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ある何も予定の無い日(2024.8.9)

 10:08に目が覚めた。今日から10連休である。目はぱっちりしていたが、起き上がって一階まで降りていくのはまだ面倒で、仰向けに寝転がったまま枕元に腕を伸ばして薄めの文庫本を掴みぺらぺらめくった。田辺聖子の『孤独な夜のココア』という「実家暮らしの朝」の対極にあるようなタイトルのものだ。恋愛小説なのだけど書いた人が当時80歳を超えていたから感覚のずれがかなりあり共感しきれないが、刺激のない内容かつさらさらした文章で書かれていてお菓子をつまむ感覚で読めるので勝手がいい。2編さくっと読んだ。20分経っていた。

 バキバキというパワフルな鳴き声でおはようを言う身体を起こして1階に下りる。うがいをする。手を洗う。コンタクトを入れる。コーヒーベースと牛乳で、氷を入れたグラスにコーヒー牛乳を作る。グラスを片手にソファの方へ移動するがてら、水屋に突っ込んで保護しておいたパンを取り出す。昨日の仕事終わり三ノ宮で途中下車して買った、イスズベーカリーの「パンスイス」。サクサクのクロワッサン生地の中にショコラのダマンド生地が入っている。バターの風味もしっかりあって、これがコーヒー牛乳と合う。パンを食べたあとは冷蔵庫で冷えてたスイカをがぶがぶ食べた。

 そのあとまた2階に上がり布団の上で仰向けに転がり、20分ほど時間の流れを肌で感じようとしたあと10分ほど虚無を実感し、そのうち耐えきれずにまた枕元に散らばっている本に手を伸ばした。枕元には、読んでいない本と漫画が8〜10冊くらい散らばっていて、それらを交互にぺらぺらやっているうちに2時間経っていた。いつも知らない間に予定がぱんぱんだからこう何もない日が珍しく、今日はずっとこれでいいかと思ったが、同じ場所にいても飽きるし、昼下がりは駅のスタバに移動して本を読むことにして、最低限の出かける準備を整えた。

 最近増築されたスタバは広々として居心地がいい。壁側のソファに座って、店内を人が行き来するのを見ながらアイスコーヒーを飲む。スタバのアイスコーヒーのほどよい酸味は、さりげないオシャレみたいに抜けた感じがしてチェーンのアイスコーヒーの中ではいちばん好きだ。だから暑い時期はよくスタバに来る。
 しばらくのんびりしてから、紙袋に入れてきた本と漫画を読み読み、進めている文章を書き書き、たまに友達LINEし、SNSを見、としている間に5時間経った。
 最後の1時間は熱中して岡崎京子『pink』を読んでいた。この間読んだ『ヘルタースケルター』がとても良く、読み終わった直後に今回の『pink』をネット注文した。ヘルタースケルターの女も、pinkの女も、身勝手で、がめつい。そしてどちらも切羽詰まっている。自分にとって一番大切なものを守るために切羽詰まっていて、それ以外を全て捨てたから切羽詰まっている。そのギリギリ感がかっこよくて、美しくて、私は魅了される。

 帰る頃にはすっかり暗かった。空に星があることを思い出して見上げると、細く凛とした三日月まで見えた。低空の三日月は真っ黄色で、濃紺の空に映えていた。ニュースでは地震の話が沢山されていて、町では2リットルのペットボトルが消えていて、不穏。そういえば明日のことや1秒後のことって何もわからないんだった、という気分。でも、こうやって本や漫画が面白くて、コーヒーが美味しくて、三日月が綺麗なことは確かで、それだけ見つめてるか、と思った。

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