多彩なロック・シーンを彩ったソフト・ロックやオーケストラ/バロック・ポップとその職人気質な作家たち
今日、ご紹介するのは、ソフト・ロック、オーケストラ/バロック・ポップと呼ばれる音楽ジャンルです。
同ジャンルの音楽的な特徴は、コーラスや弦・管楽器の多重録音による壮麗且つ実験的な音作りや編曲であり、その源流となるのは、フィル・スペクターやバート・バカラックなどに代表されるニューヨークの職人気質の作曲家/プロデューサーにあたります。
同ジャンルにおけるSSWあるいはバンドは、先日、ご紹介したビートルズの『サージェント・ペパーズ~』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』の衝撃とその余波もあり、これまでのポップ・ミュージックの形式にとらわれない作品を創作しました。
ソフト・ロックやオーケストラ/バロック・ポップの作品は、90年代以降、米国において再評価され、また、興味深い事に、日本の渋谷系ミュージシャンらによって発掘もされました。幾分マニアックではあるのですが、60年代における多彩なロック・シーンを彩った確かな傑作が揃う重要なジャンルの一つとして位置付けておきたいです。
『Reach Out』/Burt Bacharach(1967)
作品評価★★★☆(3.5stars)
アカデミックな素養を持ったこのドイツ系ユダヤ人の作曲家/プロデューサーは、60年代、多数のヒット曲を手掛け、巨人フィル・スペクターと並び、同時代における米ポップス・シーンを最も代表する職業作家の一人となった。
今作は、バート・バカラック自身が発表したいわゆるセルフカヴァー集であり、秘蔵っ子であるR&Bシンガーのディオンヌ・ワーウィックの珠玉のバラードを中心に、原曲とは異なる軽やか且つ緩やかなオーケストレーションによる編曲を楽しむ一枚に仕上がっている。
同時期、英国における成功を収めていたバカラックは、もう一人の秘蔵っ子ダスティ・スプリングフィールドを花に添え、映画『007/カジノ・ロワイヤル』のサントラを手掛ける事となった。そして、それは、長きに渡った御大のキャリアにおいて最もスリリングな瞬間であった。
『Begin』/The Millennium(1968)
作品評価★★★★(4stars)
西海岸LAを拠点に活動していた7人のミュージシャンらによって結成されたこの無名のグループが残した唯一のスタジオ・アルバムは、同時代におけるフォーク/サイケデリック・ロックの美しい結晶となった。
レコード会社の協力の下、いわゆる一つのプロジェクトとして制作された今作は、フォーク界隈のSSWたちが招集された事で優れた楽曲が集まり、そこへ首謀者のカート・ベッチャーによる完璧主義的なサウンド・メイキングが重なり合う事によって、高い完成度を誇っている。
ミレニアムによって創作された瑞々しくもどこか奇妙でもある世界観は、後にサンシャイン・ポップと名付けられ、90年代以降は、チェンバー・ポップ勢へ影響を与え、同ジャンルを通過した耳にこそ、より沁みるものがある。
『Song Cycle』/Van Dyke Parks(1968)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
ワーナーブラザーズ及び同社の幹部レニー・ワロンカーに見出されたこの若きSSW/プロデューサーである青年は、ビートルズが牽引するシーンの現状を踏まえ、一枚の怪作を創作した。
米国の過去のポピュラー音楽を包括したヴァン・ダイク・パークスの処女作は、交響楽的なオーケストラの手法と同時代的なアレンジ・ワークによって制作され、同作家は、古き良き資本主義における豊かな時代を妙に奇矯な一枚の風景画として提示した。
00年代以降、オーク・ポップの巨匠は、ブライアン・ウィルソンやインディ系SSWとの共同作業によって、改めてその名を世に知らしめ、バーバンク・サウンドの再評価を得た。70年代に発表された次作やはっぴいえんどとの共作も興味深い。
『Scott』/Scott Walker(1967)
作品評価★★★★(4stars)
ウォーカー・ブラザーズとして名を馳せた貴公子は、グループ解散後、それが必然であるかのようにSSWとしてのキャリアを歩み始め、その潜在していた才能を大きく開花させた。
矢継ぎ早に放たれた四部作の幕開けを飾る事となったこの作品は、勇ましいボーカリゼーションと華やかなオーケストラによるロマンティシズム溢れるバラードが惜しみなく披露され、バロック・ポップにおける決定的な作品の一つに仕上がった。
スコット・ウォーカーは、今作以降、アート色が濃くなり、独自のスタイルをより確立させ、後年におけるオルタナ/インディ世代による熱狂的な支持へと繋がっていく。ロック史における最も傑出したボーカリストの一人を挙げるとするならば、この偉大なシンガーの名を挙げておきたい。
それでは、今日ご紹介したアルバムの中から筆者のお気に入りの楽曲を♪