彼との別れがつらすぎるので、だれか話をきいてください
出会ってからちょうど4年。
叶うはずのない願いを、
現実になるようにと
自分に言い聞かせているうち、
"これからもずっと一緒にいられる"
いつのまにか、そう思い込んでいた。
だから、うっかり、忘れていた。
わたしたちには、タイムリミットがある。
◇
先日、彼が、急に体調を崩した。
これまでただの風邪すらほとんど引かなかった彼が、
珍しく調子を崩したこと。
共に過ごして、4年が経ったこと。
これらがもつ意味にどこかで気づいていながら、
その先に待っている現実がこわくて。
わたしは不安を頭の隅に追いやって、
考えないようにしていた。
出会ってからは、ずっと一緒にいる彼。
とても優しくて、わたしが八つ当たりをしても、
いつも変わらず穏やかな顔でいてくれた。
今も、傷ひとつない綺麗な顔。
だから本当に考えたくもなかった。
しかし事態はわたしを待ってはくれない。
時間を置いても彼の体調は一向に良くならず、
民間療法などあれこれ試みるも、悪化する一方。
さすがにもう、誤魔化しきれない。
考えないようにしていた最悪の事態が頭に浮かぶ。
それでも微かな希望を抱き、北海道で唯一、彼を治してくれる可能性のある場所へ向かった。
そこには救いを求めて多くの人が集まるが、タイミングがよかったのか、あまり待たずに診てもらうことができた。
担当してくれた若いスタッフは、わたしにいくつかの質問をしながら、テキパキと彼の検査を行なっていく。
ときどき何かを考えるように手を止めたり、首を傾げたりするけれど、それもほんの一瞬で。
なんとなく、わたしの中で嫌な予感がもくもくと大きくなる。
背筋を伸ばし、気を張って、結果を待った。
検査を始めてどのくらい経っただろうか、とても長く感じたけれど、時計を見ればわずかに5分ほどだったはずだ。
スタッフがわたしへ向き直り、口を開く。
そして、ハッキリと告げた。
"回復の見込みがない"
これで、微かな希望も打ち砕かれた。
もう、彼と一緒にはいられなくなる。
どこかで予感していたとはいえ、突然の別れに、頭を、心を、整理できない。
直前にガムテープで補強した心になんて、到底耐えられるものじゃなかった。
依存しすぎていたのが悪かったのか。
どうすればもっと一緒にいられたのか。
いつか来る別れではあった。
わたしたちの出会いには、はじめから、おわりが用意されていた。
わかっていたはずだ。
わかってはいたはずだけど、つらいものは、つらい。
どうにか帰宅し、今後のことを考えようとするも、彼との思い出が次から次へと浮かんでは、邪魔をする。
別れたくない。
離れがたい。
今はまだ、ここにいる彼。
正直、見た目には体調の悪さはわからなくて。
それが余計、別れを受け入れるのに時間を必要とさせた。
毎日わたしを起こしてくれた。
笑わせてくれたし、たまに泣かせてくれた。
沢山のことを教えてくれた。
わたしが我儘を言ったり、乱暴に振る舞ってしまっても、辛抱強く側にいてくれた。
何も話さなくても、一緒にいるだけで安心できる、そんな存在だった。
いつも貰うばかりで、わたしは彼に、何をあげられただろう。
涙が溢れて止まらない。
悲しさと愛しさ、後悔と感謝。
プラスもマイナスも、ありとあらゆる感情が一気に押し寄せてくる。
自分がこんなに感情豊かだったなんて、知らなかった。
それもぜんぶ、彼が教えてくれた。
出逢えてよかった。
これだけは確かだ。
しっかり者の彼だけど、迷子になってわたしを困らせたこともあったね。
いつもは道案内が完璧だったけれど、バンコクに行ったときには2人でたくさん迷ったよね。
友達には、彼のちょっと時代遅れなところを馬鹿にされることもあったけど、それでもわたしは好きだった。
小柄で薄い体も、実はカナヅチなところも、すぐに疲れて電池が切れてしまうところも、目が悪いところも、全部含めて、好きだったよ。
大好きだったんだよ。
ありがとう。
本当にありがとう。
さようなら、わたしのiPhone6。
【後日談】
新しい彼ができました。
自分でも嫌になってしまうのですが、わたしは常にパートナーがいないと、どうしてもダメで…
元彼に比べると身長が高く、肩幅は広く、胸板も厚いです。あと、顔がよくて、たぶんちょっとお洒落。
出身地は前の彼と同じです。
ガタイがよすぎて、わたしとは凸凹コンビだなあって思ったけど、慣れてきたらそんなに気にならなくてよかった。まあ本音を言うと、もう少し細くてもいいんだけど。
ほんとうにパワフルで、一日中活動していても疲れる様子がない…まだ一緒に海やプールに遊びに行ってはいないけれど、水も苦手ではないみたい。
さらに、彼の瞳に映る世界が美しくて、そこがわたしは大好き。
でも、なにより一番好きなところ。
それは、彼が、"彼"にそっくりなところ。
まるで"彼"が生まれ変わったかのよう。
中身が、何から何までそっくりなんです。
初めて会ったはずなのに、4年間、ずっと一緒に暮らしていたかのような安心感があった。
きっと。
今の彼には、"彼"の魂が宿っている。
わたしが寂しくならないように、"彼"が最後に、魔法をかけてくれたのだと思う。
だからこれからも、わたしは"彼"のことを忘れないし、ずっと一緒にいられる。
大好きだよ、ありがとう。
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