【小説】追葬 十二
「も〜〜〜〜サイアク!! また浮気されたんだけどぉ!?」
バーに通って1ヶ月が経った。
すっかり常連になり、最近はロリータファッションの二人組と親しくなった。彼女たちもまた、異状性癖を持つ。
「聞いてよぅアッキー! あの野郎、ここあ以外に女作ってやがった!」
この店で唯一、暁生を「アッキー」と呼ぶここあは、ゴスロリファッションにカシスレッドの縦巻きツインテールがトレードマークだ。大きな瞳を囲む極太アイラインは、涙くらいでは滲まない。
「浮気されたって……どうせ他にも面会に来た女がいたってだけだろ?」
「それが立派な浮気なんですぅ!」
ここあは犯罪者に恋する、プリズングルーピーである。
凶悪かつ残忍で、起こした事件が有名であればあるほどタイプらしい。彼女の元恋人たちは皆、かつて世間を震撼させた名前ばかり並ぶ。そして浮気の濡れ衣を着せられつつある現在受刑中の彼氏も、このバーの会員だそうだ。
あんなおぞましい人間たちが身近に潜んでいるという事実に、暁生はいつもゾクゾクさせられた。
彼女はまるで現場に行くように刑務所に赴き、チェキを積む感覚で面会する。
この店は、そんな生涯理解できない価値観に出会わせてくれる。
「はぁ〜あ、もう切ろっかなぁ……誰か他にイイ人いないの? 手癖悪くて、前科があればあるほど理想なんだけどなぁ」
「ここあちゃんの好みかはわからないけど、最近うちの大学の先輩も捕まったよ」
「えっ、気になるぅ! 初犯? 前科持ち?」
「物騒な恋バナだなぁ……」
暁生は呆れながらも、この異常な会話を楽しんでいた。
オーナーの虚崎は当然、何も言わない。
「うちの大学で今、裏バイトが問題になってるんだ。先輩含めて園芸サークルが全員逮捕されちゃったの」
フランス人形のようなブロンドの髪を指先で弄りながら、フェムが話を続ける。
フリルたっぷりのヘッドドレスが良く似合うフェムは、女装趣味と露出性癖を持つ、れっきとした男子大学生である。
「サークルメンバーのうち数人が、闇バイトで大麻を育ててたんだって。それも部室で。先輩はそんなの知らなかったのに、大麻所持で一緒に捕まっちゃった」
「学生が裏バイトに大麻ねえ……世も末だこりゃ」
「普通のバイト募集サイトとかアプリに紛れ込んでるから、知らないうちに加担してるケースが多いみたいだよ。高額報酬に釣られて応募しちゃうんだってね」
「あたしくらいになりゃ、金なんてなくてもこうして毎日飲みに歩けるのさ。若者はまだまだ甘いですナ」
「いやいや。それが通じるの、暁生さんだけだから……」
いくらアブノーマルといえど、もちろん違法薬物は禁止されているし、虚崎も表向きは反対している。しかし秘密裏に薬物を持ち込んで行為に及ぶ人は、このバーでは少なくないとの事。
過激で異常なその行為は、安易に想像がつく。
カクテルグラスをゆるゆる回し、ここあはカウンターに項垂れる。
「……そういえば、ここあの職場の人も最近新しいクスリがどーのって言ってたなあ」