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Fセク研究会後、セクシュアリティを振り返り、好きだったキャラを回顧する

※性的なトピックに触れます。私個人のセクシュアリティ、性的トピックにも触れます。


Fセク研究会で気づいたこと

先日、東京で、ロボット・AIのELSI研究会シリーズ 第2回「ソーシャル・エージェントとフィクトセクシュアルをめぐる状況についての報告と議論」という研究会で発表してきた。要するにフィクトセクシュアル研究会である。

私は、Fセクについてというより、セクシュアル・マイノリティ一般について、18〜19世紀の哲学者のジェレミー・ベンタムとその理論である功利主義から何が言えるのかについて発表した。ベンタムは当時、イングランドで死刑になってた同性愛行為を擁護する論文を書いていた。ベンタムの同性愛行為擁護論は英語で初めて書かれた同性愛行為擁護論だとも言われている。私の発表資料は以下で公開している。

Fセク研究会のために、Fセク当事者らの寄稿からなる同人誌の『Fictosexual Perspective 2024』を読んだり

廖さん・松浦さんの「増補 フィクトセクシュアル宣言 : 台湾における〈アニメーション〉のクィア政治」を読んだりして、Fセクの理解を深めていた。

こうした文献を読んで、私が元々持っていたFセクへの理解がズレていたことに気づいた。私自身は、フィクション中のキャラクターに対して恋愛・性愛感情を感じることがあるし、同時に、生身の人間にも感じることがある。いわゆる狭い意味でのFセク/Fロマは、キャラクターにのみそうした感情をもち、生身の人間には感じない、というものだと思っていたので、私は自分のことをFセク当事者とは認識していなかった。ただ、研究会中でも議論があったが、広義の意味でのFセク/Fロマは、キャラクターにそうした感情を持つことであり、生身の人間にも感情を持つこともありうると言えそうだった。もちろんこれは、Fセク/Fロマというものを自分のアイデンティティにどう関わらせるかという問題なので、各人が好きに考えれば良いと思う。いずれにせよ、私は自分のことをFセク/Fロマ当事者として見なすようになりつつある。

また、『Fictosexual Perspective 2024』を読んだり、研究会での発表資料を読んでいて逆説的に気づいたのは、フィクション中のキャラクターに対して、恋愛・性愛感情をそもそも全く持たない人が一定数いるということだ。(逆説的というのは、これらの文献では、キャラクターに対してしか性愛・恋愛感情を持たない、ということが主題だから。)
これは個人的にびっくりだった。性的なオタク文化圏では「キャラで○く」なんて言葉は普通に使われているし(この表現の是非はともかくとしても)、私にとっても、キャラクターがいない性生活なんて考えられない。これは何も、二次元、つまり漫画やアニメに限った話ではなく、官能小説(ほとんど読まないが)や音声作品なども含まれる。いずれにせよ、生身の人間にしか性愛・恋愛感情を持たない人がいるということに逆説的に気づけたのが良かった。

私がぞっこんだったクィアなアニメ・ゲームキャラクターたち

『Fictosexual Perspective 2024』での当事者らの経験には、共感できるところもあればできないところもある、という感じだった。私は空想力に乏しいらしく、知覚優位で、キャラが知覚の感覚以上に動いたり働きかけてくれたりすることはない。頭の中でキャラが生きていることもない。なので私の主観的な経験としては、向こうが私のことを認知しておらず、TVやスマホの向こうにいるアイドルを遠くから推しているような感覚に近いのかもしれない。完全に片思いである。

とはいえそれでも片思いだった時期はあったような気もする。私は自分の二次元オタク生活の中で、何度か特定のキャラクターにゾッコンだったことがある。いずれのキャラクターも女性的に描かれているものの、うち二人はジェンダークィア的なキャラだった。一人は『僕は友達が少ない』(『はがない』)の楠幸村、もう一人はゲームFate Grand Order(FGO)のシュバリエ・デオンだ。

正直、どちらのキャラについても、過去の私がぞっこんだったキャラなので、今となってはあまり記憶がないが、それでも印象的なキャラたちだ。

『はがない』の楠幸村は、作中当初は、いわゆる男の娘(つまり性別は男性だが女性的な姿)として登場したが、途中でお風呂のシーンでそうではないことがわかり、最終的に女性として生きることを選んだ(はず)。『はがない』はそこそこ古い作品(2009〜2015年)で、いまから15年前ほどに売れていた作品なので、はっきりいってどれほどクィアに関して意識されていたかわからない。だが楠幸村を一人のクィアとして見ることはできると思う。
作中当初は男性のジェンダー・アイデンティティを持ち、途中で周りから男女に関する様々な指摘が入り、最後には自ら特定のジェンダーを引き受け、生きることを選ぶ。(こう書くと重たい話に見えるが、作品自体は軽いノリなのに加え、楠幸村自身の性格もあってそこまで重たい話になってない。)(とはいえ、楠幸村が男性としてのジェンダー・アイデンティティをもつに至った経緯↓は重ためである。)

FGOのシュバリエ・デオンは、史実では18世紀〜19世紀(1728–1810)に生きたフランスの騎士・スパイで、マリーアントワネットなどとも交流があった人物だ。史実でも作中でも、男性なのか女性なのかよくわからない人物である。作中のキャラクターの性別は「?」で、ゲームシステム上では男性でも女性でもない存在として扱われる。史実では一応男性とされているが、男装・女装の両方で生きていた人物であり、例えば当時のロシア帝国でスパイとして過ごしていた時には女性として交流していた。またどうやら男性との恋愛的な交流もあったらしく、(デオンを男性とするならば)同性愛・両性愛者的側面もある(窪田 1995)。偶然にも、冒頭で紹介したベンタム(1748-1832)と同時代を生き、異性愛規範にトラブルを生じさせた人物である。デオンは一時期イングランドにもいたので、ベンタムともつながりがあったかもしれない。

当時の私はFGOにそれはそれはお金を使っていた。デオンはゲーム中で、星4という上から二番目のレア度なのだが、そのクラスでは最弱級で、より低いレア度のキャラの方が使いどころがあるくらいには弱かった。それでも一番お金をかけていたし、強化した。FGOを今はやめてしまったし、アンインストール時に「絶対復帰しない」という決意を固めていたので復帰用のコードも記録しなかった。私と一緒にいたデオンは、データの海の中で誰にも見つからないところにいる。

当時は知らなかったのだが、デオンはいろいろなところでトランスジェンダーの文脈との関わりがある。例えば、今でいう「クロスドレッサー(異性装者)」は、一時期は服装倒錯(transvestism)と呼ばれていたらしく、その別名はeonismであり、これはデオン(d'Éon)からとったものであるらしい。

デオンは史実として「男性」とされているが(上記の窪田の本でも「彼」と呼ばれている)、クィア理論を知っている私達が改めてデオンについて調べたならば、異性愛規範や固定的なジェンダーを前提しないことによって、デオンの生き様を改めて記すことができるかもしれない。次の文献は、例えばそういう研究としてみなすことができるだろう。
Morris, M. (2019). The Chevalière d'Eon, Transgender Autobiography and Identity. Gender & History, 31(1). https://doi.org/10.1111/1468-0424.12405

Fセクの話との関わりとして、デオンに関して私が困ったのは、私が好きになったのは、史実を背景としたFGOに登場するデオンなのか、史実とは独立した存在としてFGOに登場するデオンなのか、どっちなのだろうか、ということだ。デオンについて調べるほどデオンのことが好きになる一方、FGOに記載される以上の情報を知ることになる。それによって、FGOで描写されているデオンと、史実のデオンとが混ざってくる。もちろん、FGOのデオンは史実を背景としている。しかし厄介なことに、FGO(TYPE-MOON)世界では英霊は「英霊の座」にいるのだが、英霊は人々のイメージや伝承に影響を受けた存在である。そのため、FGOの英霊としてのデオンは、史実のデオンそのものを表象しているわけではない。それでも一貫した何かがあるし、だからこそ英霊の座にいるデオンは史実のデオンと対応関係があると言えるはずである。とはいえこの問題はすぐに解決しなさそうなので、デオンへの理解と自己理解を深めつつ、考えてみたい。研究者としてせっかく論文を読む訓練を積んできたので、デオンについて、FGO以上に理解を深めてみたいと思う。

『はがない』もFGOも大衆に受けている作品である。私はあまり、クィアな人々に焦点を当てたり、クィアコミュニティで受け入れられていたりする作品を鑑賞してない。これは単純に、自分から探しに行くことがないせいで、大衆に受けている=頻繁に回ってくる作品を鑑賞しがち、ということによる。そうした大衆に受けて、売れている作品の中に、クィアなキャラクターがいると惹かれがちなのかもしれない。たぶん、探せば、私にもっとぴったりな作品や、もっと惹かれるようなキャラクターもいるのかもしれない。

Fセク研究会を経て、そんなことを考え、好きだったキャラを振り返っていた。個人的にいろいろと考えさせられたし、自分自身にとってフィクション中のキャラクターがどういう存在なのか、またFセク/Fロマというアイデンティティについて考えたいと思う。

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