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私は世界を知らない


無いものは書けない。
街の様子がどんなで、だれかれの家の細かいところがどうなっているとか。それは私には存在しない。
周囲の人間のくだらない会話が無い。
無いから、私は書かないのだ。

私は、「世界」がたぶん嫌い。
私はずっと、私の庵にいる。
あと、夢は私の庵。

建て上げてしまったの。作り込んでしまったの。私を守るために。多くのものは排除された。そもそも、排除されるまでもないんだけど。
その結果、とても幸せ。でも私には、世界がない。

私には音楽がないし、小説がないし、タクシーがなければ、酒もないし、仲間もない。
でも私には、ともに生きてきた音楽があって、夢みたいな小説があって、タクシーはまあ、あんまないけど、思い出深い酒があって、庵にだけ、仲間がいる。

私には、YouTubeも、テレビも、雑誌も、東京も、ファッションも、ツイッターも、学校も、セックスもあるのに、世界がない。

街では何も起こっていないし、サラリーマンの心の声なんて聞こえないし、テレビの報道の音なんてしない。

せいぜい、私は庵の煙草を吸っているの。
でもなぜか、もう間に合ってるの。




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