですので」
そんなおずおずとしたラストトライに対し、彼女は一拍空け、仏頂面で言い放った。
「聞いてみます」
そして、ため息まじりにどこかへ電話をかけられた。
……お電話中も、かなり臨戦態勢な彼女。
何が何やらの私は、その様子をただただぼんやりと眺めた……。
通話は意外にも程なく終わった。短い声が届く。
「大丈夫だそうですので、ここでお待ち下さい」
「良かった!ありがとうございました!」
「…(明後日の方を見てわずかにペコリ)」
「………」
これでひとまず参加出来るようになったが、何とも後味の悪いスタート。
私は少しその場を離れ、微妙な気分で入り口の外にて佇んだ。
しばらくすると、ツアーらしき30名程の団体さんが、ぞろぞろとこちらへ向かって来るのが見えた。
『何の団体さんだろ?』と目を凝らしていると、先導の方が一直線に私の元へ。月次祭の参列希望者かをご確認後、「ツアーの概要と費用」についてご説明下さった。
でっ!私はそこでようやく知ったのだ。
「月次祭に参列するには、こちらのツアーへの事前申し込みが必須であった」ことを!そして、「巫女さんが何度もおっしゃっていた▲▲▲とは、この月次祭ツアーの略名であった」ことを!(どうりで、聞き取りからして出来なかった訳だ……)
しかも、このツアーは奈良の観光協会さんが主催しているので、おそらく神社サイドは参加受付などには関与していないのであろう。
うーん、なるほどそうであったか……!過去の経験上、てっきり神社での当日受付なのだろうと気軽にお聞きしてしまったのだが、こちらはただならぬ格式故なのか、それはイレギュラーなことだったのだ。
だから巫女さんはあんなにも不機嫌だったのだ……。
……あ、でも待てよ。最初にご挨拶した時点で、既にご機嫌斜めオーラ全開だったから、そもそもの彼女の持ち味なのかもしれない。
まあ、いずれにせよあまり気持ちの良いやり取りではなかったが、なんだかんだ取り次いで下さったので、何かのタイミングであらためてお礼を言おう。そう思った。
さて、肝心の月次祭(特別昇殿参拝)。
授与所前で待機する参加者は、地元の婦人会の皆さんを含め、総勢50名程までに膨らんでいた。
一行は、先導の方に従って粛々と廻廊を渡り、通常立ち入ることの出来ない内拝殿へ。整然と並べられた腰掛けに、各々着席していった。
その流れで、私はなんと最前列左端の席に座ることになった。
お隣は、ご夫婦らしき若いお二人(30代後半くらい?)で、先隣の旦那さまであろう方は、先程ツアーの代表として 「玉串拝礼(※神様に榊を捧げる)」を行うことになった方である。
場には、開始前の独特な緊張感。所々で小さな声がサワサワと立ちのぼっている。
そんな中、お隣さんの会話がかすかに耳に漂ってきた。
……どうやら、奥さまらしき方のご指導のもと、玉串拝礼のリハーサルが行われている模様である。
で、その身振り手振りも私の視界の隅にチラチラ入るのだが、これがまたフフッと顔がほころぶほど面白くて微笑ましい。
『素敵な方たちだな……』
そう嬉しく思っていると、お二人とも関西弁ではないことに気付く。
途端に好奇心がもぞもぞした私。リハーサルが一段落した頃を見計らい、奥さまらしき方に「地元の方ですか?」と伺った。すると、東京からご夫婦で旅行に来られたとのことである。
『おお!同じ関東人だ!』
謎に嬉しくなった私は、即座に神奈川から来たことをお伝えすると、隣県という親しみやすさからか、たちまち奥さまとの間に何とも言えぬ柔らかな空気がふんわりと広がり、グッと距離が縮まった気配がした。
それからは、大役前の旦那さまも交え、開始までしばし和やかにおしゃべり。
程なく月次祭が始まると、旦那さまは、ちょっと心配そうな奥さまを前に、それはもう立派にお勤めを果たされた。
私も身内のように胸が一杯だった。
そして、気づけばご祈祷中、このかわいらしいご夫婦がずっと幸せであるよう祈り倒していた。
……でもって、自分のことを願う頃には、ご祈祷は終了していたのである……。
けれど、心はとても清々しかった。
その後も、ツアーにはプログラムがあった。
係の方のご説明によると、「境内にある建物(通常非公開も含む)をいくつか巡る」とのことで、我々ツアー客は再び先導に従い、ゆるりとした長い列で、各所をゾロゾロ移動。
ご夫婦と私は何となく集い、引き続き楽しくお話をしたのだが、半面私は『お二人の時間を邪魔しては……』と気がかりに。
なので、敢えて所々離れて行動をした。
ところが。奥さま的には、ひとりで参加している私が気になるのか、さりげなく近寄り、話かけて下さる。
そこで私は冗談っぽく、
「せっかくお二人でのご旅行なのに、旦那さまがほったらかしに……」
と暗に恐縮を伝えた。
奥さまはちょっと驚かれた。けれど、すぐにおとぼけ口調で、
「彼は神社仏閣が大好きなので、勝手に楽しんでいるから放っておいても大丈夫なんです。それぞれに楽しみ方が違うから大丈夫なんですよ~」
とおちゃめにニッコリ。
更には、この会話を少し離れた所で聞いておられた旦那さまも、
「もう、自分の世界に入っちゃってるから、大丈夫です!」
と健康的に日焼けした肌をキラリと輝かせ、爽やかスマイル。
……私は心からお二人が大好きになったのだった。
そんなつかず離れずのツアーも後半に差しかかった頃、「今度は靴を脱いで入る、由緒正しき建物へ向かう」とのアナウンスがあった。
で、この時ご夫婦は、私よりかなり先に建物の上り口に到着していたのだが、奥さまの様子が少々謎に映った。
と言うのも、皆さん次々と踏み板で靴を脱いで入場しているのに、奥さまだけが立ち止まって腰を深くかがめ、しきりに地面の様子を窺っているのだ。
『ん?どうしたんだろう?』
不思議に思いつつ、遠目にお姿を観察していると、奥さまは何かを確認し終えたようにその場所を避けて靴を脱ぎ、ようやく建物に入って行かれた。
『……何かあったのかなぁ?』
遅れて到着した私も、同じ場所をじいーっと探り見た。
すると、あったのだ。一見何も無さそうなその地面に、「蟻の行列と巣」が……。
そう、彼女はそれを踏まないように靴を脱ごうとしていたのだ!
瞬間、歓喜が大爆発した。
『神様ぁぁぁーー!!!!こういう方が実在しておられたのですね!!』
この反射的な喜びは、おそらく人生をかけて「本物」をずっと捜し求めて来たからであろう。
自己顕示欲や独占欲、承認欲求などのエゴではない、真の慈愛。
それを“ヒト”が有することは、かなり難しいものであることを私は知っている。
なのに、こうして実在しているのだ。人間にも可能性はあるのだ!
『ようやく見つけた。生きててよかった……』
感動がドクドクとこみ上げ、胸が震え出す。
もう見学どころじゃない。
どんなに立派で古くて貴重とされているものより、私にとっての至宝は彼女なのだ。
……感極まる胸。私は涙を必死にこらえた。
こうしてツアーは、主催者さんの趣旨とは全く異なる高揚感のまま終了した。
気軽に参加して、イマイチのスタートを切ったが、全く予期せぬ素晴らしい出逢いがその先にはあったのである。
実は心が弱っていたあの時。
そこに素晴らしい経験もたらして下さったお二人、そして出逢いをプレゼントして下さった神様に感謝の気持ちで一杯だ。
今でもお二人のことを思い出すと、生きる望みが湧いてくる。
「東京のどこかには必ず存在していて、今も同じ空気を吸っているのだ!」
そう思えるだけでとても嬉しい。
この何にも代えがたい、思い出と言う名の宝物。
本当にありがとうございました。
余談その1:ツアーで知った神社のご由緒
行き当たりばったり、しかも飛び入りで月次祭参拝に参列させていただいた、こちらの神社のご由緒。
その「とんでもない歴史の深さと格式の高さ」を、ようやくツアー中の説明で知った私は、「ふらりと立ち寄る所じゃなかったよ……」と打ち震えた。
と同時に、そんなお気楽無知な私をも受け入れ、素晴らしい体験をもたらして下さった神様の無償の愛にも、畏敬の念を抱いたのだった。
余談その2:VS巫女さん、再び?
実はツアー中盤、再び「授与所」付近に立ち寄る機会があった。
『お!これはお礼のチャンス!』
見ると、先の巫女さんがまだいらっしゃる。
『今度はうまく伝わるといいなぁ……』
様子を窺いながら、ちょっとずつ近づく。……が、彼女の視線は下にガッチリ固定されたまままで、動かざること岩の如し。
どうにもこうにも声がかけにくかったため、心の中でそっとお礼を述べるに留めたのだった。
余談その2の更に余談:神社にお勤めの皆さんへの違和感
神社好きな私。参拝に訪れた際に、度々『あれ?』と違和感を覚えることがある。
それは、神社関係者の方々、特に巫女さんがあまりイキイキとされていないことだ。……と言うか、明らかに何かに対して不服そうなのである(神聖な佇まいとはまた違う)。
まあそれは、単に神様が、神社の皆さんを通して“我が心の内”を映し見せて下さっているのかもしれないが、つい『お務めの環境が厳しいのだろうか…』『お務めがあまり好きじゃないのだろうか…』『それとも私生活?』などと、老婆心ながら思ってしまうのだった。
余談その3:ご夫婦とのその後
ツアー終了間際に、初めて現地解散であることを知った私。
その時もご夫婦と何となーく一緒に居たので、『帰りも最寄り駅までこのまま一緒なのかしら……』と、新たに育まれつつある素敵なご縁に、ひとり淡い期待を抱いたりなんかしていた。
しかし一方で、『それも気を遣わせてしまうよな~』とも。
そしたら何と!解散の段になって、参加者へのお土産が1個だけ足りないというハプニングが勃発。
その1個は、おそらく急遽参加した私の分であり、慌てた主催者のお一人がどこかへ取りに行って下さったのだった。
しばし他の主催者さんと待機することになった私。
向かい側では、ご夫婦も何となく待って下さっている。(他の参加者の皆さんはすでに帰られた)
それがまた、ごくごく自然な佇まいで、一層ありがたさが身に沁みるのだった。
とは言え、思ったより時間がかかりそう……。
私は欲を捨て、旅のご予定を続けられるよう、割と強めにお勧めした。
対して、示し合わせることも無く、こちらに気遣わしげな視線を送ったまま躊躇されるお二人……。
正直、私はお名残惜しくてたまらなかった。
けれど、この最後の流れで確信したのだ。
『きっとお二人は、このひと時だけに与えられた宝なのだろう』と。
それに、今ここでお別れしても、またいつかどこかで邂逅出来そうな……そんな気もする。
その感覚を信じ、私は更に潔く笑顔で告げた。
「まだまだ時間がかかりそうですし、どうぞ先へ進まれて下さい……。本当に楽しい時間をありがとうございました!」
それでもお二人はしばらく立ち尽くしておられたが、間もなく爽やかにお別れのご挨拶を返して下さった。
元気に手を振り合う我々。私はずっと心で願っていたことを、ちょっと照れながらモゴモゴと言葉にした。
「末永くお幸せに……お元気で!」
お二人に笑顔がこぼれた。
最後の最後まで、本当に素晴らしい出逢いであった。
余談その4:甚だしい余談(この旅の第一目的だったこと)
余談も甚だしいが、この時の旅の第一目的は、本文でも述べたように「とある神社(仮にA)」を参拝することであった。
(その目的遂行のために、アクセサリーの委託販売先を奈良に決めたまである)
では、なんでA神社を目指したのか?
それは、愛読書である「風水開運旅行本」に載っていた、A神社の「祖山さん(御神体)の写真」に猛烈に惹かれたからである。
も~何度見ても「そのお姿から発せられる何か」にどーしてもうっとりしてしまうので、私は確信したのだ。
「こりゃ、絶対に呼ばれとる!熱烈なラブコールを送られとる!」
と言うことで、憧れの祖山さんとご対面を果たしたのだが、意外や意外、非常にあっけらかんとされていた。
「……あ、あれ?もしかして呼ばれてなかった…😅?」
確かに、お姿はほれぼれするほどに麗しく、A神社もとても素晴らしかったのだが、何かこう……相思相愛的な「熱く沸き立つような何か」を感じ取ることが出来ない。
「うーん…気のせいだったか」
己の直感をちょっと残念に思いながら、神社を後にする。
その道すがら、「せっかくここまで来たんだし!」とふと思い立ち、本編の神社にもふらりと寄ってみることに。
そしたら、素敵な出逢いが待っていたのだ。
そう考えると、やはりお呼びはかかっていたように思えてならない。
祖山さん、ありがとうございました!やっぱり大好きです~(≧ ▽ ≦)!