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六月という地点


六月になると、誰かがこう呟く。
「もう、一年も折り返しだね」と。

そこで、私は、今いる六月の地点から、左側を向き、
五月、四月、と、過去を思い出そうとしてみる。

すると、瞬く間に、頑張れていない自分が顔を出して、
六月を歩く勇気が消滅していくような気持ちになった。

もうすぐ夏が来ると、世間は言う。
煌びやかで、賑やかで、皆が走り出すような、夏が。

「勝負の夏」
「今年の夏は、」
「夏で決まる」

夏、暑い夏がやってくるのと同時に、スタートラインに無理やり立たされたような気がした。

パンッと音が鳴って、
皆が一斉に走り出していく。

「絶対に」
という強い意志を持ちながら、夏を駆け抜けて行く。

誰も五月を振り返らない。
私だけが、スタートラインを切れない。

私だけが、後悔という重さで動けない。


そんな時、大きな水滴がピタッと、肌に落ちたんだ。
ポツポツと上から降りてくる水滴に背中を押されながら、早足になる。

次の日には、もしも天国という場所があったならば
こういう色をしているのだろうかと思うほどに、美しい空が広がっていた。

雲の隙間から、なんとも言えない色をした光が差し込む。

まるで、私たちと一緒に人生を過ごしているかのように、
六月は姿形を毎日のように変えていく。

こんなこともあったね、
こんなふうに泣いたよね、
こんなふうになったらいいね、

そうやって思い出話をしているかのように。

スタートラインも、誰が早くて誰が遅いかも、
どこにゴールがあるのか、いつ開始の合図が鳴ったのか、

そんなことよりも、こうして変わりゆく自分がいることが、
何よりも生きている尊さと、言えるのかもしれない、ね。

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