AIによって変わる社会で生き残る仕事の指南書「10年後のハローワーク」
本(10年後のハローワーク)(長文失礼します)
AI((人工知能)の登場により、10年後の仕事がどのように変貌するかを推測して解説した本です。筆者の川村秀憲さんは長年人口知能の研究を続けている北海道大学大学院の教授で、専門家から見たAIで変化する社会の10年後を予想しています。
最初に筆者が掲げるのは、AIに何かを奪われるのではなく、AIと共存しながら快適に生きていけるようにしたいとのことで、AIとの共存を前提としています。
さらに筆者が解説するのは「仕事は「意思決定」と「作業」に分類され、このうち「作業」に関しては、相当部分がAIに取って代わられる」とし、さらに「「自分で何をするか決める仕事」は残り、「人から言われてやる仕事」はAIに取って代わられる」としています。
これが意味する所は、AIは膨大なデータを学習することにより、そのデータに基づく事象を生成しますが、一方AIには意思がなく、意思決定ができないシステムになっており、これは人間がやるべき仕事として残るというものです。
第2章は、業種別に10年後の仕事におけるAIのシェア(占有率)を示したものですが、最初は業種別といいながらも、全業種のホワイトカラーが取り上げられており、その多くがAIに取って代わられるとしています。AIにとって最も得意な仕事は習慣化、ルーティン化されたものであり、ホワイトカラーの多くの仕事(知的労働といわれたもの)がこれに該当するものであると結論付けています。
プロジェクトを遂行するための資料の収集や参考資料の要約、資料を基にした最新状況の把握など、従来有望な若手社員が行ってきた作業もAIが最も得意とするものであり、こうした資料を基に、あとは上司である人間が意思決定をするだけとなります。
次に業種別でシェアが最も多いのは金融の90%で、この業種は従来安定した仕事との認識がありましたが、その仕事内容は銀行であれば、融資のための財務状況や過去の融資物件の把握などのデータ収集はAIが最も得意とする作業であり、証券会社での金融商品も過去のデータやトレンドを参考にした物が多く、これも同様の状況となります。
逆にシェアが低いのがスポーツ・エンタメの30%であり、これは最も属人化した業種であるからと説明しています。組織ではマイナスとなる属人化は個人特有のスキルであり、例えば大谷選手と同じスキルのAIが登場しても人々が感動するかは疑問であり、生身の人間が行うからこそ価値があると説いています。
さらに最もシェアが低いのがサービスの10%で、大谷選手より分かりやすい例として、スナックのママがAIの取って代わられることは考えにくく、客は効率的な対応などではない、ママさんとの会話を楽しみに来ているのであり、こうした仕事はAIには適しさないということです。
スナックのママをヒントにすると、今後生き残れる仕事は、AIを活用したスモールビジネスとなってきます。AIの活用は最初に書いたAIとの共存であり、これまで単調でやりたくなかったルーティン化した仕事はAIに任せて、人間は好きなことをやりながら意思決定をしていく。
つまり嫌な仕事はAIにさせて、自分は好きな仕事をやるという、現在AIに仕事を奪われるといった危惧とは真逆の予測であり、それをAIの専門家が提唱している点が非常に興味深いものであると思います。
筆者は自己肯定感を持ち得る子供の教育の重要性と、社会人のリスキリングの重要性についても述べています。
従来の教育の価値観が、同じような能力を点数化して競うコンセプトで、その集大成にホワイトカラーが存在したのに対し、これからは子供の個性を伸ばす興味あるものへの実践で得る自己肯定感が、最も肝要であると説いています。
さらに社会人のリスキリングも、転職サイトなどで外部の評価を受けるプロセスに、自らをさらすことで、何が自分に必要なのか、何をやりたいのかその方向性を探し出すことが可能であるとしています。
AI社会においては作業の効率化が進むので、労働者側よりも資本側が儲かるシステムとなっていくとして、経営者サイドからの視点が必要になると述べています。
AIで変化する社会に対応しやすいのは、「判断(意思決定)のセンスに長けた人」と、筆者は結論付けていますが、AI到来による漠然とした不安の中でも、プロによるAIと共存しながら快適に生きていけるような指南書を読了して、私自身も少しは前向きに未来と向き合える1冊に出会ったと思いました。