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大衆性と実験性を引き継いだアート・ポップとパワー・ポップ

©English Wikipedia

今回、ご紹介するのは、アート・ポップとパワー・ポップです。

70年代前半、多様化したロック・ミュージックは、並行するあらゆるジャンルが進展を遂げる中、ビートルズやビーチ・ボーイズらが形成した芸術性と商業性を併有させたスタイルを引き継ぐSSWやバンドも現れ、同シーンにより多層性をもたらしました。

60年代半ば、ロック・シーンを牽引するザ・フーのピート・タウンゼントは、自身のバンドをポップ・アートと公言し、自身の音楽をパワー・ポップであると表現しました。

同時代から歳月を経て、音楽ジャーナリストらによるロック・ミュージックとその推移に関する様々な再考察を経て、同時期のフーが発表した『The Who Sell Out』は、アート・ポップやパワー・ポップの象徴的な作品として位置付けられる事となります。

主に60年代半ばからキャリアを積み重ねていたアート・ポップやパワー・ポップの作家たちは、観念化や産業化の傾向がみられる70年代前半のシーンにおいて、大衆性と実験性のバランスが保たれた作品群を創作しました。

両ジャンルの成り立ちやアプローチは異なれど、ロック・ミュージックが宿すポップな性質を重視した音楽的なスタイルやアティチュードは、後のオルタナ/インディ世代以降にも受け継がれ、各時代/世代において好盤が生み出される事となりました。

『Elton John』/Elton John(1970)
作品評価★★★★☆(4.5stars)

ロンドン郊外の公営住宅で育った神童ピアニストは、音楽理論を会得した王立音楽院での養成期間とバディ・ホリーに扮したナイトクラブでの下積みを経て、やや出遅れながらも、その印象の強いステージネームでデビューを果たした。

エルトン・ジョンの出世作となったこの2ndは、ガス・ダッジョンのプロデュースで制作され、盟友/バーニー・トーピンによって紡がれたドラマが歌われる職業作家的な優れた楽曲は、ポール・バックマスターが書き下ろしたバロック調の編曲と重なり合い、風格あるポップスへ昇華された。

国際的な規模での商業的成功を収めたエルトンは、内向きな人格の裏に隠れていたタレント性を発揮させ、ボランやボウイとは異なるストレンジなグラム・ロッカー像を形成し、同期の天才的な作家/スティーヴィーに比肩する驚異的かつプログレッシブな創作力を見せつけた。

『10cc』/10cc(1973)
作品評価★★★★(4stars)

マンチェスターのスタジオで活動していた4人のミュージシャン達は、いくつかの前身グループを通じて少なくないヒット・ナンバーを世に送り出していたが、遅まきながら一つの優秀な音楽集団として改めてシーンに参入した。

10ccの出発点となった今作は、自ら設備投資したスタジオでセルフ・プロデュースで制作され、傑出したソングライター達の手法に精通する彼らは、モダン且つ緻密なサウンド/アレンジ・ワークの下、諧謔的なパスティーシュを披露した。

混沌とした様相を呈するシーンにおいて独自の立ち位置を確保した10ccは、米国での成功を視野に入れつつ、ポップ派のスチュアート/グルードマンと実験派のクレーム/ゴドレイによるバンド内の派閥を機能させ、プログレッシヴな発展を遂げていく。

『Runt』/Todd Rundgren(1970)
作品評価★★★★(4stars)

ローカル・バンドであるナッズから独立したこのフィラデルフィア出身の青年は、70年代初頭、プロデューサー/エンジニアとして業界で頭角を現し始めたが、その溢れる才気は、自身の作品の創作へ既に向かわせていた。

リリース当初、ラント名義で発表されたトッド・ラングレンの処女作は、実質マルチ・プレイヤーを務める一人のミュージシャンによって制作されており、ハード・ロックやブルー・アイド・ソウルやアヴァン・ポップなど幅広く手掛けるこの作家は、同時期のマッカートニーとも異なる異色の箱庭を提示した。

自身の代表作である二枚の二枚組アルバムを発表したトッドは、ソロやユートピアを通し、やはりプログレッシヴな方向性へ向かっていくと同時に、ニューヨークのスタジオにおいて数多のプロデュースも引き受け、音の魔術師としてあらゆるジャンルでタクトを振ってみせた。

『#1 Record』/Big Star(1972)
作品評価★★★★☆(4.5stars)

ブリティッシュ・インヴェイジョンの衝撃を受けた二人のティーンエイジャーは、各々、地元メンフィスでのバンド活動を経て、70年代初頭、後にオルタナ世代からカルト的な支持を集める事となる一つのロックンロール・バンドを結成した。

ビッグ・スターの1stは、プロデューサーであるジョン・フライが創業したアーデントで制作され、アレックス・チルトンとクリス・ベルという名の二人の主役は、ブルー・アイズド・ソウルの流れを汲むハード・ロック/フォーク・ロックを鳴らし、そこへビートルズやバーズのような魔法を宿らせた。

チルトンとベルは、商業的な失敗を受け、袂を分かつ事となり、それぞれドラッグに苛まれたが、彼らが遺したある意味未完成のアーカイブスは、やがてオルタナ・ロックの原石となり、次の世代へと受け継がれ、在るべき形として再構築される事となったのである。

それでは、今回ご紹介したアルバムの中で筆者が印象的だった楽曲を♪


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