正統派フランス料理のエッセンスを観た映画「バベットの晩餐会」
映画(バベットの晩餐会)(ネタバレありです)
午前十時の映画祭で観た食をテーマにした映画で、この映画祭での上映リストに入るぐらいですから、もはや名作といえる作品です。実は先日「ポトフ 美食家と料理人」を観たばかりで、同じ食をテーマとした映画ということもあり、比較しながら観ることにしました。
物語はデンマークの片田舎で暮らす牧師の娘である姉妹の元に、フランス革命で追われたバベットが使用人として住み込むことになります。亡き牧師を偲ぶ晩餐会での料理を、バベットが調理して村人に提供したいとの申し出から、その晩餐会の様子が描き出されます。
牧師の娘である姉妹は、敬虔なカトリック教徒ですから清貧を常とし、それは食生活についても同様で質素な食事を心掛けています。一方フランスからやってきたバベットが作る料理は正統派のフランス料理で、世界の3大料理と称されるように材料にも贅を尽くしたものになります。
それは海亀のスープであったり、うずらのパイであったりする訳ですが、そうした材料も一切バベットが自費で仕入れたものであり、この巨額な材料代にもちょっとしたオチがありました。メインのうずらのパイを始めとして、どの料理もパリの一流レストランで提供されるレベルであり、こうした片田舎には似つかわしくない程の本格的なコース料理です。
晩餐会の当初は、清貧を重んじる姉妹を始めとして村人たちも料理の話題には触れないようにしようとしますが、料理が進みワインを飲み続ける内に、そうした料理の美味しさ、素晴らしさを味わいながら実感することになります。
食をテーマにした映画はこれまでもありましたが、これほど調理のディテール(細部)を描きながら、料理をメインに据えた映画は中々なかったのではないかと思います。
晩餐会はテーブルのセッティングから始まります。先ずテーブルクロスをかけて、次にワイングラスやスプーンやフォークをセッティングし、次にテーブル中央のろうそくに灯りを灯す。
食には単に食べるだけではない、生活の一部としての食生活という言葉があるように、料理にも多くの生活観や歴史が反映されています。
先述した「ポトフ 美食家と料理人」で、美食家が、料理にはストーリーと歴史がなければ食べる価値がないと述べていましたが、正に主人公のバベットが提供した正統派のフランス料理にも、歴史と物語が包摂されていると感じました。西洋料理の主流であるフランス料理のエッセンスを観たような気分になった映画でした。(写真は公式サイトより引用しました。)